”嫉妬の赤”をあたしに

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もう、展示期間はすっかり終わってしまったのに、あたしの頭の中のあたしは、何度も何度も美術館に足を運んでいた。 記憶の中の美術館は真っ暗で、ポツンとガラスケースが一つ、照明で照らされていて、その中に『嫉妬の赤』が入っている。 あたしはそのガラスケースを、有名女性アーティストのミュージックビデオみたいに正拳突きで叩き割って、持ち去って逃げる。 血まみれの手でも、警備員に追いかけられても。 赤ワインが毒になるなら。 赤い宝石が割れるなら。 この夕日が照らす海は、毒の海に変わるのかな。 真っ赤な太陽は、ぐしゃぐしゃになって爆発するのかな。 アヴェンターク夫人、教えてください。 嫉妬の赤は、この星を滅ぼしてくれますか。 あたしは映画のエンディングの、馬車の後ろ姿に向かって、何度も何度も、大声で質問した。 誰も返してくれないのに、何度も何度も。 冷房を効かせ過ぎた部屋で、あたしは嫌いな赤ワインを飲み、夕日を見ながら、いつまでもいつまでも泣くことしか出来なかった。
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