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 女の子は長いウェーブのかかった髪を後ろで三つ編みにしていた。年のころ20代半ばくらい。操より二つ三つ若いように見えた。  「荷物、ありがとう。助かった」  「いいえー。用事は済んだんですか」  「今日の分は予定通りに」  チェックインの時間までに、大方街中は歩いてしまった。  「まだ何日かいるんですか」  「うん、今後のことはまだ決まってないけどね」  そこで、ふと思いついて、  「君はこの街の住人?」  「そう。ここに住んでるんだもの。マスターの娘なの。お店の手伝いをしてるの」  「へえ」  カウンターの奥にいて顔を出さないマスターが、少しこちらをうかがっているように思えた。  「落ち着いた、いい喫茶店だね。コーヒーもおいしかった」  マスターにも声をかけるような気持ちで言い、  「また来てね」  という女の子の少しくだけた声を受けながら、店を後にした。
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