恐ろし

1/1
62人が本棚に入れています
本棚に追加
/167ページ

恐ろし

道祖神 普段は意識しないし、知らない人も多いけど、田舎のあぜ道の交差する箇所に、小さな石標がポツンと立っている。あの世とこの世を分ける印がその道祖神。昔の人は、道祖神を跨ぐ時には、手を合わせたり、魔の刻には跨がなかった。それを知らない子供が、道祖神を跨ぎ行方不明になる。それを「神隠し」として恐れた。 健二と美咲と修二と花梨はそれぞれがカップルで、今日は健二の車でドライブに来ていた。目的の温泉までナビを頼りに走ってたが、気がつくと、細いあぜ道に入り込んでいた。美咲が「たく、このナビマジつかえねー」と悪態を吐くと、健二が「かしいなぁ、最新式なんだけどな」。修二が「なんか暗いし、寒くね」と腕をさすった。月は8月をまたぎ、真夏日のはずなのに。花梨の顔色が悪いのに、美咲が気が付いた。「ねえ、大丈夫?顔真っ青だけど」。花梨は小さな声で「頭痛くて、気持ち悪い」と言った。修二が、「今日は諦めて、帰ろうぜ。またこれっからさ」と。美咲も「そうしよ、無理することないじゃん」と健二に言う。健二が、「そうすっか、なんかこの道暗いし、気味悪いもんな」。その時だった、ガリっと嫌な音がした。車が何かに擦れた音だ。「たく、買ったばっかだぞ」とクラクションを乱暴に鳴らす。「やめなよ、花梨頭痛いんだからさー」と美咲が怒鳴った。「まあまあ、とりあえず車降りて見てみようぜ」修二のその言葉で、皆んな少し冷静になれた。車を止め、健二が懐中電灯を持ち、修二と一緒に降りた。「あちゃーこりゃかなり擦ったな」修二の声がした。「でも何だこれ、なんかの墓か?」健二が首をひねる。懐中電灯を近づけると、うっすらと「神」の字だけがかろうじて読み取れた。「ガチャ」何かを落とす音がして、2人の声が聞こえなくなった。美咲が窓を開けて「傷はしょうがないでしょ、早く行こうよ」と2人に向かって言った。無言、「ねえ健二聞こえてる?」しばらくしても返事がない。「花梨が頭痛いよー」と泣きそうな声を出した。その瞬間、「バーン」と凄まじい音がして、全てのドアが開いた。「キャー」花梨が悲鳴を上げた。「ずっ」何かを引きずる音がした、隣を見ると、美咲の姿がない。「ギャー」花梨が大声で叫んだ。「ガッ」何かが足を掴む、凄まじい力で、次の瞬間花梨は必死でシートベルトを掴んだ。「ボキ」何かが折れるような嫌な音がして、花梨の姿も消えた。 次の朝、野次馬が取り囲む中で、警官が首を捻りながら、「なんなんだ、これは」と、窓が全て開き、真っ二つに引き裂かれた車体を見ていた。「おまわりさーん」子供が少し遠くを指差してる、「なんだろこれ?大きな蛇でも出たのかな?」見ると、林の方に向かって、同方向に四つ何かが引きづられた後が付いていた。 警官が車の時計が止まっているのに気が付いた、17時を指していた。「魔の刻じゃのお」老人がポツリと呟いた。
/167ページ

最初のコメントを投稿しよう!