第二抱 修行と戦いの日々

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第二抱 修行と戦いの日々

学生食堂での昼食時、サンサンはひとりの男の子に熱い視線を投げかけられています。 この男の子は佐藤俊介といい、実は大人です。 結城と悦子の願いの子である青空と夫婦になるために、俊介はわざわざ子供の姿をして青空に寄り添っているのです。 青空も俊介を認めて、いつも一緒にいる仲のいい関係になりました。 青空は、「迷惑だよぉー…」と言って俊介の服の袖を引っ張っていますが、実は青空も興味津々なのです。 俊介はあるお題をサンサンに提示していたのです。 「あー、この写真…」とサンサンは感慨深げに見ています。 「実はね、  ランスさんには別のジオラマをお願いして造ってもらったんだ。  それがこれ」 俊介が言うと、俊介の緑の妖精が3D映像を出しました。 「うわっ!」と言ってサンサンは少し驚きました。 それはまるで、人がここにいるように見えたからです。 「これが思い出の…」とサンサンが言って、柔らかい笑みを浮かべて胸を押さえました。 すごく平和で微笑ましいワンシーンだとサンサンは思ったようなのです。 「これはね、ボクと結城さんに悦子さん、  それにカノンちゃんの四人が修行をしているところなんだよ」 今とは顔も体格も違うのですが、その存在感はまさにその通りだとサンサンは感じたようです。 「その後に僕自身の家族もできたんだよねぇー…  それがこれ」 そこには一人の男性と、ひとりの少年、そしてふたりの子供がいます。 「大人は僕、少年はグレラスさん」と俊介が言うとサンサンはかなり驚きました。 「小さい子ふたりも僕の子供だけど、まだ見つかってないんだよ。  見つかるように願いを込めたいんだ」 サンサンに俊介の想いが伝わってきました。 「すごく複雑…  あ、私ってお仕事、すっごく遅いから…」 「サンサンちゃんのペースで」と俊介は笑みを浮かべて言いました。 映像はヒューマノイドがデータをもらったので、いつでも再現できます。 ―― お人形のお洋服… ―― とサンサンは思いましたが、園児たちは誰も何も言って来ません。 『一応、説明しておいたから。  俊介も正体不明でかなり怖ええ…』 魔王がサンサンに念話をしてきて、サンサンは少し笑いました。 『それにだ。  ランスさんと同等の力を持っている、かなり強い人だぜ』 魔王の言葉はさらにサンサンを驚かせました。 『お父さんが、頭が上がらない、とか…』 『ああ、ゼンドラドさんと同じ扱いだな』と魔王はすぐに答えました。 『やはりランスさんの灰色の存在が一番の脅威だ。  それを始めてやった人が俊介さんなんだ。  だけどな、ランスさんはそれを知らずにひとりで成し遂げたんだ。  ランスさんもやっぱすげえよなぁー…』 魔王が言うと、サンサンはかなり喜んで、魔王に欲しいものがないか聞きました。 『あー、チェニーがなぁー…』と言って魔王が言ってサンサンは説明を聞いてすぐに、チェニーのお望みのものを造り上げました。 魔王は丁寧にサンサンに礼を言って、チェニーと遊び始めました。 そして園児たちも、チェニーと魔王を囲んでいます。 ―― 今のうちに… ―― と思ってサンサンは魔王に感謝してから、3D映像を出して、まずは背景から造っていきます。 映像は室内で、木造の質素な家のように見えます。 四人の中でひとりだけいる女の子が怒っています。 ―― 一体、何を怒って… ―― と思い探ると、すごく他愛もないことだったようで、サンサンは少し笑ってしまいました。 この映像には感情も乗っているので、サンサンでも手に取るように理解できるのです。 俊介は家族には優しいのですが、自分自身にはかなり厳しい性格のようです。 よって、それに甘えたグレラスは楽な道を歩むようになったと、サンサンは思いをめぐらせました。 ですが、それがよかったのか、その子供のゼンドラドは何に対しても厳しく育ちました。 きっと、古い神の一族の中でも、ランスとトップ争いをするだろうと、サンサンは思ってやみません。 色々と考えているうちにジオラマが完成していました。 ですが、―― あー、失敗だぁー… ―― とサンサンは思って頭を抱え込みました。 人物の思いは完璧なのですが、それ以外にサンサンが考えたことが、建物の壁などにこびりついてしまったのです。 サンサンは幼児らしからぬ苦笑いを浮かべて、作品を廃棄するために悦子の下に行きました。 ですが悦子はこの作品をいいものだとして、サンサンから奪い取ろうとしています。 「エッちゃん、ダメよ」と保奈美が言うと悦子は、「はい、ごめんなさいっ!」とすぐに保奈美とサンサンに謝りました。 そしてかなり残念そうな顔をしている悦子が処分する直前に、俊介がそれを止めました。 「おもしろーいっ!  サンサンちゃんありがとっ!  ボク、これがいいんだっ!!」 俊介が言うとサンサンと保奈美は少しあきれてしまいましたが、悦子は悔しがっています。 「お化け屋敷みたいで好きなのっ!」と悦子が言うと、サンサンは納得した上で苦笑いを浮かべました。 「なるほどねぇー…  造った本人が失敗作だって思っても、  それをいいものだって思う人もいる。  こういった作品って難しいものなのね」 保奈美が悦子に顔を向けてやさしい声で言いました。 「特にね、古い神の一族の人たちが創ったものはそれがあるの。  魂、沸いちゃったりしてねっ!」 悦子が言うと保奈美は簡単に納得しましたがサンサンはすぐに食いつきました。 「あらっ?  知らなかったの?  青空ちゃんの魂はお兄ちゃんの造った木像から生まれたのよ」 悦子がごく自然に言うと、サンサンはあっけに取られました。 「あ、あとセイラちゃんもそう。  青空ちゃんは木像番号50番で、セイラちゃんは8番よっ!!」 悦子が言うと、サンサンはかなりほうけた顔でうなづきました。 「…私、私…」とサンサンは言って、この先どうするかを考え始めました。 サンサンはすぐに調べました。 木像から魂を創り出せるのは結城しかいません。 しかも意識して沸かせることはできないので、木像のでき栄えによって、覇王の高揚感や想いによって偶然に沸きあがってくるものなのです。 その高等技術とも言える技と想いの深さから、ついつい魂が沸いて出るようなのです。 ですのでサンサンは木像を彫ろうと、覇王に弟子入りを志願することにしました。 ですが覇王は忙しいので、まずサンサンは覇王の作った木像を鑑賞することにしました。 現在確認されている覇王の造った木造から生まれた魂の持ち主がいるものだけ公表されていました。 覇王は50のうち4つの魂のありかを把握しているようです。 この中で一番特異なものは、やはり木像番号八番で、それは丸くなって眠っている猫でした。 ―― セイラさんって、動物の魂を… ―― とサンサンは思いましたが、これはほぼ正解です。 あとみっつの木像は、早百合によく似た面差しのやさしそうな木像です。 『これが大昔の悦子様』とヒューマノイドが言いました。 そして、サンサンにはまだ早い話なのですが、覇王と悦子の恋愛秘話を聞きました。 そして、悦子の子に当たる、安藤麗子の話も聞きました。 その麗子が蛮行に出て、覇王をわが者にするために、星を、宇宙を壊し回ったのです。 もちろん覇王もそれに対抗しますが、多くのものを壊してしまったのです。 そしてふたりは、地球の仏陀によって、虚無の世界に落とされたのです。 当事の仏陀は、蓮迦の娘でしたが、当然蓮迦も仏陀に協力しています。 『蓮迦さんって、こんなにすごい人だったんだぁー…』とサンサンは大いに納得して、感動を覚えるほどに体を震わせました。 それもそのはずで、蓮迦の魂は今の悦子であるデヴォラの双子の弟ルオウと瓜二つなのです。 その昔、蓮迦はひとりのしがない堕天使でした。 かなり色々とあって、ルオウが蓮迦に自分自身の魂の情報をコピーしたのです。 よってルオウと蓮迦は魂的には双子と言っても過言ではないのです。 ルオウは今は、このセルラ星のエラルレラ山のトンネルの管理人をしています。 