宵町は今をときめくバスケ部員だった

1/4
53人が本棚に入れています
本棚に追加
/80ページ

宵町は今をときめくバスケ部員だった

 宵町は今をときめくバスケ部員だった。実際彼はモテた。試合では、その長身から繰り出されるシュートが籠を揺らすたびに、黄色い声援が飛ぶほどだ。本人がその気になれば、彼女の一人や二人容易く作ることができるだろう。  そう言う点からいえば、彼の持つ最大の欠点は、萌香に心から惚れているという事だろう。  それについて俺がどうこう言う立場ではないのだが、萌香も宵町の方を向いた方がいいのではないのかと思う。そうすれば、俺が後ろめたい思いをせずとも済むのに。  それはともかく、彼とは今日の帰り道でお祝いをすると約束した。思えば俺は帰宅部なので、彼の部活終わりを待たねばならなかった。致し方なく、久し振りに図書室などを訪れているわけである。  うちの図書室は入ってすぐにカウンターがある。そこには店番の図書委員が必ず座っていて、並べられた閲覧テーブルで読書をしている生徒達を厳しく監視しているのだ。  図書室には決まりごとがあった。  まず、私語は控え目に。これについて、明確な音量や文言の数に決まりは無く、図書委員のさじ加減で突然注意されることがある。図書室内に置いて図書委員は絶対の権限を持っているが故に、誰もその裁定を覆すことは出来ない。  次に本は大切に。例えば本に折り目をつける、ページを破く、開いたままの本の上で居眠りをし、涎を垂らすなどの行為は一発退場もあり得る。図書委員の本に対する愛情量は計り知れないものがあった。  最後に図書室内の本の閲覧時以外の使用禁止。閲覧テーブルは八人掛けのが四つあるきりだ。それは図書室にある本の閲覧の為に使われるべきスペースなのだ。そう言った人たちがきちんと席を確保できるよう、それ以外の目的での使用は固く禁じられている。  つまり俺がここで時間を潰そうと思えば、本を読んでいるしかないという事だ。  他に時間を潰す当てもなく、仕方なく俺は校舎の四階にある図書室の引き戸を開けて中に入った。
/80ページ

最初のコメントを投稿しよう!