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思い出せば思い出すほど「人間になった」という感触は増していく。走馬灯と言うのだろうか。いや、あれは死ぬ直前に流れる美化された記憶の羅列だと言われているから違うな。
どうしてパパは、私をこちらの世界に生まれさせる気になったのだろう。パパが三点リーダを雨粒みたいに点滅させていた姿は、涙が踊っているように見えた。
ぼんやりとした視界で思いを巡らせていると、私を囲っているカーテンがシャッと開いた。
「お目覚めですか」
「……?」
細く、しかし鈴が鳴るような凜とした声が鼓膜に触れた。ほわっとした気配がそこにはある。
「精霊王さまとの接続端子に異常はないようですね。現在は神々の眠り始めた午前六時、ご気分はいかがですか?」
……精霊王?
神々の眠り始めた?
聞き慣れない言葉たちに心の中で首を傾げながらも、私はカーテンの開いた方へ目線を向けた。ぐき、と首筋が痛む。やっぱり大人並みの体とは言っても生まれ立ての障害はあるらしい。
そして「彼女」の姿を目に映したとき、私はぽつりと呟いた。
「……あなたは」
一瞬、息を飲んだ。
目の前に立っていたのは確かに看護服を纏った人間であったが、その頭部はアルチンボルドの絵画のように秩序立った果実と花で出来ていた。天使を思わせる白銀の長髪は幻獣の毛並みのよう。マーガレットの瞳の奥が青色に輝いている。しかし彼女からは、どこか虚空の中にぽつんと浮いているような現実感のなさを感じた。
「あなたは誰?」という私の問いに、彼女はすぐに返事をしてくれた。
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