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 すぐに返事はない。この家の雰囲気から、何となく予想はついた。アポを取っているからといって、わざわざ茶の用意をして待っているような住人ではないだろう。  しばらく待った。近くの樹木から、突如「ジー」というセミの声が響き始めた。少しだけ、操は不安になる。  ブザーが壊れているのかもしれない。もう一度押してみようと手を伸ばしかけた時、ドアの向こうに人の気配がした。  「ごめんください。11時にお約束していた、関口操というものです」  ドア越しに声をかけるが、返事はない。が、ガチャリと鍵を開ける音はした。  ドアが細めに開いて、中年の小太りの男が顔をのぞかせた。ひげ面で、頭は禿げ上がっている。  「こんにちは。今日はよろしくお願いします。上がってもいいですか」  男はドアを全開させ、操を中へいざなった。ぶっきらぼうだが、敵意はない。いや、生気自体がないといった方が正確か。  操は遠慮なく中に踏み入れた。ありがちなことだが、カーテンは半開きで薄暗く、室内は散らかってはいないが、がらんとしている。  ここは生活保護受給者のための借り上げ住宅だった。
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