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「朝ごはん、出来たよー。起きてきて。」
私は2階の寝室にいる旦那と息子に声をかけた。すると旦那と息子はお揃いのパジャマで、同じような寝癖をつけて階段を降りてくる。
「おはよう。」
旦那は独り言のような小さな挨拶をして、テーブルに着く。
「おはよう、お母さん。」
息子の未だ眠そうな声は、繊細で透き通っている。私と私の嫌いな旦那の遺伝子を半分づつ受け継いでいるはずの息子を、私は愛している。旦那が嫌いだと分かった今、私が今まで通りの生活を守るのは、ひとえに息子の為であった。
私たちは席について、サラダとハムエッグと、そしてバタートーストの朝食を摂る。いつもの朝の光景がある。
「今日、学校来るの?」
息子は2枚目のトーストに丁寧にバターを塗りながら、私に聞く。つい3ヶ月前に息子が入った小学校で、私はPTAの役員になっていた。むろん好き好んでなった訳ではなくて、しかし専業主婦である私にはPTAを引き受けざるを得ない雰囲気だったのだ。
「うん、会議があるからね。終わったら一緒に帰る?」
私は言った。
「ううん、今日はトモちゃんと帰るから大丈夫。」
「そっか。」
入学したての頃は心細かったのか、息子はいつも一緒に帰りたがったものだったけれど、最近は友達も出来たらしく、私としては少し寂しい気もする。
「じゃあ、行ってくる。」
早々に朝ごはんを食べ終えて、スーツ姿に着替えた旦那はそう言って家を出る。私は見送る気にもなれなくて、キッチンに逃げた。旦那の顔を長い時間見ていると、どうしてか吐き気が込み上げてくるのだ。旦那に対する嫌悪は、生理的な不快感を伴って私を襲った。
旦那には悪いと思っている。私が旦那のことを嫌いなのは、決して旦那の所為ではないのだ。私が勝手に嫌いな男と結婚して、嫌いな男と生活をしているというだけの話。旦那は多分私のことも、息子のことも、今でも愛してくれているように思う。私は旦那の静かな愛を、ただ拒絶している。それは全くの不合理に違いない。
私は皿のパン屑をシンクに流しながら、独り大きな溜息を吐いてみる。私はこの生活を続けることが出来るか自信を失っていた。
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