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思い出したらまた泣けてくる。
ずっと別れたいって思っているのに、心の奥の奥の奥底ではきっとまだ何か手はあるのかもしれないって期待しているのかもしれない。
帰りのタクシーの中で、もう一切期待はしないって誓ったのに。
だって初めての彼氏なんだから。こんな最悪な形で終わりたくないに決まっている。
好きって思えたことも、手を繋いだことも、キスをしたことも全部砂羽くんが初めてだったんだから、円満に別れる方法なんて本当に存在するのか知らないけれど、それでもこんな風に終わりたくない。
「な、泣く!?もう電車来るから人も集まるよ!?グッと堪えて!ね!?」
「んなっ、泣いてません!悔し……くて」
「ほら、こっち来よう。いくらか目立たない」
「悔しい……っんです!未だにっ、あんな彼を好きなことがっ」
「うん、分かるよ」
電車が到着するアナウンスと一緒に、今の私の心情には全く似合わない愉快な音が鳴り始めた。
「砂羽くんを好きでいることがっ、つらい……!」
ダメだ、涙が零れる。
人がドッと増えていくこの中で、お姉さんに差し出された腕の中に入って隠れようと1歩踏み出した、その瞬間だった。
「―――梨真が行くところはそこじゃないよ」
前に進もうとした私を、なんの前触れもなく思いきり後ろに引いたのは――。
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