プロローグ

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プロローグ

*** 月夜。 星は夜空に落ち、半月は天狗(てんぐ)の影を映し出す。 赤提灯(あかちょうちん)は、子供たちの魂を運ぶ。 *** 真夜中の校庭に、彼女はいた。 クラスメイトの羽黒澪(はぐろみお)。そのたたずむ姿が、月のひかりを浴びて、幽霊のように白く照らし出されていた。 透き通った肌とは対照的に、夜に溶け込むかのような長髪。 その暗闇が、もうひとつのひかりで柔らかく照らされる。 丸くて半透明な、独特のシルエット。 ――提灯(ちょうちん)だ。 澪は右手に、赤い提灯を持っていた。 オレンジ色の光を(まと)い、彼女の姿は(はかな)げに照らし出される。 冷たさの中にある、その優しい輝きが、彼女が学校の幽霊なんかじゃないことを表していた。 深夜十一時の学校。僕は吸い寄せられるようにここにいた。 僕たちが通う、天舞坂(あまさか)高校の校舎の前。 夜中、どうしても眠れず、逃れようのないやりきれなさのせいで、家を飛び出て。 何かに吸い寄せられるように足が向いたこの校庭。 そんな場所にいた、クラスメイトの姿。 ――どうして、彼女はこんな時間に、ここにいる? ――赤提灯なんか持って、何をしている? 当然のように渦巻く疑問が、頭の中で(あふ)れだす。 その時、 「……ユーイチ、見ィつけたー」 突然、僕の名前を呼ぶ男の人の声が後ろから聞こえた。 じっとりと絡み付いてくるような、間延びした声。 その声に、僕はぎょっとして、壊れたバネ仕掛けのように振り返った。 視線の高さに初めに見えたのは、木の枝のように長く伸びた、高い鼻。 そして、鋭い牙が二本生えた口元。 ――天狗(てんぐ)だ。 そう気づいて、僕はわき目も振らずに走って、走って、いつの間にか家まで戻っていた。 その異形の存在が、やけに恐ろしく思えて。 冷静になってみれば、あれは顔の下半分を覆っているだけの仮面でしかなかったのだが。 そして、なんだかその仮面の人のことが懐かしい気がした。 だけどそのまま、僕はあの場所に謎を残したまま、息を切らして、自室にまで帰っていた。 ――真夜中の校庭に、どうして彼女がいたのか。 そんな謎を、明日に残して。 僕はまどろみ、ため息を吐き、そして眠りにつく。 *
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