白い取っ手を掴み、扉を開く

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 モニターから男の姿が消える。 「これで記憶喪失プログラムは完全に終了しました。今回は、新たな記憶を植え付けることによる興味の消失、それによる記憶の消失、という方法を取らせていただきました。対象者の記憶を消したことにより、この建物を出た時には貴女の記憶も消去されます。ご了承ください。その後は、私達スタッフが対象者と貴女の周りにある、消した記憶に関する物体を消去致します。お疲れ様でした。」 白衣を着た男から、無機質な声と共に、淡々と説明がなされる。それを聞く女性は頭を下げ、感謝の意を述べる。 「本当にありがとうございました。これで、私は彼の中から消えられるんですよね…?」 「はい、完全に。もし仮に彼と貴女がすれ違ったとして、彼の脳内で貴女はただの通行人として処理されます。」 「良かった…」 「最後に、本サービスのさらなる向上のためにお聞かせいただきたいのですが、貴方と彼の関係はどういったものでしたか?」 「関係性、ですか?彼、いや、こんな三人称を使うような相手ではないですね。あいつは、私のストーカーでした。」 男はほう、と声を上げる。 「それはそれは…不快なことを思い出させてしまいすみません。」 「いえ、全然。ここには私のようなタイプの方はよく来られるのでは?」 「守秘義務の関係で詳しくはお答えできませんが…少なくはない、とだけ。」 やっぱりそうですよね、と女性は微笑んだ。 「本当、感謝してもしきれません。これで、あの気持ち悪い視線から逃げられるかと思うと、心が弾んで…っと、ごめんなさい、私ったら、騒ぎすぎ…」 そう言って、若干ばつが悪そうに、でも晴れやかな顔をして彼女は去っていった。  「それでは、またのお越しをお待ちしております。」
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