このトンネル内に、暗黒宇宙につながる広場があって、日夜、悪を滅ぼしているのです。 この悪の正体は、古い神の悪い部分なのです。 よってランスであるサンダイスの悪も大勢いるのです。 ジゴクと同じで、悪を倒すとメダルが地面に落ちます。 そのメダルの持ち主が吸収することによって、改心してさらに強くなっていくのです。 『あー、魔王君がうらやましいって、この件も含めて…』 『憶測ですけど、それもあります』 ヒューマノイドの言葉に、サンサンは大いにうなづきました。 覇王が学生食堂に入って来ました。 カウンターの列に覇王が並んだ時、サンサンは素早く寄り添って、「木像のお師匠様になってもらいたいんですけど…」と控えめな声で言いました。 覇王はサンサンに笑みを向けて、「うーん…」と少しうなってサンサンを見ています。 「師匠はいらないと思うよ。  もし行き詰ったらアドバイスするから、  まずは自分でやってみていいと思うんだ。  …あー、今はダメだなぁー…」 覇王が言うと、サンサンは何がダメなのかを知りたくなりました。 「早百合も木像を彫っているんだけどね。  今は忙しいから…  だけど、作品はドズ星に飾っているから見てくればいい」 覇王の言葉にサンサンは、「はい、ありがとうございましたっ!!」と大声で覇王に礼を言って頭を下げました。 サンサンは早速、ドズ星に行こうと思いましたが、園児たちが妙にさびしそうだったので、ヒューマノイドから出て、抱きつきタイムにしました。 昼休みが終って、サンサンはひとりで地球に渡りました。 「おっ! ひとりかい?」とやさしい笑みを浮かべている源次郎が料理を作りながら言いました。 「あ、はいっ!  早百合さんの木像を見せてもらおうと思って…」 サンサンが言うと、「あ、オレがお供をしてやろうっ!」と痩身の美人が立ち上がりました。 「あのぉー、ベティーBTさん…」とサンサンはつぶやくように言いました。 「そうだぁー…  食ってやろうかぁー…」 ベティーはいきなり、サンサンを威嚇しましたが、「あー、私、ぬいぐるみなのできっとおいしくないですぅー…」と言うと、「うっ!」と言ってベティーは言葉に詰まってしまいました。 「おっ!  ヒューマノイドを着ているのかっ!!」 ベティーはさらに驚いています。 「出ちゃうとお話しできないので…」とサンサンは言ってから、ぬいぐるみの姿をベティーに見せました。 「…ううっ、かわいい…」とベティーはつぶやくように言ってから、サンサンをひょいと摘み上げて抱きしめました。 そしてなぜだかすぐに開放しました。 「確かに、うまそうじゃないな…」とベティーがにやりと笑って言うと、サンサンに戦慄が走ったようです。 「じゃ、行こうか」とベティーはすたすたと歩いて、ドズ星に続く黒い扉に入っていきました。 サンサンは慌てて源次郎にお辞儀をしてからベティーに続きました。 ドズ星に渡るとベティーはもう50メートル先を歩いていました。 サンサンは走って何とか追いついたのですが、連れが増えていました。 暇だったのかセイランダたちもついてきたのです。 「サンサンちゃん、何なに?」とセイランダはいつもの陽気さでサンサンに聞いてきました。 この見た目も性格もかわいらしいセイランダが、まさか凶暴そうなダイゾに変身するなどと、誰も思わないことでしょう。 「早百合さんのね、木像の工房を見せてもらおうと思って…」 サンサンが言うと、「私もやりたいっ!」とセイランダが言いました。 「おまえは俺と勝負だぁー…」とベティーが言うと、「決着つかないないからイヤなのっ!」とセイランダはホホをふくらませて言いました。 ―― ものづくりじゃなくって戦っちゃうんだぁー… ―― とサンサンは思って、―― その戦いも見るべきかも… ―― などとも思ったようです。 早百合の工房は、セイランダたちがいつもいるプールの近くにありました。 サンサンはここで暮らしているのですが、まだ全てを見たわけではなく、知らないいことの方が多いのです。 サンサンは新たな発見ができて感激しています。 「俺が触ると壊すそうだから、勝手に見てくれ」とベティーが苦笑いを浮かべて言うと、サンサンも、「あはは…」と空笑いしてから苦笑いを浮かべました。 「あっ、これって…」と言ってサンサンが手に取ったのは、ヒューマノイドが見せてくれた結城の彫ったものと同じものでした。 「あ、でも、違う…」と言ってサンサンはイメージしました。 「早百合から念話だ。  材料も道具も使っていいそうだぞ」 ベティーが言うと、サンサンは丁寧にお礼を言って、辺りを見回しました。 もうすでに、セイランダは作業に取り掛かろうとしています。 サンサンはヒューマノイドから、木像造りの手順などはもう聞いて知っています。 サンサンはイメージしてすぐに木像を彫り始めました。 サンサンの記憶の中で一番インパクトがあるのは、サンドルフがリノとエンジェルを驚かせたシーンです。 そしてサンドルフもサンサンの造った、少し威嚇しているぬいぐるみが好きだと言ってくれたのです。 サンサンはいつも通りゆっくりと、サンドルフの木像を彫り始めました。 「あら? 挑戦、始めたのね?」とサンサンの体から声が聞こえたと同時に、ベティーからサランが飛び出してきました。 ベティーはまったく驚いていなかったので、サランはベティーに念話をしていたようです。 「あははははっ!  かわいいわぁー…」 サランは陽気に笑いながら、サンサンをほめています。 まだ輪郭だけのように見えるのですが、サランは完成作品を想像して言ったようです。 「私よりも上手なんじゃないのかしら…」とサランは言ってから、自分の道具と材料をどこからか出して、木像を彫り始めました。 もう数時間が経過して、やっとサンサンの作品が完成しました。 「うっわっ! 大迫力っ!!」と言ってセイランダが目を白黒とさせています。 サンサンも気に入ったようで、じっくりと見てそして、その胸に作品を押し当てました。 「あー、暖かい…」とサンサンが言った途端に、サンサン自身が光を放ち始めました。 「…お、おい…」とベティーだけが妙に落ち着かないようですが、サランもセイランダも笑顔でサンサンを見ています。 光が落ち着いたあとサランは、「じゃ、私は帰るから」と笑顔で言ってから姿を消しました。 サンサンには一体何が起こったのか、よくわかりませんでした。 『ヒューマノイドさん、一体、何が…』とサンサンは念話をしたのですが、ヒューマノイドは答えてくれませんでした。 サンサンはかなり心細くなって、少し泣いてしまいました。 すると猛然たるスピードで、細田と源次郎がサンサンに近づいてきました。 そして細田はすぐに、「あはは、まるごと…」と言ってから、妙な機械をたくさん出してサンサンを包み込みました。 頼りなさそうなサンサンを見た細田は、「あ、大丈夫だから」とやさしい笑みを浮かべて言いました。 サンサンは何も心配はしていません。 サンサンの体調の確認だと思っただけなのです。 「パターンとしては、サンドルフと同じか…」と源次郎が言うと細田は、「はい、そうですね、ほかには誰もいません」と笑顔で答えました。 サンサンには一体何が何やらわかりませんでしたが、細田も源次郎も笑顔なので、まったく心配はしていません。 「サンサンちゃんは能力者で人間だよ」 細田が言うと、サンサンは信じられない思いで一杯になっています。 「あ、ヒューマノイドさん…」とサンサンが言うと、「サンサンちゃんの体の一部になったようだね」と細田は答えました。 「今までのお礼、言ってなかった…」とサンサンは少し涙を浮かべました。 「大丈夫だよ。  その思い、届いたはずだから」 細田がやさしい口調で言うとサンサンは、「はい、そうだとうれしいですっ!」と満面の笑みで言いました。 「能力者としては、まずは変身能力」と細田が言った後に、サンサンは心を落ち着かせて自分自身の心を見ました。 すると、『変身』の欄に、『ぬいぐるみ』とあったので、少し笑ってから、今までのサンサンに変身しました。 ―― うっ!! やっぱり話せないっ!! ―― とサンサンは思って、元の姿に戻りました。 