うつり木28 意思

1/1
前へ
/173ページ
次へ

うつり木28 意思

「さ ち」はイラついていた。 目の前にご馳走があるのに手を出せない。根を突き刺そうとすると弾かれる。「結界か」 あの老人だ、確か水川とか言ってたな。 あの女も男も結界から外には出ない。 だが弱っている、老人は。「もう少しだ、もう少しであいつらに根を突き刺し滴る血を思う存分味わう」想像しただけで喜びが体を震わせた。 「ど ど ど ど」地面が更に大きく揺れる。悟は水川を横目で見る。明らかに弱っている。猫背になり数珠を持つ手が震えていた。呪文を唱えながら「大丈夫ですか」と声をかける。「集中しろ、わしは大丈夫」だが水川自身も分かっていた。長くは持たないと。長き戦いで傷付いた体が悲鳴を上げている。できれば倒れ込みこのまま死を待ちたい。その時だ突然の雷鳴、目の前の閃光、そして稲妻が落ちた「さ ち」に。 焦げる匂い、裂けた幹、そして水川、悟、沙織の耳に声が聞こえた。「影は影へ、邪は邪へ、怨は怨へ、帰るべき所に帰れ。我が力を持ち封印す。御 御 御 御」父さんだ、悟は直感した、何故だか分からないが亡くなった父が直ぐ隣に立ち力を放っている。 悟の目から涙が落ちた。
/173ページ

最初のコメントを投稿しよう!

62人が本棚に入れています
本棚に追加