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「おう」
洋一が、のれんをくぐった操を認めると片手をあげて呼んだ。操は軽い笑顔でテーブルをはさんだ洋一の向かいの席にどっかと腰かけた。
「元気か」
洋一が明るく話しかける。すでにジョッキのビールを飲み干していて、食べかけの餃子が皿の上にのっていた。
「元気だよ」
静かに操は答えた。
洋一はいかにも戦場カメラマンといった風体の大男で、日に焼けて浅黒い。操はどちらかというと小柄で、細面で色も白い。二人向かい合っていると、対照的に見える。
操はチャーハンと生ビールを注文した。
「それでさっそくだけどね」
いつもながら洋一はせっかちだ。
「頼まれてほしい仕事があるんだ。安心しろよ、向こうの仕事じゃないから」
洋一が「向こう」というとき、それは海外の取材のことだ。
「いや、いいよ」
即座に操は答えた。洋一は拍子抜けというように、大袈裟に肩をすくめてみせる。
「なんだよ、聞く前から」
「なんにせよ、ぼくはやらない。もうカメラは持たないんだ」
「情けない」
洋一は粘りを見せる。
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