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 店をでると、操は小学校のある方には向かわなかった。  駅前から通りを少し入る。すぐに住宅街が現れる。そして、「殺人現場」はそのごくありふれた住宅街のなかだった。  大概の事件は、およそ日常の中で起こるものだろう。その日常がどんなものであったのかを探るのが、もしかしたらジャーナリストの仕事かもしれない。    事件は9カ月前、この街角で起きた。決して新興住宅地ではなく、大小・新旧の一戸建てが雑多に立ち並ぶ場所。路地、電信柱、小さな児童公園。  道には申し訳のようにカーブミラーがあるが、車の通りは極めて少ない。およそ自家用車専用、あとは宅配の車が入り込むくらいか。  角を曲がると、3階建ての市営住宅の黒ずんだ建物があった。外階段を上って、2階の廊下に出、204号室前で立ち止まった。ドアポストにマジックペンで「上山」と書かれている。操はブザーを押した。
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