うつり木26 パンドラの箱

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うつり木26 パンドラの箱

3人が数珠を持ちそれぞれの顔を見て頷く。 その時だ背後から革靴がアスファルトを蹴る音がして白髪でオールバックのスーツ姿の男が水川に深く頭を下げた。あまりにも場違いなその光景に虚を突かれた沙織は「だれ」と声を上げていた。 水川はマユ一つ一動かさずに「久しぶりだな櫻葉」と言った。櫻葉と言われた男は沙織と悟にも深く頭を下げ、「警視正の櫻葉です」と言った。悟は頭をフル回転していた、警視正は警察庁でもかなり上の位で、この現場に人が居ないのもこの人の力なのか。「黒川さんですね」悟は驚いた、名を呼ばれたからだ。 「お父様には何度も助けられました」悟の頭の中で点と点が繋がった。父は政府筋の仕事も受けていた、その中には要人の警護も含まれていたのだろう。 水川が手短に「あれは持ってきたのか」と聞いた。軽く櫻葉は会釈してポケットから紫の布に包まれた物を手渡した。 水川は素早くそれをたもとにしまうと「これからここは修羅場になる、櫻葉なるべく他の人達も遠くに」そう言った瞬間地面からズボッと何かが突き出して水川の目前で止まった。「根だ、硬く尖った根」目の前の光景に沙織は恐怖で足が震えていた。水川は不敵な笑いを浮かべ言った「ここまでは届かないお前の邪念は、覚悟しろ我が命を賭して祓ってやる」 櫻葉は表情一つ変えずに「後は頼みました」 と言い、沙織と悟にも頭を下げその場から走り去った。水川は言った「悟くん、君の父さんが祓った傀儡の話は覚えているか」 忘れるはずがない、父の命を奪った化け物だから。「沙織さん、悟くん私はこれからパンドラの箱を開ける」
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