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「…あれ?
優香ちゃん、もう帰るの?」
カウンターの前を通った時。
できるだけ気配を消してたんだけど、あっけなく花田さんに見つかった。
周りの女性客の視線が何だか痛いような気がする…
「あ…はい。
ありがとうございます」
何のお礼か分からないけど。
私は軽く頭を下げてその場から消えるように足早に扉へと進み、ドアノブに手をかけた。
「さっきのこと。
また必ず聞かせてね?」
「……」
花田さんの声に振り返ると、花田さんはニッコリと微笑みながら、ヒラヒラと私に手を振る。
他のお客さんは何のことか分からない。
それでも私はひどく動揺してしまい、さらに慌てて店を飛び出た。
1週間前のあの日から、私は花田さんのことでいっぱいだ。
それは認めるしかなかった。
それでも、どうしても、花田さんに身を委ねるには、花田さんを知らなさすぎる。
私はこんなにも動揺しているのに、顔色ひとつ変えない花田さんを疑ってしまうのは仕方がないことだった。
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