7月の離婚式

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「9年間の結婚生活、僕は楽しかったです。正直、あなたにそれほど不満もありません。料理も美味しく、仕事もできて、頼りない僕を支えてくれました」 その声が涙混じりになり、はっとする。 会場の空気がしんみりし始めた。 「一緒に旅行したり、映画観たり、楽しかったですね。もうそんなことがないのかと思うと残念な気持ちです」 ぐすん。誰かが(はな)をすする音が聞こえた。 近くに立っていた初老の女性もハンカチを口元にあて、目を潤ませている。 「……僕はあなたを嫌いになったとか、そういうわけではありません。むしろ尊敬しています。まあ、パチンコくらいはもっと好きに行かせてほしかったかな」 どよめきに似た低い笑いが起きた。 「そもそも、『嫌い』とは何でしょう。無関心でもない、憎しみでもない。そういう意味では、まだ相手に気持ちが向いている証拠でもあります。僕はその地点さえ通過しました」 は? 何が言いたいのだろう。わたしはいらいらした。 うつむいて立っている元妻の表情は読み取れない。
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