傀儡

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傀儡

飼い猫がいなくなったのはそれから暫くしてからだった。茶のミケは人懐こくて、いなくなることはあったが、必ず家に帰ってきていた。その日は午前授業で、暇なのでという理由で、咲が遊びに来ていた。付き合ってるのか、ないのかよく分からない微妙な関係が僕は案外気に入っていた。彼女が聞いた、「ねえ、ミケ帰ってきた?」僕は、「それが、戻ってこないんだよね」迷い猫のチラシも自費で作り、あちこちにばら撒いた。「ふーん、まあ猫は気まぐれだからね」彼女の気まぐれという言葉に少し救われたけど、やはりもしかしたらという思いが頭を過る。交通事故とか、さらわれたとか… 「あれ?これ少し大きくなってない」咲が指差した先には、あの人形があった。まさかとは思った、けど改めてみると、何かしら違和感があった。「変なこと言うなよ、んなことあるわけないだろ」僕は冗談ぽく言った。「そうかなぁ?」彼女が首をかしげる。その晩だった、ズリ、ズリズリと、何かが床を這う音がする。始めは空耳だと思った。でも次の瞬間、ズリっと音がした。布団から飛び起きて、辺りを見渡す。目が慣れてないせいか、良く見えない。ズリ、またあの音だ。手に定規を持って、少し慣れた目で辺りを見た。次の瞬間、恐怖で体が固まる。布団のすぐ足元に、それはいた。冗談みたいな顔、への字に歪んだ口に、くり抜いただけの目、歪な形の鼻。普段見れば、愛嬌のある顔なのかもしれない、けど今は、正視に耐えなかった。脇の下に嫌な汗が流れ、定規を持つ手が震えてる。目が慣れたせいか、口元から何かがぶら下がっている、「まさか」背筋がゾクリとした。それは茶色の毛束だった。
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