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 駅前にはまばらにいくつかの店があり、右手に「喫茶」の看板の文字が目に入った。  行ってみると、2階建ての建物の、1階に、小さな喫茶店が入っていて、「OPEN」の札が下がっている。操はほっとした。ここで、荷物を預かってもらうことができるかもしれない。  ドアは古めかしく、押すとカランコロンの音がした。  「いらっしゃいませ」  ウェイトレスらしい、若い女が声を上げてこちらを見る。  「お好きなところにどうぞ」  操は窓際の4人がけの席に行き、  「ブレンド」  と声をかけた。  カウンターの奥で「はい」と返事がかえる。  やがて、型通りにコーヒーを運んできた彼女に、操は声をかけた。  「悪いんだけどこの大きな荷物、この店で預かってくれないかな」  「いいですよ」  即座に彼女はこたえて、少し興味ありげに操のリュックに目を向けた。  店内にはほかに客はいない。  「助かるな。ホテルのチェックインまで、置くところがなくてね」  「お客さんは旅行?」  彼女が人懐こそうに尋ねた。
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