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さて、そこから歩いて20分ほどの小さなビジネスホテルが当面の宿である。
チェックインを済まし、部屋に入った。
ベッドとサイドテーブル、作りつけの台にポットと湯飲み、むき出しのハンガー掛け。背もたれのない椅子。
しばらくすると、スマホが鳴った。洋一からだった。
『着いたか?』
「着いたよ。ホテルにいる」
『よろしくな』
それだけだった。操は微笑して、これからのスケジュールを組み始めた。
さて、今回の取材にあたって、操は一つ、自分に決めていることがあった。
それは、あらかじめ答えを描かない、先入観を持たないということ。
もちろん、取材していれば、自分なりに見えるものもあるだろう。それはそれで構わない。いや、むしろそれこそが必要だ。
けれど、もっともらしい記事を書くことを急ぐあまり、性急に答えを描いて、その道筋をたどるようなことはするまい。そんなことをするくらいなら、取材など無意味だ。
「料理しだい」という洋一の言葉が、操を挑発していた。久々に腕が鳴る気分だった。
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