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●まあばあちゃんと怪談話●――百合子様――
「ただいまぁ!」
トモちゃんが学校から帰ってきました。
「お帰りなさい! 早く着替えてらっしゃい。お茶にしましょう」
まあばあちゃんが嬉しそうにお茶の支度をしています。
「おばあちゃん、今日ね、エリちゃんに、怖い話を聞いたんよ!」
「まあ、エリちゃんに……」
まあばあちゃんは嬉しそうに笑いました。トモちゃんの通う高校には中等部と高等部があります。エリちゃんは中等部からの進学組で、ピアノがとても上手で勉強もできる自慢のお友達です。
「どんなお話を聞いてきたの?」
まあばあちゃんがトモちゃんに尋ねました。
「うちの学校古いでしょう」
トモちゃんの通っている高校は、大正時代に建てられたもので、今も、その当時のままの場所があちこちにあります。
昔はお嬢様学校と言われて良家の娘さんが通っていたという事です。今はそんなお嬢様学校という感じは全くありませんが明るく可愛い女の子達でいっぱいの楽しい高校です。
まあばあちゃんも、自分に女の子が生まれたら、この学校に通わせたいと思っていました。トモちゃんがまあばあちゃんの憧れていた高校に受かったと聞いたとき、嬉しさに涙が止まらなかったくらいです。
だから、まあばあちゃんはトモちゃんの学校の話を聞くのが、何より好きです。友達のこと、先生のこと等、なんでも……
トモちゃんが学校の話を聞かせてくれる時、まあばあちゃんは自分も一緒に高校に通っている気持ちになってきます。
一緒に勉強して、運動場で走って、休み時間はトモちゃんと楽しく遊んでいる自分の姿を想像して嬉しそうにしています。
「ねぇ、どんなお話?」
「昔ね……」
音楽室にあるグランドピアノにまつわるお話でした。
そのグランドピアノは、創立当時に子爵のお嬢様が入学された時に寄贈されたものでした。グランドピアノは今でもたいへん高価ですが、当時はもっと貴重なものでした。
お嬢様の名前は百合子様と言いました。とてもピアノが上手で、放課後、百合子様の弾くピアノの調が風に乗って聞こえてくると、女生徒達は足を止め聞き入るのでした。音色は美しく優しく女生徒たちの心を捉えて離しませんでした。
百合子様は、木陰で本を読んだり音楽室でピアノを弾いたりと、一人でいるのを好まれているようでしたが、一人二人と女生徒が集まってきて、百合子様の回りを取り囲んでしまうのです。
ご本人が望んだわけではないのに、いつの間にか女生徒達の中心にいるのです。百合子様は皆にとって特別な人でした。
廊下ですれ違うと誰もが会釈をして通りました。百合子さまの美しさと優雅な仕草は、みんなの憧れだったのです。
エリちゃんのひぃおばあちゃんの真理恵さんと百合子様は同じクラスで、真理恵さんも百合子様に憧れている女生徒の一人でした。
まあばあちゃんは目を輝かせて百合子様の話を聞いていました。
「それからしばらくして、百合子様のお父様が事業に失敗して破産してしまったのよ」
「まあ!」
「その時から百合子様は学校に来なくなって、心配で心配でたまらなくなったエリちゃんのひぃおばあちゃんは、百合子様のお屋敷に行ったそうなんだけど……、怖そうな人達が沢山来てて、遠くで見ている事しか出来なかったって……」
「百合子様、どうされてたのかしら……」
「う~ん。百合子様のお屋敷は人手に渡ったってしまったってことだけど……」
「そう……」
まあばあちゃんは百合子さまが心配で仕方がありません。
「しばらくして、新聞に借金苦で一家心中という記事が載ったんだって……。それ、百合子様のご家族のことで……エリちゃんのひいおばあちゃんは一日中泣いたって……」
「まあ……」
まあばあちゃんは胸が苦しくなりました。
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