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なんか、物騒なことを言っていたような気がしなくもないけれど。ミザリの声音が耳の横を通り過ぎるとき一瞬だけ、人間の言葉じゃないみたいに感じた。気のせいだっただろうか?
視線を彼女と“大罪人たち”に交互に配っていると、彼女の輪郭を形成しているパンジーから別の植物の茎が飛び出していた。
「花が……」と思わず声を上げた私を、ミザリは遮った。
「正直なところ、わたくしは偏屈な彼らについてあまり多くを語りたくはございません……奴らはわたくしと同じ大犯罪を起こしておきながら、”美しいものにすらなれなかった”只の出来損ないの敗北者なのですから」
生前の姿はそれはそれは目を奪われるほどの美貌の持ち主も居ますが──残酷な囚人看護婦はそう言って目を伏せた。これ以上何も語りたくはないとでも言うかのように。瞼を閉じると花びらも閉じて、貝殻みたいだ。そこに波が入る余地はない。
「……ありがとう」
私はミザリにお礼を言って、彼らをもう一度注視した。こうしてミザリと話している間でも彼らはまるでこちらなど見えていないかのように互いに成り立たない会話を繰り広げている。
一番人間らしいと思った左手のない金髪の彼は耳を塞いで赦して赦してと叫んでいるし、五月蠅いぞと暴言を吐いていた彼は四肢はあるもののその皮膚は恐竜のようだった。青みがかった黒髪は腰まで伸びていて、すらりとした体躯はどこか女性的だ。
あとの二人は、というかそこに居る全員に言えることだけれど、私の生まれ故郷でよく見かけていたキャラクターのように思った。言語がミザリよりも癖の強い彼?彼女?──性別が判断できない──はエメラルドグリーンの美しい髪を持ち、紫色のウサギのぬいぐるみを抱えている。しかしその手は魔女の指先のように鋭利な刃物で出来ていて、そのせいかウサギは溶けたみたいにボロボロだ。
もう一人の人の正体は全く分からない。なぜなら全身が包帯で覆われているからだ。ただ特徴的なことと言えば体格がその中の誰よりも良いことと、その手に何やら小型ラジオのようなものが握られていることだ。深海、届ける、仲間たち、という三単語をずっと繰り返している。しかし、恐竜皮膚の彼は金髪の少年に対してのような態度をこの人には見せない。
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