「ぬいぐるみなので、やっぱりお話しはできませんけど、  すっごくうれしいですっ!」 サンサンが言うと、細田も源次郎もサンサンに笑みを向けました。 「ほかの能力も探っておいてね。  ここからが勇者になるためのスタートラインなんだからね」 「はいっ! 細田先生、ありがとうございますっ!!」とサンサンは元気よく言いました。 「いやぁー、このサンドルフの木像が…」とベティーが持っている木像を見て言いました。 「よくわからないんだけどね、魂が沸いたと思うんだよ」と細田が答えました。 サンサンは驚くよりもほうけた顔をしています。 「私、サンドルフ君の魂をっ?!」とサンサンは言ってうれしく思いましたが、「あ、ちょっと違うけどね」と細田が苦笑いを浮かべて言ったので、サンサンは冷静に考えて、―― それもそうだ… ―― と思ってかなり気落ちしました。 「サランさん、こうなること、知っていたんだろうなぁー…」 細田が言うと、だれもが納得したようです。 「欠損はないと思うけど、記憶は?」と細田が言うと、サンサンは生まれてからのことを考え始めて、「多分、全部覚えていると思います」と答えました。 「忘れていることもあるかもしれないから、要注意だよ。  特に出会った人たち。  まさか、ランス君のことを忘れているとか…」 「それはありませんっ!」とサンサンはすぐさま大声で答えました。 「あーでも…  セイランダちゃんに似た人と会ったような…」 サンサンが言うと、「欠損、あったねっ!」と言って細田は喜んでいます。 「セイラちゃん…」と細田が言うと、「あ、はいっ! 思い出しましたっ!!」とサンサンは元気よく答えました。 「あわよくば忘れたい人…」と源次郎が言って、くすくすと笑い始めました。 「だとしたら、グレラスさんは?」と細田が言うと、サンサンは頭を抱え込みました。 苦笑いを浮かべた細田が、「あー、やっぱり…」と困った顔をして言いましたが、源次郎は大声で笑っています。 「きっとね、心がキレイじゃない人を忘れてもいい、  もしくは忘れたいって思っていたのかもね」 「あー、それはダメですぅー…」とサンサンは言って反省を始めました。 すると、グレラスのことも思い出したようで、サンサンはほっとしています。 「天使よりも天使だね」と源次郎は優しい笑みをサンサンに向けました。 サンサンはくすぐったくなったようで、源次郎たちに笑みを向けています。 念のため、細田はサンサンが生まれてから接した人物を映像化して並べましたが、全て記憶にあるようで、サンサンはほっと胸をなでおろしました。 細田が笑みを浮かべて、「たぶん問題ないと思うよ」と言うと、サンサンは丁寧にお礼を言いました。 「あのぉー…」とサンサンが言って細田に懇願の眼を向けると、細田はいなくなってしまいました。 「あー…」とサンサンが言うと源次郎が、「ランスに聞けということなんだろうな」と笑みを浮かべている源次郎が言いました。 サンサンは納得して、「はい、きっとそうだと感じていましたっ!」と元気よく言ってから、源次郎に頭を下げました。 「サンサンちゃんっ!」とセイランダが言って、サンサンに抱きついてきました。 「私のお人形も造って欲しいっ!」とセイランダが言ってから、セイランダの造ったダイゾ人形に戦慄を覚えました。 「あはっ! 全然うまくできなくって…」とセイランダは恥ずかしそうに言いました。 この作品はお世辞にも上手だとは言えません。 ですが魂が沸いて出るほどに素晴らしい作品だと、サンサンは思ったようです。 「心がこもってるの。  私はうまくできているって感じたわっ!」 サンサンが言うと、セイランダは疑いもせずにお礼を言いました。 サンサンはセイランダが造った人形の思いそのままにダイゾを彫り上げました。 「ううっ! じっくり見ると怖いっ!!」とサンサンが言うと、「いい度胸だっ!!」と言って、サンサンの造ったダイゾ人形に戦いを挑もうと、ベティーが身構えました。 「相手は木の人形だよ…」とタレントが苦情ぽく言いました。 そのとなりで利家がお腹を抱えて笑っています。 「だけどね、それほどの迫力は感じたよ」と利家が言うとベティーは、「いきなり動かないだろうな…」と言いつつ、恐る恐る人形に触れようとしています。 ですがすぐに、セイランダが人形を手にして、「私、強い…」とつぶやきました。 そして、とんでもない畏れが辺りを覆いつくしましたが、それは一瞬でした。 「サンサンちゃん、ありがとっ!  大好きよっ!」 セイランダは言ってから、サンサンを強く抱きしめました。 ―― あー、ぬいぐるみの心が今も… ―― とサンサンは思い、サンサンもセイランダを強く抱きしめました。 「なるほどなるほど…」と言って、セイランダが持っているダイゾ人形と、サンサンが造ったサンドルフ人形を、涙を流して大人の姿の佐藤が見入っています。 「ああ、やはり魂が沸くほどの腕前…  父上と寸分違わずすごい技術を持っています…」 佐藤が号泣を始めると、サンサンはかなり困ったようで、照れくさくなってしまいました。 「さらには謙虚。  まさに父上もそうだったなぁー…」 佐藤は感慨深く言いました。 「あ、ランス君の工房に飾るんですよね?」 「俊介君…  あ、俊介さん、普通に話してくれていいんだけど…」 サンサンが苦情ぽく言いましたが、佐藤は首を横に振りました。 「これからもすばらしい作品を期待していますっ!!」と佐藤は言って、サンサンの両手をしっかりと握り締めてから、サンドルフ人形用のケースをどこからか出して人形を入れました。 「ああ、素晴らしいなぁー…」と佐藤はまた号泣しながら、サンドルフ人形を見ています。 「あははは…」とサンサンは愛想笑いをするほかなかったようです。 サンサンは、ベティー、タレント、利家の希望する木像も、じっくりと時間をかけて彫り上げました。 「ああ、ランス君とも、父上とも違う…  かわいらしいのに芸術作品…  これは悦子さんも、  その弟子のガフィロちゃんも悔しがることでしょう…」 サンサンはガフィロという人が誰なのか佐藤に聞くと、衝撃が走りました。 「…サランさんの娘さん…」とサンサンがぼう然とした顔で、佐藤が言った言葉を復唱するようにつぶやきました。 「本人を連れて来た方がよさそうですね。  これも、ガフィロちゃんのためでしょう。  彼女がさらに成長を遂げた時の作品がまさにこれだと、  私は思っているんですよ。  ああ、サランさんが連れてくるかもしれませんから、  余計な事はしないでおきましょう」 佐藤は言ってから、また木像の鑑賞を始めました。 サンサンは大切な人を忘れていたことに気づいて、また椅子に腰掛けました。 ベティーたちはサンサンの邪魔をしないように見守っています。 またかなりの時間をかけて、サンサンは一番初めの記憶にある、幼児の天使姿のランスの木像を彫り上げました。 佐藤は、今度は声を上げて号泣を始めました。 「これ以上の作品はどこにもありませんっ!!」と佐藤が叫んだ途端、サンサンたちの背後でまばゆい光が立ち込めました。 そこにはドズ星に渡ってきたデヴィラの姿が見えました。 そしてデヴィラの影のスーランが光を放っていたようです。 スーランはデヴィラを置き去りにして、サンサンめがけて突進してきました。 そしてサンサンの目の前で止まって、サンサンを抱きしめました。 「ああ、お母さん…」とスーランが言うとサンサンは、「ええええっ?!」と言ってかなりの勢いで驚いています。 「このランス君人形からまた魂が沸いて、  スーランちゃんに宿ったようだね」 ようやく泣き終えた佐藤が言うと、デヴィラがかなり驚いています。 「ランスさんが私のことずっとほめてくれていたからっ!」とスーランは満面の笑みでサンサンに報告しています。 「あー、お父さん、すっごぉーい…」とサンサンが言うと、「ほんと、すごいお父さんだよねっ!」とスーランもランスを絶賛しています。 サンサンは父親をほめられてすごくうれしそうです。 「兄上、これは一体…」とデヴィラが言いました。 