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「お待たせ。待った?」
「ううん、私も今来たとこ。お、何かこれ付き合いたてのカップルみたいだね」
「やめんかい。さっさと始めるよ」
「はーい」
私は川端からボールを受け取り、適当に距離を取って投げ返す。引退してからも定期的に体を動かしているので肩は軽く、力を入れても痛みが発生することはない。
「そういえば天寺はさ、進路決まってる?」
「関西経済大学に行くつもり。向こうの監督から来いって言われてて、今度推薦受ける」
「え、関経なの? 私もそこの監督に呼ばれて試験受けるんだけど」
「まじ? じゃあ私たち一緒の大学じゃん」
これは驚いた。確かに川端くらいの実力があれば勧誘されても不思議ではないし、花月出身ともなれば大阪の大学が黙っていないのも理解できる。
「いやあ、夏大四強のエースとバッテリーを組めるなんて光栄ですなあ」
「はいはい。煽てても何も出ないぞ」
「本音だよ。ではここで、新たな名バッテリーの第一歩を踏み出すとしますか」
川端はそう言うと、後ろのポケットから取り出したマスクを被り、その場にしゃがみ込む。臨むところだ。
「さあ来い!」
威勢の良い掛け声と共に、ミットを構える川端。私は一度大きく息を吐いて気合を入れ、力強く腕を振る。
「おお、ナイスボール! やっぱ投げる球が違うね!」
川端のミットから快い音が響く。上手い。私は素直にそう思った。優築もキャッチングは上手だったが、それを凌ぐかもしれない。達者なのは口だけじゃないということだ。
「ささ、どんどん上げていこう!」
「おっけー」
心音が加速していく。こんな高揚感は久しく無かった。私は川端に乗せられるまま、渾身の力でピッチングを続けた。
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