き・し・ん15 宿命

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き・し・ん15 宿命

その晩、正義は父に書斎に呼ばれた。 何の研究か良く知らないが、研究者の父は兎に角本を読む。乱雑に書類が積まれた机を横目に書斎に入る。 湿った空気と、紙から出る独特の匂いに軽く眩暈がした。それでも普段は冗談を言い、母と僕を良く笑わせてくれる。 でもその日の父はまるで目の前に敵でもいる様な厳しい顔付きをしていた。 「ゴクリ」 唾を飲み込み緊張してソファーに座る。 「最近学校で起きている不思議なことは父さんの耳にも入っている。体育館の事故の事もな」 正の胸がザワザワした。なんだか嫌な予感がする。父はこれからとんでもないことを口にするのではないかと。机の椅子から正の目の前に座る。初めから持っていたのか、それともソファーのテーブルの上に置いてあったのか緊張していた彼にはそれが禍々しい物に見えた。 古い木箱。 父はまるで爆弾か何かを扱う様に慎重にテーブルの上に置く。 「いいかい、正義、これから聞く話は荒唐無稽に聞こえるかもしれないが冗談でもなく、嘘でもない。この家に代々伝わる…まあルールみたいなものかな」 少し言い淀んだ後に、ルールと聞いたので更に正の頭の中は混乱する。 慎重に古びた茶色の紐をほどき、木箱を開ける、鼻につくカビの匂い。 そこには古い銅製の様な緑とサビの混ざった剣の様なものが入っていた。 「これは」 緊張に耐え切れず聞くと 「これはな、柊の型の守りだ」 守り?お守りではないのか。 正が口を開く前に父が話し始めた。 「この高崎家には代々、鬼と呼ばれる異形のものから村を守る役割が与えられていた。それがいつからなのかハッキリとは分からないけれど父さんが調べた文献によると300年前からあったそうだ」 それから聞く父の話は恐ろしく、それでも一言も漏らさずに聞いた。 毎年現れる鬼のこと、生贄に差し出される若い歳の男の子や女の子、エスカレートする鬼の要求。村の長は離れに住んでいる高崎の家を訪ねたという。高崎の家は今で言う村八分の扱いをされていた。それは代々受け継がれた高崎の家に生まれる子らに引き継がれる不思議な「力」 ある者は天気を言い当て、ある者は地震を予知し、ある者は重く大きな石を手で触れただけで割ったと言う。今で言う超能力みたいなものなのだろう。 父は古い文献で、しかも今で言うゴシップ記事みたいな瓦版からなので信憑性は低いと前置きをしながら。 「長は初めて頭を下げて、どうにか力を貸して欲しいと、村八分にしたのはその畏怖の力を恐れていたからだと。でも鬼に対抗するにはその畏怖の力にすがるしかないと」 随分と虫のいい話だなと腹が立って正義は聞いていた。先祖とはいえ、自分と血の繋がった人達の話だから。 「それでどうなったの」 正義が聞くと、父は柊の型をしたそれを指差して 「長に伝えて、村の有名な鍛冶屋に頼み、これを作らせたらしい。材料は不明だが、鬼の嫌う柊の型をしていること、作る時に必ず呪文を唱えること、それから…」 正義は再び「ゴクリ」と唾を飲み込んだ。 「鬼を封じ込める力を込めること」 最後の父の説明は本当にそんな事が可能なのか腑に落ちなかったが、目の前にあるそこから漂う「力」みたいなものに圧っされてなのか、首を縦に振っていた。
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