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第二話「大罪人たちと私の秘密」
『もし“世界”という名の音楽を作るとしたら、お前はどんな楽譜を書く?』
幼い頃、そんなことをパパに聞かれたことがある。
その時は言葉の意味が抽象的すぎて分からなかったけれど、今だったら間違い無く「不協和音で構成された楽譜」だと答えるだろう。
「うぁあぁああぁあああぁあ許せない許せない許せない許せないゆるさない赦せないよぉぉ神様ぁああああああああ!!!助けて!たすけて!タスケテ!ぼくを赦して!!」
「五月蠅いぞ魔犬野郎。お前は後頭部にもその醜い口が開いているのか」
「……搾り立ての牛乳で細胞膜みたいに包んである幼女の咀嚼した牛肉が食べたい」
「あ、あ、あ、あ、あ。深海に届けるからっコレ!深海までッ!い、いかな、いで!」
……ミザリに言いたいことは山ほどある。
けれどそう考えて頭の中で言葉を選んでみるも、いざ目の前に広がる無秩序を目にすれば語彙がすべてどこかへ流れてしまう。院内を案内すると言われ車椅子に乗せられてきたものの、最初にたどり着いたのは想像していたものからはあまりにもかけ離れた大きな病室だった。
こういうときどういう反応を示していいのか分からず不安になり、私は後ろに控えたミザリの顔を見る。
「……汚いものをお見せして申し訳ありません。わたくしもこれをお嬢様のお目に入れるのは全くの不本意なのですが」
あからさまに嫌そうな顔をして彼女は口に手を当てる。まるで腐乱臭を嗅いだときみたいな表情だ。残念に思う素振りを見せているのだろうが、私にはそれだけではないように感じた。
「……あの人たちも、患者なの?」
私は目線を前に戻し、そう呟いた。5メートルほどはあろうかという横幅の室内に病院着を着せられた「人らしいもの」──が4人いる。彼らと私との距離は頑丈そうな鉄格子で区切られているため、発狂して暴れている「彼」もこちらへ出てくることはできない。
金髪の「彼」はその中で一番人間らしい姿形をしている。左腕はないけれど。
「いいえ。“奴ら”もまた大罪人の一種ですよ。わたくしと同じく精霊王さまに罰せられた者のうちの四人です。……ただ違うことと言えば、穢らわしく下劣であることですね。ああ……早く、───のに」
ボソボソ、ボソ。
語尾の直前が聞き取れず、私は反射的に問い返す。
「……え?」
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