憎悪論

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私は旦那が嫌いだ。そのことに気づいたのは、ある夜のことだった。旦那が寝返りを打って私の方に顔を向けた瞬間、私は思わず顔を背けた。たったそれだけのことなのだけど、私は旦那のことが嫌いなのだと確信する。まるで神の啓示か、あるいは悪魔の囁きみたいに、それは絶対的な含みを持った気付きであった。 私はかなり混乱したと思う。私は私なりに旦那を愛していたと思っていたから、実は旦那のことが嫌いなのだということは、私にとって天と地がひっくり返るような、コペルニクス的転回であった。何よりもショックだったのは、旦那を嫌いになったきっかけのようなものにまるで思い当たらないことだ。太陽と地球の関係は地動説で入れ替わった訳ではない。四十数億年前の初めから、地球は太陽の周りを回っていたのだ。旦那のことを急に嫌いになる理由が見つからないのだとしたら、それはきっと結婚を誓った初めの日から旦那が嫌いだったということに違いない。 結婚して10年。浮き沈みのない平穏な生活だった。私も旦那もとりわけ外向的な性格ではなかったから、いつも自然と2人とも家にいた。しかしこれといった会話をすることもなく、互いのことを気にかけることもない。昔は何でもないことで笑って、何でもないことで喧嘩をしたりしたものだけど、だんだんとそういう機会は少なくなっていった。そのことについて、私は別に危機感のようなものを持ってはいなかったように思う。多かれ少なかれ夫婦というのはそういうものだろう思っていたし、むしろ無駄に気を遣わない分心地よく感じてさえいた。 しかしそれは、結局全て、偽りだったのかも知れない。
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