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窓の外ははだんだんと密集した住宅地から畑や立ち木の見える景色に代わってきた。
薄曇りだったのが、一瞬、急に雲が切れて陽が差した。
操は目を上げた。
思いのほか、気持ちが弾んできている。殺人事件の取材にいくというのに。
しかも、被害者は女性と子どもだ。
凶器は、ナイフ。
洋一はわざとこの事件を操のためにピックアップしたのだと思う。いや、そこまでいわなくとも、この事件に含んだ意味を持たせて操に渡したのはたしかだ。
大手マスコミの記者などは、現場に足を運ぶ場合であっても、移動過程で、大方の物語、つまり記事をもう作ってしまって、後は穴埋め式に気の利いた新情報を組み込むだけだという。
そんな取材には興味はなかった。だから、大手など見向きもせず、洋一のいるあの通信社を選んだのだ。
矜持のようなものはまだ自分の中に生きている。しかも、経験さえ捨ててまっさらに。
操はいつの間にか、わくわくしている自分を発見していた。
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