深海への階段

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「…謝りたかったんだ。 この前のこと。 バカなことしたなって。 1週間ずっと後悔してた」 「……」 ため息混じりに。 落ちてきた前髪を搔き上げながら、私から視線を落として花田さんがつぶやく。 やっぱりね。 私のことなんて、あの場の雰囲気に飲まれただけだったんだ。 鵜呑みにしなくてよかった。 恥かくところだった。 「謝らないでください。 私も… 正直滅入ってたから、助かりました。 花田さんみたいにかっこいい人と… 一瞬でもドキドキさせてもらえて! ありがとうございました」 私は最後に笑い声をおまけしてそう言った。 明るくしなくちゃ。 花田さんが罪悪感を感じないように。 だって本当のことだ。 正平のことに胸をえぐられた傷は、花田さんが吹っ飛ばしてくれた。 感謝しなきゃならないくらいだよ。 それでも… 笑っていないと… 胸のざわつきを見抜かれそうで、私は早くその場を離れたかった。 「それよりこんなところで油売ってたらお客さんに怒られますよ。 慎吾くんにも…」 言いかけた時。 花田さんが私の腕をグイッとつかんで引き寄せる。 あっという間に、私は花田さんの胸の中にすっぽりと収まってしまった。
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