深海への階段

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「そんなこと言うから、俺の理性がきかなくなるんだよ…」 花田さんの胸から、低い声が心地よい振動になって、私の耳へと伝わる。 温かい。 少し早い鼓動も… 「…え? でも…後悔してるって…」 「それは… 強引にあんなことするつもりじゃなかったってこと。 優香ちゃんが別れたって落ち込んでたから。 俺のこと、ただの行きつけのマスターから1人の男として見てもらいたいって思ったのに。 あんな無理やり…」 「……」 花田さんの言葉とは裏腹に、私を抱きしめる腕の力は強まるばかり。 混乱する頭。 とにかく、私の心臓の音を聞かれてはまずいと、花田さんの胸を必死で押し返した。 「ちょ… 花田さん?!」 すると花田さんはするりと私を抱きしめる力を弱める。 そしてすぐにズボンのポケットに手を入れて何かを取り出し、それを私の手に握らせた。 私はゆっくり、握らされた紙を開くと、そこには電話番号が書かれていた。 花田さんはそのまま扉に手をかけて、私の方を振り返る。 「…俺のこと考えて欲しいんだ。 一方的でごめんね? 優香ちゃんの気持ち教えてほしい。 待ってるから」 そう言い残して、花田さんはワインセラーから出て行ってしまった。 私は思わずその場にぺたんとへたり込む。 目まぐるしく回るこの状況に、何だか軽い目眩を覚えてしまった。
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