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〇まあばあちゃん と 茂平のおっかぁ と トモちゃん
「おばあちゃん、大丈夫?どうして泣いてるの?」
まあばあちゃんはそこまで話すと、堪えきれなくなったようにポロポロ涙をこぼしました。
「ううん。苦労してきた茂平のお母さんが、頼りになる息子と一緒に暮らせるようになって良かったなって、この話を思い出すたびに思うのよ。
一所懸命、働いた上に働いて、……辛い思いさせている息子に詫びながら生きていく茂平のおっかぁにいつも教えられるの。貧しいって悲しいんよ。どんなに頑張っても楽になれないんだもんねぇ。昔も今も大変な事がいっぱいあったんだなって思うのよ」
「ごめんね。辛いこと、思い出させて…」
トモちゃんがまあばあちゃんの手を取って言いました。
「そんな事ないよ。おばあちゃんなんか茂平さんのお母さんに比べたら……全然……。それに、今が幸せだからね……」
まあばあちゃんはトモちゃんの手を握り返しました。
「ねぇ、おばあちゃん。それから茂平とお母さんはどうなるの」
「もちろん、幸せになるのよ。離れ離れの親子が、やっと一緒に暮らせるようになったのよ。それは、どんなに嬉しい事か……! 言葉に表せないぐらい幸せな事だと思うわ」
「ねぇ、おばあちゃん。茂平さんも小豆ご飯で化け物から逃げる事が出来たでしょう。おばあちゃんも何かあるたびに、赤飯やおはぎをすぐに作ってくれるでしょう。悪霊退散とか言って!」
トモちゃんは、そう言って笑いました。
「そうね、そうかも知れない。小さな時に聞いた紅葉谷のお話のせいかも知れないね。おばあちゃんがお豆さんの中で小豆が一番好きなのは」
「おばあちゃん。私の誕生日に、いつも赤飯を炊いて、おはぎを作ってくれてるでしょ。だから、私、赤飯とおはぎが大好き。それに、私、いつも運いいなって思うの。小豆のお陰かな?」
「そうよ、おばあちゃんも、小豆を食べると魔よけになるって、おばあちゃんに良く聞かされたから、いつの間にか大好きになってしまって」
「わたしも、大好き! お赤飯でしょ、御饅頭、水羊かん、どれも大好きな物ばかりよ。おばあちゃん!」
「こんな、美味しい物を食べて、悪霊退散出来るんだもの。ほんとに幸せね」
まあばあちゃんは、トモちゃんと幸せそうに顔を見合わせて笑いました。
「私、おばあちゃんの故郷に行ったことない。私、おばあちゃんの故郷に行ってみたいわ。茂平さんたちがいたその山を見てみたいわ」
「知ってる人がもう誰もいなくなってしまって、景色も全く変わってまるで、知らない村のようだったわ」
「おばあちゃん。行った事あるんだ」
「恭子ちゃんが結婚してすぐに、お父さんが車で連れて行ってくれたの、ほったらかしにしているお墓の事が気になっていたから」
「そうだったんだ」
「でも、お墓どころか、御寺も無くなっていて、そのまま、帰って来たの。それに、今どきは、どこでも道路が通って昔の面影がある場所なんてなかったわ。“吊ってけ吊ってけ”というおばけの話は、昔の人が夜の山の怖さを伝えるものだと思うのよ。“明るいうちにお家に帰りましょうね”という事ね。きっと……」
まあばあちゃんは、遠い昔を思い浮べているかの様に、にっこり笑って、トモちゃんを見つめました。
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