おのれ、寝不足!!

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「美味い……」 「美味しいんだ、そのパン」 「あれ、知らない? うちの購買で売ってるパンって、結構レベル高いんだよ」 「へぇ。そうなんだ」 「気になるなら、今度食べて……」 「一口頂戴」  萌香はそう言って、俺の方に顔を向け、目を閉じてあーん、と口を開ける。  いやいや、それはさすがに……。  「くれないの?」 「実は、人と食べ物シェアするの、あんまり得意じゃなくて……」 「そっか……。航大君って結構ナイーブなんだね」 「そ、そうなんだよ……」  躱し切ったか? 躱し切れたのか? 「でも、昔はアイス一口くれたりしてたから大丈夫だよ」  ああ、昔の話持ち出された。これだから幼馴染ってやつは。 「私は特別って事で良いでしょう?」 「いやでも……」  俺が一口シェアを得意としていないのは事実だ。それというのも幼い頃、萌香が俺の食べている何かを一口食べる度に博隆さんにぶちぎれられていたからだ。 「貴様の体液が付いたものを萌香の口に突っ込むとはいい度胸だ。二度と物が持てないようにしてやろうか!!」  最低な言い方? 俺だってそう思う。  もう、昔からなのだ、この人は。  物には言い方があるだろって思うのだが、何しろあの人は外面以外最低だ。  ともかく、それが一種のトラウマ的な事になっているんだと思う。  あまり一口シェアするのが好きじゃないのだ。 「意地悪……」 「別に意地悪したいわけじゃ……」 「じゃあ、一口頂戴」  俺の方を向いてあーん。さっきとまるで流れが変わっていない。  これがいわゆる一つの堂々巡りという奴か。 「分かった。ちょっと待って」 「え、くれるの?」  驚くのかよ。  そう思いつつ、俺はカツサンドを一口サイズに残るまで食べ進めた。 「はい」 「えー、勝つとかほとんど残ってないよ? やっぱり意地悪ぅ」 「一口は一口、でしょ?」 「分かった。じゃあそれ頂戴」  あーんと開けた口の中に、その欠片を放り込んでやる。  萌香はそれをもむもむと食べ、ゴクンと飲み込んでからにっこり笑っていった。 「これってあれだよね」 「何?」 「間接キス」  ぶほっ!! ゲホッ!! ゴホッ!!  咽た。盛大に咽た。  貴重なカツサンドがちょっと口から飛んでくぐらい咽た。  今時なんて表現を引っ張り出してくるんだ。 「美味しいよ、間接キス」  そう言って、萌香はぺろりと下唇を舐めた。  何せ可愛いもんだから、そんなささやかな仕草にもドキリとさせられる。 「か……カツサンドだろ」 「カツなんて殆ど残ってないもの。これは、間接キスの味だと思う」 「いや、ソースとマスタードバターの味だ」 「どうりでどことなく甘酸っぱい……」  こういうのもああ言えばこう言うって言って良いのかな。  とにかくもう、勘弁してくれ……。 「ていうか、そもそもお前自分の弁当もがっ……」  口の中に何か押し込まれた。これは……。 「鶏のから揚げ?」 「正解。サンドイッチのお礼。私のお手製だよ。美味しい?」  噛み締めると鳥の旨味がじゅわっと出てくる。冷めていても変に脂臭くないし、これは確かに……。 「……美味い」 「ほんと!? 嬉しい!!」  萌香の声がパッと花やぐ。 「良いお嫁さんになれそう?」 「え、どうだろ……」  またトラップか。思わず言葉を濁してしまう。  だが、今回は濁すのが良くなかったらしい。 「もー、そういう時はなれるよって言わなきゃ。ダメよ? そう言う空気を読まない感じ」 「……サーセン」  何で俺は怒られているんだ。褒めたのに。  てか、嫁とか言うフレーズから地雷臭漂い過ぎてて無理ですわ実際。
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