どんな風になりたいか 前編

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「風の方はどうなの? 勉強は順調?」 「ど、どうなんだろう。一応先生にはこの調子なら十分教知を狙えるって言われたけど、油断できないよ」 「それはそうね。けど風、貴方は本当に教知に進むの?」 「え、どういうこと?」  いきなり何を言い出すのだろう。私は質問の意図が理解できず、思わず聞き返す。晴香は一瞬口を真一文字に結んでから、徐に口を開く。 「確かに教知は、先生を目指すには最適な大学だと思うわ。でも野球部ははっきり言って弱小。私たち高校生にも勝てないチームよ。風のような選手が行くべき場所じゃない」 「いやいや、それこそ別の話でしょ。私は教師になることが目標なんだから、野球は二の次。強いチームでやりたい気持ちはあるけど、将来と引き換えにはできないよ」  私と晴香は進むべき道が違う。晴香は野球を最優先に考えるべき資格があるけれど、私には無い。私は教師になるための努力を最優先する必要があるのだから。 「ええ、それは確かに言う通りだわ。でもね、一つ気になる点があるの。貴方は心の底から教師になりたいと思ってるの?」 「え……? な、なりたいに決まってるじゃん。そうじゃなかったら、こんなに頑張って勉強してないよ」 「そうかしら。私はてっきり、風はもっと上のレベルで野球はやると思っていたわ……」  晴香はそう呟いて首を傾げる。その表情はそこまであからさまな変化はしていないものの、ごく僅かに寂しさを帯びた気がする。彼女がこんな顔をすることがもの珍しく呆気に取られかけた私だったが、二人の間に沈黙が流れることを嫌い、慌てて言葉を連ねる。
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