夜神楽

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松明の炎は近く、煌煌と瞬く 吐き出される息は白く、真冬が近い 周りには、寒さを堪える氏子 彼らは震えながらも ずっと今宵 そして夜明けまで見守るのだ しばらくして、酒が振舞われる 我先にと茶碗を受け取り、飲み干す 取り囲む炎と同調したように 喉が焼けつき、胃も熱くなる はらはらと雪が降り始め その冷たさに体の温かさを知る 祝子が白袴を着て舞台に上がる 素面、お面 舞台は長床の御神屋 シャン、シャン 響く鈴の音は、闇高く昇る ダン、ダン 足踏みは、地の底深く落ちる 神降ろしの木に飾られた原色の布が 私の目を醒まさせる しんとしたと思えば、わっと声が上がる そのうちに、昔から伝わる囃子歌を 誰ともなしに歌い始める 今は夜であり、夜ではない これは神世と現世の間 千早振る、ゆらゆらとふるえ 確かに揺れている 空も、風も、木も、村も、人も この空間が サアサアと白袴が御神屋中を走る 天井から下がった御幣らが千千に乱れる 手にある太刀は空を切り、人々の心を切り この夜を切り裂く 酒を飲んだ所為なのか 体全体がリズムを持ち、躍動し始める エクスタシーは神降ろしに欠かせない感覚だ 降る雪など気にも留めずに皆が酔いしれ それぞれに神を降ろしている 血が騒ぐとは、これを指すのだろう 不意に、星空を見る アステロイドの公式数列を思い起こさせて 笑いが込み上げる そして急に 自分の存在の不思議さが込み上げ うっと喉が鳴った どうして、あの星ではないのか この星であるのか 降臨してきたのは神ではなく、私だ ビイイン、ビイイン 梓弓が鳴り、四人の祝子が円を描く 仕草が冷気を撃つ 矢は弓の真になく、祝子の手にある 夜空にも、その仕草が映っている 私たちは、彼らに全精神を託し 神に祈り、未来を祈る 時を忘れ、時をさかのぼり あるいは時を進ませる そうして、巡りゆく魂は 明けの到来とともにどこそこへ帰っていく 神も息を引き取った カメラでは その一つも捕えることができない
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