ふたりは古い神の家族でいうと結城の子供に当たるので、デヴィラと佐藤は兄妹なのです。 デヴィラは古い神の力が覚醒してからずっと、佐藤のことを兄上と呼んでいます。 デヴィラは優秀でやさしい兄のセントが大好きだったのです。 佐藤が詳しく説明すると、「サンサン、よかったね」と言って、デヴィラはサンサンを抱きしめました。 「うんっ! すっごくうれしいのっ!」とサンサンは言って、今更ながらですが、泣き出してしまいました。 サンサンは今、デヴィラを母としたようです。 ですがデヴィラは園児たちみんなのお母さんなので、欲張るわけにはいきませんので、サンサンの心の奥底に留めることにしたようです。 「お母さんでいいのよ」とデヴィラがやさしく言うとサンサンはまた大声で泣き出し始めました。 ですがその泣き声はすぐに止んで、サンサンはデヴィラから距離を取りました。 ―― しまったぁーっ!! ―― といった顔をデヴィラはしています。 サンサンはかなりの戸惑いを感じているのです。 「…お母さん、じゃなくていいですぅー…」とサンサンに冷静に言われて、デヴィラは深く肩を落としました。 「全然ダメじゃん…」とスーランが軽蔑の眼差しをデヴィラに向けています。 デヴィラは欲を持ってしまったのです。 サンサンを子供にしてしまえば、ランスと夫婦になれる機会は必ず訪れると考えたようです。 その欲が、サンサンに正確に伝わったのです。 「お母さんはサランさんでっ!!」とサンサンは元気よく言いました。 「やはり、欲を持ってはいけないよね」と、佐藤に冷静に言われてしまったデヴィラは、さらに肩をすぼめました。 … … … … … サンサンは帰星したランスとサンドルフを笑顔で出迎えました。 ランスは当然のように全てを知っていますが、サンドルフはまったく知らされていません。 サンサンはまずはランスに寄り添って、ランスに飛びついて抱きつきました。 「うっ! 重いっ!!」と開口一番にランスが言うと、全員がランスに驚きの顔を向けています。 「サンサン、どうなってるんだ」とランスは笑顔でサンサンを見て、「はあ、なるほどなぁー…」と言って納得しています。 「サンサンは武術の修練も始めて欲しいね」とランスが言うと、サンサンはかなり驚いたようです。 ですが、ランスの望みなので、ここは素直に、「はい、お父さんっ!」とサンサンは答えました。 ランスは満足そうにして、いつもの席に腰掛けました。 今日の戦いはそれほどハードではなかったのか、みんな元気です。 ですのですぐに反省会が始まるとサンサンは思ったので、サンドルフにはまだ言わないことにしました。 「反省会よりも大切な話がある」とランスが言って、サイコキネッシスを使ってサンサンを浮かせ、サンドルフに抱きつかせました。 「うっ! ぐおっ!!」とサンドルフは言って、サンサンを抱きしめたまま、両ひざを床につけました。 「なぜ、こんなに…」とサンドルフは、ぼう然とした顔をサンサンに向けました。 「…重いから嫌われちゃうぅー…」とサンサンは言って少し悲しみました。 サンドルフがひざを折るほどなので相当の重さだと、みんなは思ったようです。 「推定体重300キロ、ってところだな。  さらにサンサンは魂を得たようだ」 ランスの言葉を聞き、サンドルフはすぐに探って、サンサンの魂を確認しました。 「ああ、すごい…  こんなに早く…」 サンドルフはサンサンに向けて笑みを浮かべて感動しています。 「あ、しかも、どうして生身の人間に?」 サンドルフが言うとみんなはさらに驚いたようです。 「原因は不明だが、ヒューマノイドごと人間になったようだな。  さらにはサンロロスも人間の一部に変化したようだ。  サンサンはまだ勇者ではないが、まるで重戦車のようだぞ」 ランスが言うと、みんなの目は点になりました。 サンサンは、「サンロロス?」と言って、ランスに不思議そうな眼を向けています。 「そう、サンロロス、これだ」とランスは言って、右手の親指と人差し指でサンロロスをはさんでひじを曲げて手を上げました。 サンサンには何もないように見えましたが、あることに気づきました。 「透き通った、丸い球…」とサンサンが言うと、ランスは大きくうなづきました。 「よくわかったなぁー」とランスは感心したようにサンサンに言いました。 「あ、あのー、指先が丸くくぼんでて…」とサンサンが言うと、「なるほどなっ!」と言って、ランスは大声で笑い始めました。 「すぐに見破ったのはサンサンが始めてだ。  サンサンはかなり強くなることだろうな」 見破ったことと強くなるという理由が、サンサンには意味不明でした。 「洞察力が鋭い人はね、簡単にはやられないもんなんだよ。  だから強いんだ」 サンドルフが言うと、サンサンは納得してもろ手を上げて喜んでいます。 「サンドルフは自身の修行もかねて、  明日からはサンサンとともに留守番だ。  しばらくはサンサンに集中しろ。  それがサンドルフにとっていいことにもつながるはずだ」 ランスが言うとサンドルフはすぐに立ち上がって、「はい、お師匠様っ!!」と言って素早く頭を下げました。 「あ、ぬいぐるみって…」とサンドルフがサンサンを見て言うと、サンサンはすぐに天使デッダに変身しました。 サンドルフも変身して、早速子供たちにもみくちゃにされ始めました。 … … … … … 一夜明け、今日からはまたサンドルフとの生活が始まることをサンサンは喜んでいます。 ですがランスはきちんと、「サンサンとサンドルフの修行のため」と言っています。 サンサンはサンドルフへの恋心を封印することに決めました。 一方のサンドルフは実はかなり戸惑っているのです。 このままサンサンが勇者になった時、サンドルフはカレンよりもサンサンを欲するのではないかと考えたのです。 その証拠が、今子供たちにもみくちゃにされている、ふたりのぬいぐるみ姿です。 やはり共通点、さらには同種といった意味の親近感が大いにあります。 さらにはサンサンは平和の象徴のサヤカよりもものづくりに長けています。 きっととんでもない勇者になるのではないかと、恋愛よりもサンサンの成長が楽しみなのです。 昨夜ふたりはサンロロスについて、ランスから詳しく聞きました。 サンロロスに魂が定着しやすいことや、定着すると優秀になることなど、サンサンが生まれてすぐにランスがかなりの想いを込めていてくれたことに、サンサンは感動して泣いてしまいました。 今、天使デッダに変身するとチョーカーはあるのですが、サンロロスはもうありません。 サンロロスは魂と同化して、サンサンの一部になったのです。 サンドルフはサンサンの話し方や行動を見て、「ハイエイジクラスの授業に出ようよ」と言いました。 サンサンは尻込みしましたがすぐに思いを変えて、「これも修行っ!」とランスのように言いました。 サンドルフとサンサンは結城に相談に行くと、いつでも授業を受けてもいいと簡単に言われました。 かなり拍子抜けしたふたりは早速ハイエイジクラスの教室に行きました。 教室内には半数の生徒しか残っていませんが、サンドルフとサンサンを大歓迎しています。 精神年齢的にも、宇宙に旅立った者たちと比べて少し子供なので、ふたりにとって付き合いやすいようです。 一時間目の教師の、御座成爽太が教室に姿を見せました。 背格好はサンドルフと同年代に見えます。 爽太は御座成功太の息子として、そして、杖の王の第一の家来として働いていました。 ですが、自分の世界だけではこれ以上の成長は望めないと思ったようで、源次郎の世界の騎士団員たちのコーチ役と、このセルラ平和学園の教師もしているのです。 爽太は悪魔の眷属という種族で、基本的には悪魔です。 その違いは、その実体が魔法の杖であることだけなのです。 よって、人間でも魔法の杖を使うことで、超常現象的な術などを、簡単に体験できることにもなります。 サンドルフは懐かしい思いで、爽太を見ています。 「あはは、陽鋳郎君、久しぶりだねっ!!  おっと、今はサンドルフ・セイント君だった」 爽太は言って、サンドルフに少し頭を下げました。 