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 少し沈黙があった。  操は低い声で続きを催促した。  「それであなたは?」  上山は表情を変えずに言った。  「おれはカメラを探した」  「カメラ?」  「テレビカメラだ。ドラマかなんかの撮影だと思ったんだ。でも、本当は、そうであって欲しいという方が強かったかな。  おれのはじめに頭に浮かんだのは、『面倒になった』ということだ。おれは頭の病気でね。この日も億劫なのをむりやり外出して、家に帰るところだった。それが、こんな厄介なことに出くわそうとは」  そのときのことを思い出したのか、上山は顔をしかめて見せた。
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