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あの日の夜。
花田さんは私の手を握って確かにこう言った。
「どれだけ待ったと思ってるの?
優香ちゃんが弱るの」
そして、もう片方の手で眼鏡を外し、またうろたえる私の目を捉えた。
そのままゆっくり近づいてくる花田さんの端正な顔。
一気に酔いが覚めた。
「やっ…」
花田さんの肩をグッと引き離し、思わず顔をうつむける。
しばらくして、頭の上で花田さんのクスッと笑う声が聞こえた。
慌てて顔を上げる。
「花田さん…
からかわないでください!
こんな時に!」
顔面沸騰してるんじゃないかな。
お酒を飲んでいるせいもあるのか、火が出ているかのように顔が熱い。
「ごめん。
でもからかってるつもりはないんだ。
不謹慎だけど、優香ちゃんが可愛くて」
花田さんはそう言うと、真っ赤になっているであろう私の頬に優しく触れてから、胸下まで伸ばした栗色の髪の毛先に触れた。
まるで愛しい宝物を触るように。
「優香ちゃん…
俺、正直ずっとずっとこの時を待ってたんだよ。
伊藤くんが初めて優香ちゃんを連れてきたあの日から」
嘘…
そんなわけない。
だって…
花田さんはいつだって冷静で、落ち着いて、そんなそぶり1つだって見せなかった。
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