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おのれ、寝不足!!
おのれ、寝不足!! そして、おのれ、宵町!!
怒り狂っているのには訳がある。
奴ははとんでもない弊害を俺にもたらしてくれたのだ。
授業中に、俺の意識を奪いやがった。それも無理矢理だ。両の瞼が突然重たくなったかと思うと、そのままスーッと……。居眠り? 専門用語では確かにそう言う表現も使うかもしれない。
しかしタイミングが最悪だ。寄りにも寄っての四時間目、ねちねちしている事で有名な知念の古文の真っ最中にそんな事してくれなくっても良いじゃないか。
トントン、と肩を叩かれて飛び起きた時にはすでに遅し。
俺の顔をじっと見てにたぁッと笑う知念が目の前にいたわけだ。
「僕の授業はそんなに退屈でしたか?」
そう言う彼に何と答えればいいのだろうか。
まあ、はっきり言って古文何てそもそも興味もないわけで。でも、面と向かって退屈ですとも言い難い。じゃあ面白いと言えばどうなるかというと、何で寝たのとこう来るわけだ。まさしく逃げ場なし。
「いや、つい……」
「つい、ついね。ついなら仕方ないかな。なぁ?」
「は、はい……」
返事した俺をじっと見つめてから、知念はニヤッと笑ってそのまま教卓の方へと戻って行った。
一瞬背筋がぞくっとしたものの、それ以上の追撃は無かった。
それでホッと安心したのだがこれが罠だった。
四時間目が終わり、チャイムが鳴った瞬間。
「あー、火浦。ちょっといいか」
「え、あ、はい?」
昼休みのパン購入戦争に向けてダッシュしようとしていた俺は、否応なくその足を止められた。
「悪いんだけどさ、これ職員室までもってきてくれないか」
そう言って指さしたのは、今日の小テストの束だ。
厚みにしてわずか一センチ足らず。
絶対持てるだろってレベルの奴。
「今朝から手が痛くってな。すまん」
とまあそう言われると、断り切れぬ部分もある。居眠りしていた後ろめたさなんかも多分に手伝ってくれていたのは言うまでもない。
俺は小テストの束を持って、知念の後をついて行った。
廊下では何人もの奴とすれ違った。みんな眼の色を変えてダッシュしている。皆昼食のパンを求めて走っているのだ。強者にはカツサンド。弱者にはバターロール。戦いの掟だ。だが俺は今日、戦いにすら参加できなかった。バターロールも残っているかどうか。
「すまんな、火浦」
「ああいえ」
「頼みやすいからさ、つい、な……」
にたぁっと知念が笑った。
そこで初めて俺は、先ほどの意趣返しをされている事に気付いた。
「……せ、先生」
「何だ? どうした、そんな目を向いて」
「あんたまさか……」
「先生に向かってあんたってのは頂けないなあ。つい、だよ。つい。ついなら仕方ないよな?」
楽しそうに笑う知念に、俺は言い返すことができなかった。
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