「知り合いがいると照れくさいから  うまく授業ができないかもしれないね」 爽太は言いましたが、誰もが自然体のように見えています。 「でもがんばって授業をしようか」と爽太が言うと、始業のチャイムが鳴りました。 爽太は、宇宙全体の基本的な現象などを授業として行なっています。 様々な宇宙を旅することで、その宇宙ごとの常識も違っていることがわかるのです。 まさにこのセルラ星もそのひとつで、この星の神であるグレラスの思いのままに人々は生活しなければいけないのです。 ですがグレラスは強要はしません。 強要しないで、グレラスの想いを受け入れられる者を探すのです。 こうしておけば、ほぼ、問題は起こらないのです。 ですがそのせいで、そのグレラスが巻き込まれ、これからとんでもないことが起こってしまうのです。 … … … … … 「まさかだったよぉー…」とサンドルフが言いました。 サンドルフたちの学友たちも、爽太の話しに目を見張るばかりです。 この宇宙で一番進化した人間と動物の間の種族の話しでした。 「それに、みんなが知っておかないと、  お師匠様の怒りに触れるからってっ!!」 サンドルフが少し笑って言うと、サンサンは眉を下げてサンドルフを見ています。 「みんなはね、お師匠様と結城さんが怖いんだ。  怒りをかうと、  きっとどんなことよりも恐ろしい結果になっちゃうから」 サンドルフが言わなくてもサンサンもわかっているのです。 ですが、自分の父親をどのような形にせよ、悪く言われていると感じるので、いい顔ができないのです。 「さらにはゼンドラド師匠…  もっともっと、怖いことになっちゃうって思うんだよねぇー…」 「あー…」とサンサンは言って、温厚ですが太い芯の入った超猛者の姿を思い浮かべました。 「そうなの、全てお見通しだって思うの…」とサンサンが言うと、サンドルフは深くうなづきました。 「お師匠様は、  ゼンドラド師匠の領域に到達するためにまだまだ修行中の身だからね。  追いつくのは至難の業だと思うし、  それに、ゼンドラド師匠もさらにパワーアップするはずなんだよ」 「えー…」とサンサンは異議を申し立てたい感情になりましたが、これもサンドルフの言った通りになることなのです。 「お師匠様がきっと、  その修行の機会をゼンドラド師匠に与えるんじゃないかって  思っているんだ。  これはただの、僕の予感なんだけどね」 サンサンは無言で小さくうなづきました。 「その理由はね、わかるの…  ゼンドラドさん、全然満足していないから」 サンサンが言うと、サンドルフは深くうなづきました。 「普通の悪魔で悪かった…」と言って、次の授業の教師のツヴァイが教室に入って来ました。 「あははは…」とサンドルフは笑って席につきました。 サンサンもそれに倣います。 ですがこのツヴァイも、実は普通ではないのです。 もちろん、ゼンドラドを超えることはありませんが、ランスをしのぐほどの力は持っているのです。 そして、ランスの妻の座を狙うひとりでもあります。 ですが、それはもう無理だと、半分以上諦めているのです。 ツヴァイは純粋に悪魔。 ランス、デヴィラ、蓮迦、イザーニャのように、いろんな種族への変身はできません。 やはり純粋な悪魔は不器用なのです。 「授業を始めるっ!!」とツヴァイが言うと、始業のチャイムが鳴りました。 ―― いつもいつも… ―― とサンサンは不思議に思っています。 まるで、目の前に時計があるように、正確に時間を把握していると感じているのです。 やはり、それほどの人物なんだと、サンサンは感じています。 「俺の趣味だから気にするなぁー…」とツヴァイはサンサンに向けて言いました。 サンサンは椅子から飛び上がってしまうほど驚いたようです。 「思考は読んでいないぞ。  その雰囲気から、何を考えているかを見抜くこともまた修行…」 ツヴァイが言うと、サンドルフは笑顔でうなづいています。 「…ぬいぐるみがいいんだけど…」とツヴァイが少し照れくさそうにして言うと、サンドルフとサンサンのふたりはすぐに天使デッダに変身しました。 「おおー… ありがとうぉー…  さらにやる気になったぁー…」 ツヴァイは軽い畏れを流して言いました。 どうやら本当に、やる気になったようで、かなりのハイテンポで授業は進みました。 ツヴァイの授業は爽太と同じく宇宙に関してのことなのですが、御座成功太管轄の宇宙についてだけ説明があるのです。 学校の授業にできるほどに、内容はかなり濃いのです。 そして、このセルラ星の常識と照らし合わせることも忘れません。 どう考えても非常識だと思うことが、別の宇宙では常識だと認識されていることも少なくないのです。 そしてほとんど全ては、その星々のモラルと法律にかかっているのです。 『窃盗をしてはいけないが、人を殺してもいい』といった常識の星も、ごく普通にあります。 人が増えると、このような常識もごく自然に発生するのです。 さすがに人の少ない星は、人に迷惑をかける行為は罰せられるのですが、法律が緩く、力が正義の場合もあったりするのです。 特に獣人が支配する星は、このパターンが非常に多いようです。 サンドルフもサンサンも感慨深くツヴァイの言葉を聞いています。 「このセルラ星もかなり非常識だった。  あまり言いたくはないのだが、  恐竜人の気性の荒さが一番の問題点だと俺は感じている。  もっともそれは、強固なボスが現れたことにより、ほぼ解消された。  ほかの星でもこれができる者がいれば、  簡単に平和になるだろうと、俺は常々思っているんだ」 ツヴァイはにやりと笑ってから、「今日の授業は終わりだっ!!」と言った途端に、終業のチャイムがなりました。 サンサンはついつい、拍手をしてしまって、ツヴァイにかなり喜ばれて抱きしめられています。 『あー…』とサンサンが少し落胆の声を思い浮かべると、「言っちゃあ、ダメだぞぉー…」とツヴァイは少しだけ畏れを流しました。 サンサンは人間に戻って、「あはは、はいいー…」と答えました。 「うーん、こっちもかわいい…」とツヴァイは言って、さらにサンサンを抱きしめています。 「細田は本当にすごいなっ!!」とツヴァイが言ってから、サンサンを床に降ろして意気揚々と、教室を出て行きました。 「はぁー、力持ちなんだぁー…」とサンドルフが言うと、クラスメイトたちはそのことに今始めて気づきました。 「そうなの、軽々と…」とサンサンも不思議そうに言いました。 「悪魔のやせ我慢」と言う声がして、次の授業の教師の結城が、教室に姿を見せました。 誰もが神妙な顔をして結城の言葉を聞きました。 「悪魔はだますつもりはないのだが、  今のようにして大勢の人たちをだましてしまうこともあるんだ。  そして力がない者は、それを逆手にとって利用する場合もある。  この先、悪魔はあまりいないだろうが  戦場に出るとそういった者もいるはずだから、  大いに参考にしておいた方がいいな」 結城が言うと生徒たちは、「はい、学長先生っ!」と言って、大声で答えました。 結城の授業は常識についてのことだけを話します。 もちろん、先ほどの授業であったように、その宇宙、その星々での常識は違います。 しかし、その中に共通した常識が必ずあるはずなのです。 それは相手の立場に立って考えること。 さらには、人に迷惑をかけないこと。 悪党にそれを言えば、『討伐されたから迷惑がかかった』などと言い返す者もいるでしょう。 しかし、元はどうだったのでしょうか? 悪いことをしているから悪党。 まずはそれを正すべきなのです。 そしてその悪党が本当に悪なのか。 それも、実際あった出来事を使って映像を交えて生徒に教えを説くのです。 やはりサンサンはかなりの常識人ですので、結城はサンサンの答えを聞いて満面の笑みを浮かべます。 サンドルフは少々正義感が強すぎるので、結城の笑顔を苦笑いに変える場面もしばしばありますが、クラスメイトはこのふたりを、同級生以上の存在として、手本にすることに決めたようです。 結城はいい手ごたえを感じた授業を終えて、笑みを浮かべて教室を出て行きました。 「あー、結城先生も、やっぱ怖ええ…」とサンドルフが言うと、男子生徒たちは一斉にうなづきました。 