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プロローグ
ガッ!
ガッ、ガッ!
一体幾度、この音を聞いてきたのだろう。
「お前というヤツは…ハア、俺のいない間にやっぱり…ハア、ハア」
ガッ!
薄い脂肪と肉を挟んだ、骨同士のぶつかる音。
「うっ…」
痛みに堪えられなくなり、呻き声を上げた女は、自分を押さえつけている男を見上げて懇願した。
「あなた…お願い、もう止めて…
これ以上されたら私死んじゃうわ。
明日は仕事だってあるのに…うぐっ!」
「黙れっ!仕事だなんて嘘を吐いて、またあの男と逢う気だろう、この淫乱女。
そうだ…お前のような女はこうしてやる…」
シュルッ。
男は女の左肩を押さえたまま、己の首から緋色のネクタイを抜き取った。
女を見下ろし、ニヤリと口元を歪める。
「お、お願い、お願いよあなた…もう止めよう、こんなこと。あなたが殴ったりしなければ私だって…ぐうぅっ!」
ゴキッ!
男は、思い切り腹に拳を打ち付けた。
嫌な音。
あばらが折れたかもしれない。
暴力を受け続けてきたせいか。
命の危険に晒されている今でさえ、冷静に分析してしまう自分に、女はふっと自嘲した。
「黙れよ!…操子、これは罰だ。
俺に、こんなにも辛い思いをさせたことへの」
緋色の絹が、ゆっくりと女の首に回される。
「…い、イヤ…だ。
こ、これからは、絶対にあなたを裏切ったりしない…私の全部を捧げて尽くすから」
「クックッ、この大嘘つきめ。可愛いことを言って、どれだけ俺を騙してきたと思ってるんだ!」
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