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「じゃあ、俺、そろそろ行くね」
教室から補講終了の号令が聞こえると、先輩はまるで可憐な少女のように立ち上がり、学校一美人な女子よりも艶やかに微笑んだ。
本音は言わず、ちょっかいばかり出して、気のないくせに寄り添って、むかつくはずなのに。
図書室に自習に行くはずの先輩が離れてしまうと思うと、心臓が壊れそうなほど、胸が締めつけられる気がした。
「先輩」
譲は画板をその辺に置き、立ち上がる。
先輩の肩を乱暴に掴み、振り向かせ、顔を上げさせる。
先輩は珍しく、目を見開いて無言で驚く。
生意気な言葉が発せられる前に、譲は彼の唇をふさいだ。
太陽はじりじりと、不健全な中学生を痛めつける。
先輩の唇は、柔らかい。
先輩の舌は、柔らかい。
【「夏思いが咲く」完】
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