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 「おれがいたのは……ちょっとペンを貸してほしいが」  上山は操のボールペンをとって、操の手帳の上に書き込んだ。自分を「おれ」と言うように変わったことに、操は気づいた。描いたのは、住宅地図のようだった。  「あんた、現場は行ったのか。そうか。なら、分かるよな。ここに児童公園があって、そのはす向かいの、角の……」  操は頭の中で昨日見た光景を再構成していく。  「おれがいたのは、この路上。ここに帰る途中で」  ボールペンをぐりぐりと押し付けて、黒丸を描いた。  「角から、何かがつんのめるようにして、飛び出してきて、後ろから別の影が。もつれるような感じではなかったな。声も出さなかった。ただ黙ったまま」  「黙ったまま」  「後ろから刺した」  上山は必死に思い出そうとしているようだった。
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