うつり木29 戦い

1/1
前へ
/173ページ
次へ

うつり木29 戦い

水川は覚悟を決めていた。 己が体がこの祓いで朽ち果てようとかまわない。だから敢えて禁じての呪物を持ち込んだ。悟君は気が付いているのだろう。 何度かこちらに視線を送っている。 「すまない黒川」心の中でそう呟く。 沙織と悟は何があっても死なせるわけにはいかない。跡を継ぐもの、それは祓う力を持つものの宿命だった。 人の世が殺伐とし、隣で人が死んでも無関心な世の中。それは邪にとって願ってもない世なのだ。現に「さ ち」の前で人が何人命を落とそうとニュースにはなるが数日すると皆忘れてしまう。だがその裏で命をかけて戦う者達がいる。「術師」「祓う者」何となく認識されている彼らの名称。だけど彼等一人一人に命があり生活があるのだ。そして普通の人間なのだ。悟や水川の体に刻まれた傷がその証拠なのだから。
/173ページ

最初のコメントを投稿しよう!

62人が本棚に入れています
本棚に追加