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「どうも、初めまして」
「…あなたは?」
太一はいつの間にか、操子の横に立っていた。
年の頃は、被害者の夫と同じくらい。
成熟した色っぽさを孕んだ美しい女性だ。
しかし今、その顔は痛々しくガーゼで覆われ、隙間から痣の痕が覗いていた。
「月影といいます。いや、新宿に“ちょっとした”探偵事務所を構えている者なんですがね」
「たんてい…」
差し出された名刺を一見し、彼女は顔を強張らせた。
だが、太一は気にも止めず彼女の隣に腰掛ける。
そして、いきなりその手を取った。
「きゃっ」
「突然ですが。こんなに美しい方にお逢いすることが出来て、僕は幸せ者だ。
ああでも。なんてお痛わしい。陶磁器の如く白い腕に、酷い傷が」
太一は、夫人のTシャツの袖を、撫でるようにずり上げた。
「あ、あの」
胡散臭い男にいきなり手を握られ、戸惑う女。
背後では、止めに入ろうとした警官が、麦田に制止されている。
太一はその傷を一つ一つ見つめながら、眉間にぎゅっとシワを寄せた。
「赦せないな、これもうちの従業員が?」
「…わかりません」
彼女は弱々しく首を振った。
「でも私、聞きました。
お昼頃来たお客様が、主人と玄関先で怒鳴り合いをしているのを。
それはしばらく続いて…
怖くて、部屋に隠れていたんです。
すると、急に声が止んで、大きな音が聞こえて。ビックリして、部屋から飛び出したら…」
「そうしたら?」
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