俺の朝は早い

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「いかーん!!」  生き返った博隆さんが二人の間に割って入ろうと叫ぶ。 「お兄ちゃん!!」 萌香が少し大声を出し、博隆さんの動きを止めた。 それから、彼をまっすぐに見て一言。 「嫌い」  タメがあった分、威力は絶大だった。 「ぐべらばっ……」  何かの大きな力が働いて、そのまま博隆さんは体をスピンさせながら吹っ飛び、土煙を上げながら地面を転がり、電柱に激突して止まった。四肢がぴくぴくしちゃってるんですが。くまさん柄パジャマで通りに横たわる高校三年生男子というのも実にシュールな趣がある。はっきり言うと通報案件なのだが、この辺りのご近所的には平常運転なので多分大丈夫かも。  萌香も実の兄の醜態を、まるで風景の一部であるかの様に、意にも介していない。  報われない博隆さんの愛に侘しさを覚えつつ、俺ももうそっちを見ない事にした。 「お兄ちゃんがゴメンね」 「いやまあ、いつもの事だから」 「航大君の何がそんなに嫌なのかなぁ」 「萌香のことを心配してるんだよ」 「えー、私、もうそんなにお子様じゃないよ?」  プッと頬を膨らます姿は、とてもそうは思えない。 「あ、今、航大君も私の事おこちゃまだって思ったでしょう」  しまった気付かれた。  三十六計逃げるが大勝利は我の物だ、わーはっはっはっはっ、と言うよな。ここは一つ逃げよう。学校に向けて戦略的撤退風前進だ。 「ほら、そろそろ行かないと遅刻だよ萌香」  そんな訳ない。  二時間も早く家を出ているのだ。博隆さんに絡まれていた時間は長く見積もっても三十分。つまり、まだまだ余裕。だが、学生は遅刻という言葉に弱い。社会人もかもしれないけど。だから、遅刻って言えば、すんなり歩き出せるのだ。 「こら、待った」  と、思ったら前に回り込まれた。  とろ臭いようで、たまに素早いんだよな。 「私の事、おこちゃまって思ったよね?」  俺の正面に立ち、眉を吊り上げ、空いているほうの手を腰に当てて、分かりやすく怒りをアピールしてくる萌香。
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