おのれ、寝不足!!

5/6
前へ
/80ページ
次へ
 さて、続いて揚げパンの中に肉と卵とか言う、どう考えても美味い奴の登場である。 「これ、ヤバいよなぁ」 「航大君、嬉しそうだね」 「そりゃ嬉しいだろ。なかなかないぞ、これ食べられる事なんて。自慢できるレベルだ」 「……それは、やめた方が良いよ」 「……何で?」 「嫉妬に狂った何者かに攻撃されるから?」  萌香の目が……泳いでいる。 「そう言えばさ、俺は萌香にいくら払えば良いの?」 「えーと、いくらだっけ?」 「……このパン、どうやって手に入れたの?」  ここまで食っといて聞くのも怖いけど。でも、今聞かずにパンの味を楽しむ事が出来ない。 「……貰った的な……」 「だ……誰に」  曖昧な笑顔。  こいつ、誰に貰ったかすら覚えていないのか……。 「つまり、俺は萌香の為に誰かが必死で買ったパンを食べてるって事?」 「必死かどうかは……」  必死に決まってる。  購買で売られているパンの人気ランキング上からワンツーだ。 「ダメだよ萌香。それはダメだって」 「でも、航大君がお腹空かせていると思って……」 「でもこれは萌香の為に買ってくれたものだよ。それを俺が食べるのは、いくら何でも心苦しいよ」 「ごめんなさい……でも」 「でも?」 「航大君も食べる前に確認しなかったよ?」  うぐっ……。そこを突かれると痛い。確かに、変だなとは思った。  カツサンドはもとより、幻と名高いスコッチエッグパンを萌香が手に入れる事が出来たなんて。  けど、腹が減っていたのだ。  だから、確認を怠ってしまった。いや、確認したら食べられなくなることを、俺は心のどこかで察知していたのかもしれない。 「それは……」  お前が何にも言わなかったから。  そう言おうとして、まっすぐ俺を見つめる萌香の視線とぶつかった。  ちょっと上目遣いに、不安気な目で俺を見つめている萌香。  それを見ると、俺は萌香への反論を何も言えなくなってしまった。 「確かに……俺も迂闊だった……」 「私、二度とこんな事しない。約束する。だから、今日の事だけは許して? ほんとに、二度としないから」 「……わかっ……た」  クソ、見事に罠にはめられた気がするぞ。 「じゃあ、二人だけの秘密ね? ね?」 「ああ、そうだな」  罪悪感が、罪悪感が俺の心に伸し掛かってくる。  すまない、名も顔も知らぬパンの買い主よ。食べてるのはどこの馬の骨ともつかぬ色白小太りの男です。唯一彼女と似通っているところは、人間ってところだけ。  折角のスコッチエッグパンは、粘土食ってる味がした。  罪悪感、恐るべし。
/80ページ

最初のコメントを投稿しよう!

53人が本棚に入れています
本棚に追加