「いいのか悪いのかわかんないけどさあー、  サンドルフはやっぱ、ランスに少し似てるよな!」 男子生徒のひとりが言うと、サンドルフはかなり恥ずかしくなったようで、「それほどでもないと思うけど…」とだけ答えました。 そして女子生徒は、サンドルフに熱い視線を送ります。 「ダメですっ!!」とサンサンがいきなり大声を上げました。 女子生徒たちは今の感情をなかったことにしたようで、サンサンとサンドルフから眼をそむけました。 「…行き過ぎた感情は毒…」とサンサンが言うと、「…はい、ごめんなさい…」と女子生徒たちは謝りました。 「サンサンちゃん、全然幼児じゃねえけど…」とひとりの男子生徒が言うと、ほとんど全員がうなづいています。 「人間になった時に、ヒューマノイドも抱え込んだからね。  かなりの物知りになったはずだよ」 サンドルフが言うと、「あー、なるほどなぁー…」と言って学生たちは納得したようです。 こういう会話の中でも、サンドルフは気になる人物を見つけたのです。 輪に加わっているようでそうではない女子生徒がひとりいます。 そして、なぜこの教室に残っているのか、サンドルフには理解できませんでした。 しかしここで話しかけてしまうと少々問題があるので、昼食時に念話でもしようと思ったようです。 このサンドルフの考えを見抜いた者がいます。 当然のごとくサンサンなのですが、どうやら恋愛感情と勘違いしたようで少し怒っています。 サンドルフはその感情に気づき、『話は昼食時に』とサンサンに念話を送ると、『う、うん…』と心細げに返事をしました。 次の授業はこの星の歴史についてで、担当は学校の近くの村に住む、ヒューマノイドのトーマスが教師です。 記憶が頼りの学科なので、ヒューマノイドが適任です。 さらには保奈美を筆頭に数名、教師の中にヒューマノイドがいます。 ごく普通に人間の教師は誰一人としていないのです。 サンドルフもサンサンも興味深く講義を聞き入りました。 この星は恐竜人のための星となりつつあります。 ですが戦争が終ったことで、多少は恐竜人もその個性を失うことになるのかもしれません。 ですがやはり、恐竜人は優れているのです。 サンドルフが気にしている女子生徒のカナエ・パッションも恐竜人なのです。 … … … … … 午前中の授業を終えたサンドルフたちは学生食堂に移動しました。 そして早速、サンドルフとサンサンは念話を始めて、カナエが恋愛対象ではないことをサンサンに納得させました。 『あー…』とサンサンが言ったと同時に天使デッダに変身して、ハイエイジクラスの女子全員に抱きつきました。 女子たちはひとり残らず喜んでいます。 サンサンは愛想を振りまきながら元の席に戻りました。 『消せない記憶…  深い悲しみ…  憎悪…』 『うーん…  少々問題だと思うけど…  やっぱり、戦争?』 『うん、そうだと思うの。  全てが戦争がらみだから』 この学校の生徒は全員、体に傷がありません。 この学校に入学したと同時に、心のケアとして、戦争の傷は全て消してしまうのです。 そうすることで、深いトラウマから脱出できた生徒がほとんどなのです。 ですがカナエだけは取り残されてしまったようなのです。 しかし態度ではそのようなことは絶対に見せないのです。 『当然、結城先生も知ってるよね?』とサンドルフが言うと、『あー…』と言ってサンサンが肯定するように答えました。 『生徒たちで解決しなければいけない、とか…』とサンドルフが言うと、サンサンはもう何も言えないようです。 もちろんこのように、生徒を試すようなことなどをちりばめているのがこの学校なのです。 『仕方ない…  先生に聞くと逆に叱られそうだから、  事情を確認して僕たちで解決しようか』 『う、うん…』とサンサンは戸惑いの返事をしました。 しかしサンドルフもサンサンと同じ気持ちなのです。 『だけどね、多分僕たちでは解決できないんだ。  僕たちは戦災にあっていないし辛い思いをしていないから、  それほどこの学校の生徒の気持ちはわからない』 『うん…  それがすっごく不安なのぉー…』 サンサンもサンドルフと同じ気持ちだったようです。 そして、話の切り出し方が難しいと、サンドルフは考えています。 さらには決して、『能力がもったいない』などと言ってはいけないのです。 まずは重いであろうカナエの口を開かせることにあると、サンドルフは思いました。 『だけど、情報がないと話ができないから、結城先生に聞きに行こうか』 サンドルフが言うと、『エ―――ッ?!』とサンサンは叫びました。 『これは相談じゃないからね。  さらに言えば、  マキシミリアンさんもセイルさんも知っているはずなんだ。  もちろんお師匠様もね』 サンドルフが言うと、サンサンはうなづいています。 『だけど、何もしていない。  きっとね、カナエさんはお師匠様を激しく拒絶しているんだよ。  キーワードはね、きっと魔王…』 『あー…』とサンサンは納得するように言いました。 『だからお師匠様でもどうしようもないから、  無理やり軍には入れなかった。  そしてカナエさんは心の傷を癒やすことなく、  この学校を卒業してしまうんだけど…  卒業できないと思うんだ』 『えー、どーして…』 『強いトラウマを持っている人って、自由にすると怖いと思うんだよ。  カナエさんは攻撃的には見えないけど、  ちょっとした切欠で爆発するかもしれない。  そういった危険人物を卒業させるわけがないからだよ』 『うん…  納得、できたかもぉー…』 サンサンが答えてから、ふたりは手早く食事を済ませて、食事を始めたばかりの結城の前に立ちました。 「カナエ・パッションさんの過去について教えてください」とサンドルフが少し声を抑えて言うと結城は、「やるの?」と言って逆に聞いてきました。 「はい、お師匠様では無理なようですから。  できれば、重いトラウマを脱ぎ捨てて卒業、  もしくは魔王軍に所属してもらいたいんです」 サンドルフが言うと、結城は小さくうなづきました。 そしてカナエの過去の話しをしました。 それは悲惨な記憶でした。 その時カナエは死にかけていて身動きひとつできませんでした。 辺りは、『ゴウゴウ』と炎が立ち昇っています。 そんな中、まさにひとりの魔王が次々とカナエの親族たちを殺していったのです。 その魔王の手下も気が狂ったかのように暴れまくっています。 そしてさらに輪をかけて、まだ10才にもなっていないカナエの妹を魔王は手篭めにしたのです。 そしてあっけなく、妹は殺されてしまいました。 カナエは悲しくて悔しくて、もう死にたいと思いましたが、ゼンドラドたちが駆けつけて、一瞬のうちに魔王を撃退したのです。 ですがカナエは意識を失っていたので、この事実は知りません。 意識を回復したカナエは、戦争と魔王を同時に憎んだのです。 「このような思いをしたのは、カナエだけではない。  ほかにも数名、同じような目に合っていたんだが、  それをバネにして今は魔王軍に所属している。  これはかなり難しい問題だぞ。  はっきり言って、俺も説得できなかった」 結城が苦汁を飲んだ顔をして言うと、サンドルフもサンサンも深く肩を落としました。 「ゼンドラド師匠は…」とサンドルフが聞くと、「卒業するまでに記憶を改ざんすると」と結城が言いました。 「ああ、それは…」とサンドルフが言って、サンサンも異議がある目を結城に向けました。 「そうなる前に、何とかしたいと思っているんだよ」と最後は結城は笑顔で言いました。 サンドルフとサンサンは結城にお礼を言って、ふたりして作戦を考えました。 … … … … … 放課後、まるっきり自信はありませんが、サンドルフとサンサンはカナエを小さな遊園地へと誘いました。 クラスメイトたちは興味津々でついてこようとしましたが、「ダメッ!」とサンサンが言うと、みんなは首をすくめてすごすごと退散して、それぞれの放課後のひと時を楽しむことにしたようです。 「乗り物、乗る?」とサンドルフが言うと、カナエはかなり驚きました。 