第一話「囚人」

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第一話「囚人」

 目が覚めると病院のベッドの上だった。  覚醒したばかりの瞼は重い。電脳世界でなら毎日寝覚めはパパの声があったから最高に良かったのだが、そうではないあたりもう私は人間になったらしい。  薄手の毛布が一枚丁寧に掛けられているような感触がする。けれどここは、それでもひどく寒い。ママが眠ってしまったときと同じ冷気が足の間や脇の間、首元をするりと撫でていく。  「……」  目は開いてもまだ眠気は取れないようで、私はシミのついた古い天井を見つめながら手足を動かそうとしてみた。  「──」  しかし、肉体は金縛りに遭ったみたいに動かない。何度動かそうとしてみても同じで、一体どうなっているのか現状を確かめたくて頭だけでも上げようとするが同じだった。  私の体はベッドに縫いつけられたように──いや、”縫いつけられている”と断言しても差し支えない。けれど手術後に感じるらしい痛みはない。ただただ目だけがぐりんぐりんと活発に動く。  だんだん天井のシミがウイルスに見えてくる魔法にかかったみたいで、私は疲れて目を閉じた。  ──そうすると自然と思い浮かんでくるのは、愛しい我が家の記憶。  パパは、今何をしているだろうか。ママは、結局どこにいるんだろうか。  毎日ありとあらゆる他人の船に乗って、暗い海も綺麗な海も渡っては色んな世界を見た。  目を覆いたくなるような醜悪なものも見たし、逆に私が最後に眠る前にパパが警告していた美しいものたちも沢山見た。  頭の中で今でも波の音と木霊の音、そして数々の電子の咆哮が響いている。  あちらの世界には顔がない。  だから人間の顔や動物の顔に対する興味は尽きず、いつも命のコピーをさせてもらっていた。それを食糧にして私は、息をしていた。  
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