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そうだ。
シリアル喰ってる間に名乗っておこう。
ちょっと食いカスが飛び散るかもしんないけど勘弁してほしい。
時間が無いのだ。
名前は火浦航大。高校二年生の十七歳。
外見を端的に言い現わすと、色白、小太り、メガネとなる。ちなみに眼鏡は二本で三千円とか言う激安のところで作ったわりに、もう一年以上使えているので良い買い物だったと自負している。どうでもいいね。
で、ここから先は自慢ではない。
自慢では無く事実として受け止めて頂きたい。
俺はどうやら風谷萌香に好かれているようなのだ。
彼女以外の女子に好かれた例はない。性格、もしくは外見、そのいずれかで馬鹿にされるのが常だ。だが、なぜか彼女だけは俺の傍に居ようとする。嬉しい。嬉しいのだが、単に手放しでは喜べぬ諸々の事情があるのだ。
それについてはおいおい語っていくとして、そろそろ本気で学校に行くとする。
「その前に、牛乳冷蔵庫に入れて、テーブルの上を拭きなさい」
「そんな時間は……」
「あんたが食い散らかしたんでしょ。シリアル食うの下手ってどう言う事よ」
そんな奴もいるだろうとは思うけど。
まあ、ここは素直に片づけるが吉か。
一通り片づけをして、ママンにオッケーを貰った後、今度こそ出発。
「行ってきます」
「はいはい。行ってらっしゃい」
出かけようとして、寝室から出てきた親父と会った。ぼさぼさ髪によれよれのパジャマ。良い年下大人が、いつまでも寝ているんじゃありません。息子はもう出かけますよ。
「行ってきます」
「んー、早いな。野球部の朝練か?」
「入ってねーよ」
「じゃ、甲子園は?」
「行かねー」
「あ、そ。いってらっしゃい」
ぬあああ。何今のモヤモヤする会話。
野球部に入るなんて話一回もした事無いだろ?
意味の無いやり取りに巻き込むの、ほんとにやめて貰って良いかなぁ?
なんなの? それで親父に何の利があるというの?
胸倉の一つでも掴んでやりたいところだが、そんな暇はない。
今度こその今度こそで行ってきます。
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