話しをする気満々だったのですが、腰砕けにあったように思い、「…ああ、私じゃ乗れないから…」と言いました。 「気功術、かけてもいいんだったら乗れるけど?」とサンドルフが言うとカナエは、「ええ、ぜひっ!!」と言ってかなりの勢いで喜んでいます。 サンサンはすかさず天使デッダに変身して、カナエに抱かれました。 当然、カナエの心を知るためです。 『…うう、心底喜んでるっ!』というサンサンの念話に、サンドルフは少し笑いました。 『今日はこれだけでもいいよ。  欲張るとロクなことがないからね』 『うんっ!  私もそう思うのっ!』 サンサンは言って、サンサンも本気で遊具を楽しみ始めました。 「ああ、サンサン…」とカナエは懇願の眼をサンサンに向けました。 「人間の姿に…」とカナエが言うと、サンサンはすぐに元の幼児に近い少女の姿に戻りました。 そしてカナエはサンサンを抱きしめて大声で泣き始めました。 カナエはサンサンを抱きしめたまま、「ヒロミ、ヒロミッ!!」と大声で連呼しました。 サンドルフもサンサンもいたたまれなくなりましたが、気をしっかりと持つことにしました。 カナエが泣き止むとサンドルフが、「そろそろ夕飯の時間だね」と言ってカナエをエスコートして遊具から降ろそうとしましたが、カナエは拒否しました。 「サンドルフ君とサンサンちゃんが頼まれたの?」 カナエが聞くと、サンドルフもサンサンも首を横に振りました。 「僕たち二人で決めたんだよ。  この学校を、心底の笑顔で卒業してもらいたいからね」 サンドルフが言うとカナエは、「そう…」とだけ言って、遊具を降りました。 「今日は何食べようかなぁーっ!」とサンドルフが言うと、また肩透かしを食らったと思ったのかカナエは、「説得、しないの?」と聞いてきました。 「僕はね、説得しちゃダメなんだって思ってるんだ」 サンドルフが言うと、カナエの力が抜けて、サンサンを地面に降ろしました。 「自分の力で立ち上がって、お姉ちゃんっ!!」とサンサンが言うと、カナエはまた大声で泣いて、サンサンを強く抱きしめました。 カナエが泣き止んだところで、「サンサンを妹にしちゃダメだよ」とサンドルフが言うと、カナエは意地悪く舌を出しました。 サンサンはそのカナエから素早く離れました。 「私はね、みんなのサンサンだからっ!!」とサンサンが言うと同時に、何かの癒やしで辺りが覆いつくされました。 「術、使っちゃったの?」とサンドルフがサンサンに聞くと、ぼう然とした表情で首を横に振っています。 「天使の癒やしに似てるけど違うよなぁー…」とサンドルフが言うと、カナエはすくっと立ち上がりました。 「妹に振られちゃったわっ!!」とカナエは大声で言ってから笑っています。 そして、「ランスをぶん殴りたいっ!!」と言って息巻き始めたことに、サンサンもサンドルフも苦笑いを浮かべました。 サンサンはまたカナエに抱きつきました。 『悲しみは残っているけど、憎しみはないのっ!!』とサンサンが念話で言うと、サンドルフは笑みをカナエとサンサンに向けました。 『悲しみはあってもいいと思うんだ。  だけど憎しみは新たな憎しみを生むからね』 サンドルフが言うと、サンサンも同意したようです。 … … … … … サンドルフたちは夕飯の席について食事を楽しんでいる時に、それほど疲れていないランスたちが店に入って来ました。 するとカナエが素早く立ち上がって、「魔王っ!! 入隊試験しなさいっ!!」とランスを指差して言いました。 ランスは一瞬ぼう然としましたが、すぐに笑みを浮かべて、「ああ、いいぜぇー…」と軽い畏れを流しましたが、カナエはびくともしませんでした。 「私が勝ったらサンサンちゃんは私の妹でっ!!」とカナエは胸を張って言いましたが、「サンサンが納得しないだろ…」とランスが困った顔で言うと、「くっそぉー…」と言ってかなり悔しがっています。 「父親の命令なら聞くはずだわっ!!」とカナエは言って、ランスに詰め寄ります。 「嫌なことを無理強いはしねえからな」とランスが軽く返すと、カナエは笑みを浮かべています。 それはまるで、カナエ自身が言われたと思ったようです。 「私は弱くないわよっ!!」「ああ、知っている」とカナエの言葉にランスは即答しました。 「くっそぉー… 少しは驚けっ!!」とカナエも強い畏れを流して言いましたが、ランスも当然のようにびくともしません。 「デヴィラといい勝負かもしれねえけど、残念ながら経験がねえ」 「あるっ!!」とカナエは胸を張って言いました。 ランスはこの件は知らなかったようですぐに結城を見ましたが、結城も知らなかったようです。 「心はすさんでいたけどな、地元の軍に所属していた。  もちろん、敵は全て打ち倒したっ!!  男としてなぁー…」 「うっわぁー、マジで…」とランスはかなりフランクに言いましたが、カナエは真剣そのものでうなづいています。 「少しだけなら肉体の変化もできる。  気功術ではなくて能力でな」 カナエが言うと、ランスは笑顔でうなづいています。 「まずは飯を食わせてくれないかな?」 「ダメだぁー…  ハンディだぁー…」 カナエは言ってにやりと笑いました。 仕方ないと思ったのか、ランスはすぐに外に出ました。 「駆け引き、うめえなぁー…」とランスは言って、感慨深く思ったようです。 「親友になってもらいてえところだなっ!」とさらに言うと、事情をすべて知っているマキシミリアンたちもランスに同意しました。 サンドルフとサンサンも素早く夕食を済ませてランスたちを追いかけました。 「お師匠様、タジタジだねっ!」とサンドルフが明るい声で言うとサンサンも、「うんっ!」と明るい声で答えました。 二人は訓練場の中央で向き合っています。 「いつでもいいぜ」とランスが言った途端、カナエは素早く詰め寄って、無造作に拳をぶつけます。 『バババババッ!!』『ドドドドドドドッ!!』と、とんでもない音が、訓練場に響き渡りました。 ランスは高揚感の結界を張っているので、殴っても蹴ってもどちらも痛くありません。 ランスたちはこれを温い組み手と呼んでいます。 ですが、攻撃は当たるのですが暖簾に腕押し。 すさまじい攻撃は、放った者の体力と精神力を奪っていくのです。 「おお、怖ええ怖ええ」とランスは言いながらも、手や足を出して迎撃します。 ランスはもうすでに笑みを浮かべていました。 かなりの修羅場をくぐってきたとランスは思い、ランス自身が勉強することに決めました。 カナエの攻撃は素晴らしいのですが、ランスがスピードを上げると追いつけません。 ですが、悔しい顔ひとつせずにランスを追いかけます。 「こりゃ、参ったね…」とランスが言いましたが、カナエはまったく手を緩めません。 五分経ち、十分経っても、カナエの動きは衰えるということを知りませんでした。 ランスは笑みを真剣な顔に変えて打ち返します。 しかし、地力の差が出て、カナエは地面に倒れてしましました。 「まだやれるっ!!  俺はまだ立てるんだっ!!」 カナエは自分に言い聞かせるように大声で言霊を放ちました。 「カナエ、大合格だっ!!」とランスが言った途端、力を失ったようにカナエは瞳を閉じました。 「マックスといい勝負だぜ」とランスが汗を拭いながら言うと、「スピードを上げられると、俺では太刀打ちできないだろうな」と言ってマキシミリアンが苦笑いを浮かべました。 「こんなにすごいって、まったくわかんなかった…」とサンドルフが言うと、サンサンは笑みを浮かべていました。 そして、「お風呂、行ってくるねっ!」と言って、小さな体全身を使ってカナエを抱き上げて、訓練場を出て行きました。 「サンサンも力持ちだなぁー…」とサンドルフは言ってサンサンたちの後姿を見送りました。 サンサンはなんなくカナエをお風呂場に連れて行き、一緒にお風呂に入りました。 カナエは笑みを浮かべたまま眠っています。 ですがかなり無理をしたようで、すぐに回復する見込みはなさそうです。 サンサンがカナエに抱きついて確認すると、ある程度の体力は回復していました。 しっかりと食事をしていたことで、回復も早いだろうとサンサンは思ったようです。 カナエを抱き上げて、サンサンは脱衣所に出ました。 