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「すいませーん」
奥の席から呼ぶ声がする。朝の時間帯だけあって、店内は満席だ。
会社員風の男女は二人席に一人でついてスマホを見ている。ウォーキングの最中らしい老人のグループは四人がけのテーブルを占領、カウンター席は埋まっており、その一つに操もいた。
今日は朝から晴れている。駅前ロータリーに面した店内は明るい。操も心が開放的になっていた。
店のラックから全国紙をひとつとってきて、コーヒーを飲みながら目を通すことにした。
「今日はどこかにいくんですか」
最初、声をかけられたことに気づかずに、熱心に新聞を読んでいた操だが、カウンターのまえで、少しわざとらしくのぞき込むようなふうをする美知の視線に、顔を上げた。
悪意のない軽い好奇心がその瞳に浮かんでいる。
操はとうに自分で確認済みのことを、試しに聞いてみた。
「森田小学校は、ここから歩いて何分くらい?」
「え、小学校に用があるの」
美知はやや拍子抜けしたようだった。
「歩いて、30分くらいかな。ああ、でも自転車使うといいよ、うちで貸し出してるの」
「へえ、じゃあ、借りようかな」
「うん。小学校に何の用?」
「取材」
「え、お客さん、テレビの人?」
美知は目を丸くした。
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