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「醜形恐怖症とはまた違ったものなのでしょう、精霊王さまの“ご病気”は」
ミザリはパパのことを「病気」だと喩えた。
「かつては彼もこちらの世界にあった存在。慰安のためでしょうか、貴方様が生まれた電脳世界に子種を蒔き、お母様と巡り会ったとか…」
まあこれはわたくし共の間で語られている事柄ですので、本当のことは分かりかねますが──言葉を付け加えながら無表情に語るミザリ。パパが王だと言われてもいまいちピンと来ない私は、何も飲み込めずにただ「そっか」と呟くだけだった。
「赤い満月の夜に精霊王さまは消えてしまいました。そして数年後この星が蘇ったとき、電脳世界のターミナルで見つかることになるのです。貴方様は絶大な力を持った王から生まれた、あちら側の世界から唯一こちらへ“還る”ことができた貴重な御方。どうかこの星をお守りください」
……ますます話が分からなくなってきた。
「星を守る」って、つまりはどういうことだろう?これもミザリの暗号言葉だろうか。パパが私をこの世界に送った意味。
──それは、「星を守る」ということ?でも、一体、「何」から?
ぐるぐると思考を延々と巡らす私とは対照的に、私をじっと見つめてぼーっと立ちつくしているミザリ。ただ桃の果実の唇は小刻みに何か言葉を紡いでいるように見えた。
何と言っているのかは分からない。
私は一旦考えることをやめ、彼女がペンを動かしている時に見えた左手首の“赤い手錠”に目を向けた。
「……その手錠、どうしたの?」
するとミザリはおもむろに左手首を胸元に掲げた。チャリ、と鎖の鳴る音がする。両手を繋いでいる訳ではなく、ただ左手だけに禍々しい燐光を放っているのに気付く。
「これですか。……先程も申し上げた通り、わたくしは“囚人看護婦”という生涯職務の一端を担う大罪人。貴方様もあちらの世界で生まれたのなら、世界的犯罪者の名前ぐらいは見たことがあるかと推測します」
そう言われ、私は記憶の糸を辿った。
「うーん……多分そこまでは見たことない。ミザリ……そんな名前、見たことあったっけなあ……」
「ああ、失礼致しました。わたくしの名前は知らなくて当然です。なぜならば母親の残滓と生き血の穢れに塗れた旧名は既に捨て去りましたから。ミザリという名は精霊王さまから与えられた新しい罪名(つみな)です。つまり、私を一生涯拘束しておく呪いです」
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