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上
交差点を曲がると、道は田圃に吸い込まれていった。
そこそこの都会と謳ううちの地元は、駅から少し離れれば住宅地になり、そこを過ぎれば延々と田圃が広がっている。だから、今の季節は蛙がうるさいのだが、一日も経てばそれにも慣れてしまう。
つまり結局はうちの地元は田舎で、私は田舎の人間なのだ。
それ故、やっとありついた仕事も、良く言えば楽、悪く言えば退屈なものだった。
今日は、デスクワークではなく営業の仕事だが、今までずっとそうだったように、十日前と同じ場所を廻るだけで、十日後も同じ場所を廻るだろう。
だから、今日の分の仕事が昼過ぎだというのに既に終わってしまい、会社に電話をすると、今日はもうあがっていいよと上司に明るく言われた。更に雑談をしようとする上司を何とかやり過ごしたのはいいのだが、趣味など特に持っていない私は途方に暮れてしまい――
いつもは直進する道を左折したのだった。
ビル街を抜けるとコンビニが減り、住宅街を抜けると視界の半分が田圃になる。
じりじりとした日差しを受けているが、風が吹いているので、青々とした田圃は涼しげだった。
しばらく田圃を左に見ながら並走していくと、大きな交差点が現われる。
直進すれば、道はやや右にカーブしながら住宅街へと至る。右折も同様だ。二車線の道路はトラクターが通ったためだろうか、乾いた土で汚れていた。
その汚れを目で追うと、左の道に集約していく。
ここを左折すると――十キロくらい先のショッピングモールの裏手に出た気がする。
ああ、ショッピングモール……昼食もまだだし、フードコートで涼みながら、氷が滅茶苦茶に入った濃いオレンジソーダでも飲もうか。一緒にサンドウィッチ。具はローストチキンとトマト、チーズにアボガド……。
交差点を曲がると、道は田圃に吸い込まれていった。
私の乗った車も吸い込まれていった。
二車線の道路は蛇行しながら田圃の中を走って行く。それに沿うように、道の両端の側溝をキラキラと光を反射させながら水が流れていく。
フロントガラスから見える景色の下半分は田圃で、上半分は空と青々とした林だった。遥か右の方に、新幹線の高架が見え、左の林の上にはゴミ集積場の長い煙突が白煙を吐いている。
私はクーラーを切り、窓を開けた。
熱気と共に生暖かい風が入ってきて、窓から出した腕にうっすらと汗が浮かぶ。私は結局、窓を閉めてクーラーをかけ直す。
無駄な事をやっていると自覚しているが、私はしばらく後にまた同じことを繰り返した。
前方に十字路が見えてきた。
信号は無いが、結構大きい交差点だったので、私はスピードを落とした。
前方とバックミラーに目を走らせる。対向車も、後から来る車も無い。
左右に目を走らせる。やはり車は――
左の視界の端に、真っ白い物が見えた。
車のスピードを更に落とす。
自転車だ。
自転車に乗った女性。
いや、女子高生だ。
真っ白い半袖シャツに、紺色のスカート。髪の色は墨のように黒く、自転車の色は銀。
私は交差点で停止した。
クーラーを切り、窓を開ける。
女子高生は、道路の端をどんどん走って行く。熱せられたアスファルトから立ち上る陽炎で、自転車の後ろのタイヤが歪んで見えた。
私はハンドルを左に切った。
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