3/3
前へ
/10ページ
次へ
 どっぺるげんがあだった。「うゅぐ」わたしの口から出したこともないような声が漏れて、あなたの口角が上がる。ワルガキそのままに笑いながらいう。 「いや、あるわけないでしょ」  あるわけないならなんでしにがみなんていうんだよ! そういうゲームだからか! そうか!  本望だなんてうそっぱちだ。  ああー! 嫌いだわ!  店を出たわたしたちは二次会へと向かう。ふらりと先頭を行く爽くんと堂々と殿を行く千慧がいて、わたしは爽くんに追いつこうと歩調を速めかけて声がした。 「その腕輪と爪、おしゃれだね」  権吉くんだった。あんたが褒めるんかい。どういうタイミングだ、いま目に留まったんか。 「そうでしょ、ありがと」  うれしいものはうれしい。 「似合ってる」 「世界一?」  わたしの辞書に謙遜の文字はない。脱字だろうけどいまさら交換なんてできないのだ。 「うん!」  権吉くんの辞書には気恥ずかしいという言葉はなさそうだ。消えそうな愛想笑いを返した。  歩調を速める。  自分が好いている人と、自分を好いている人、どちらと一緒にいるのが幸福なのか、なんてことを柄にもなく考えながら。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加