”嫉妬の赤”をあたしに

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あたし達が普段近寄ったこともない美術館の冷房は、少し効きすぎているように感じたし、薄暗い中で輝いている沢山の貴金属や絵画は、少し寒々しく見えた。 足音もしない、カーペットの敷き詰められた床を、あたしのピンクのピンヒールと、竜也のサンダルが踏み進んでいく。 休日の美術館は、想像してたよりも人がずっと沢山居て、みんな、ガラスケースの向こう側の展示物に夢中だ。 『西欧を変えた、アヴェンターク一族の歴史と栄華』 大きなポスターが、入り口に貼ってある。 オバサンが熱心にドレスやティーカップを見たり、中学生位のカップルが、モジモジしながら絵画を見ている。でも、あれは見てないわ。手を繋ぐタイミングを見計らってるだけ。あたしには分かる。 他にも、インテリな見た目の男の子が、ひとつの絵画から動かなかったり、奥さんの後ろをつまんなさそうに歩く旦那さんらしき人、ロリータファッションに身を包んだ子なんかも居る。この薄暗い空間を、ぷかりぷかり、小声で笑ったり、囁きあったりしながら、カラフルなクラゲに似たあたしたちは、ぶつかり合わずに漂っている。 「(りゅう)ちゃん、見て」 あたしは、ガラスの向こうに展示された宝石たちを指差した。 まろやかなオレンジ色を含んだ照明の光が、金色のネイルグリッターとピンクのラインストーンをまぶした、あたしの指先をキラキラと照らす。 「キレイでしょ、昔の王様たちのショユウブツだったんだって」 パンフレットに書かれてた説明は、興味のないところは頭に入らなかったので、あたしはふんわりした説明を竜也にした。 「へー、売ったら高そー」 竜也は、腕の虫刺されをかきながら、あたしより興味なさそうに言った。
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