するとクラスメイトの女子たちがいて、心配そうにしてふたりを見ています。 さらには天使たちもやってきて、まずは術を使ってカナエの服を新品同様にしました。 蓮迦がカナエに触れて、「もう大丈夫だから」と笑顔で言って癒やしを流し始めました。 「寝ちゃうのはまだ少し早いからね」と蓮迦は笑いながら言いました。 「あ、術を使って回復すると…」とサンサンが言うと、「寝ちゃってたらね、使っても使わなくても成長に関しては結果は同じなの」と蓮迦は答えました。 「早く回復させることで目覚めるはずだから、さらに修行に励めるの。  修行は、精神的なものもあるからね」 蓮迦が言うと、サンサンは理解して深くうなづきました。 すると、ガバッとカナエが上半身を起こして、「まだやれるっ!!」と大声で言ってから、「…あ…」と言って今の状況を素早く把握しました。 そしてサンサンを見つけて素早く抱きつきました。 「…ふふふ、お姉ちゃんは諦めが悪いのよぉー…」とカナエは言うと、「いやぁーん、助けてぇー!」とサンサンは冗談っぽく笑顔で叫びました。 カナエはきちんと、物事の分別をつけています。 クラスメイトたちは、―― 心配して損した… ―― などと思ったようで、そそくさと脱衣所を出て行きました。 蓮迦は眉を下げてカナエを見ています。 「カナエさん、うらやましい…」「それはダメだよ」とサンサンはすぐに、蓮迦の言葉に反応しました。 蓮迦は、「う、うん、そうよね…」と言って少しだけ笑いました。 「くっそぉー…  やっぱ、本気で殴りあった方が…」 カナエは負けてしまったことに腹を立てているようです。 「お父さんって、底なしだよ?」とサンサンが言うと、「俺も底なしになるっ!」とカナエは豪語しました。 サンサンは笑いながら、「お兄ちゃん?!」と言うと、カナエは少しだけ言葉使いを改めることにしたようです。 そしてその肉体を元に戻しました。 「男に近い肉体にしちゃうとね、  どうしても男になっちゃうの」 カナエは少し恥ずかしそうに言いました。 「あー、戦争の時も、本気で男として…」とサンサンが言うと、カナエは笑顔でうなづいています。 「そうしないとね、  いつか出会うはずのあの魔王に勝てないって思ったから。  だけどもういなかった…  そのことはね、2年ほどしてからやっと知ったの…  七勇巌が魔王一味を全て滅ぼしたって…  戦禍にまぎれて、いろんな村を襲っていた大悪党だったの。  もう仕返しできないことがわかっていたんだけどね、  どうしても一矢報いたかった…  だからね、サンサンちゃんのお父さんをその身代わりにしていたの。  卒業できたら、魔王を倒そうって思って、  ずっと鍛えていたの」 カナエがポツリぽつりと言って、サンサンはきちんと理解できたようです。 「八勇巌じゃないのね?」 「ああ、同じよ。  世間では七勇巌で通っていたの。  本当はルオウ様を含めた八人の勇巌だったって、  ここに来て知ったの」 カナエは言って笑みを浮かべました。 「ゼンドラド様には絶対に勝てないから、  ランスに代役になってもらったってこともあるのっ!!」 カナエは言ってから、大声で笑いました。 サンサンは笑顔で、感慨深く聞いています。 「だけど、もう復讐なんていいわ。  心がすさみかけていたから。  それに、サンサンちゃんがいれば、  いいことも悪いこともすぐにわかっちゃうから。  これからも、遠慮なく言って欲しい」 「うんっ! そうするよっ!  お姉ちゃんっ!!」 サンサンが言うとカナエは大声で泣き出し始めました。 サンサンはカナエの妹のヒロミと顔はまったく違うのですが、声がよく似ていたのです。 この先、カナエはさらにサンサンに泣かされてしまうことでしょう。 … … … … … 翌日、ランスはメリスンの店に来てすぐに、「今日の出撃は中止だ」と言いました。 戦士たちは何があったのかと思いランスを見ています。 「ニ三日は出撃せずに、イルニー国の上の方の世直しの手伝いをする。  隊長以外の者は、学業、余暇を楽しんで欲しい」 ランスが言うと、ほんのわずかですが、喜びの声が上がりました。 すると、その者たちは一瞬にして宙に浮きました。 「退役勧告」とランスは冷たい言葉を放ちました。 誰だって仕事が休みと聞いて喜ばない者はいないでしょう。 ですが魔王軍は本来ならば休みなどないのです。 さらに言えば、勇者は四六時中、人々のために戦い、働くことが普通のことなのです。 宙に浮いている者たちは、「…ああ、ああ…」と言うだけで、言葉が出てきません。 ランスはこのような場合はかなり厳しいのです。 「少々厳しい沙汰だな」とゼンドラドが言うと、ランスはゼンドラドに頭を下げました。 「今日一日、十二勇者に預けて特訓、なんてのはどうかな?」とゼンドラドは笑みを浮かべて言いました。 「はい、そのようにしましょう」とランスは快くゼンドラドの申し出を受け入れました。 宙に浮いている者たちは、涙を流してゼンドラドとランスに頭を下げています。 「ワシも行こうか」とゼンドラドは言って、力強く立ち上がりました。 ランスはまたゼンドラドに深々と頭を下げています。 「はい、ありがとうございますっ!」とランスは言って、満面の笑みを浮かべました。 『ううっ  僕たち、どうしようかなぁー…』 サンドルフがサンサンに念話を送ると、「お父さんっ! 私も行きたいですっ!!」とサンサンが叫ぶように言いました。 「ああ、いいぜ。  サンドルフも来い」 ランスがごく自然に言うと、サンドルフは深々とランスに向かって頭を下げました。 サンサンはただただうれしいようで、飛び跳ねて喜んでいます。 ランスたちの仕事は、ガロン王に代わって政務を行なうサンドラの騎士の選定と、魔王軍に所属させる大人を見つけ出すことにあります。 よって、退役した軍人が多くいる警察関連を回ることになります。 ゼンドラドがついてくる理由はふたつあります。 ひとつは、この宇宙の管理者であるゼンドラドのお膝元を磐石にするため。 もうひとつは、ランスにとっての天敵がいるからです。 よって先導するのはランスではなくゼンドラドです。 ランスたちはゼンドラドに遅れないように空を飛びました。 まずはランスの天敵である、警察関連のトップの、安藤麗子に会いに行きます。 警察官から勝手に人材を抜くと、何を言われるかわかったものではないからです。 ランスとしては無理難題を言われてもそれを避けて任務を遂行しようと決めていましたが、ゼンドラドがいることでかなり穏便にことを運べることを喜んだようです。 麗子は城下町にあるオフィスにいます。 イルニー城が見えた時、ゼンドラドたちは急降下して、オフィスの玄関に立ちました。 すると、連絡してあったようで、麗子がゼンドラドたちを出迎えました。 「一体、何の御用かしら?」と麗子は少し笑って言いました。 サンサンはかなりの勢いで驚いています。 『悦子先生にそっくりっ!!』とサンサンはサンドルフに念話を送りました。 『あはは、僕も驚いちゃったよ…』とサンドルフも念話を返しました。 「…ふーん、ぬいぐるみが、ねえー…」と麗子はサンサンとサンドルフを見て言いました。 サンサンはすぐにサンドルフの影に隠れました。 『ダメなんだけどね、この人嫌い…』とサンサンが念話を送ると、『珍しいね…』とサンドルフが返しました。 「嫌いで結構っ!!」と麗子が言うと、サンサンもサンドルフも首をすくめました。 ですがゼンドラドとランスは大声で笑っています。 馬鹿にされたと思ったようで、麗子はかなり憤慨しながらオフィスに入っていきました。 「この人たち以外ならいいわよ…」と話しを聞いた麗子はため息混じりに言って、素早く作り上げたぶ厚い書類をランスの目の前に放り投げました。 「汚ねえな、元師匠…」とランスが言うと麗子は、「ふんっ」と鼻で笑いました。 「まあいい。  このリストに載っている者以外なら誰でもいいんだからな」 ゼンドラドが言うと、麗子はかなり不安になったようですが、―― 落ち度はない ―― と自信をもったようです。 ですが、一抹の不安も過ぎります。 もし、優秀な自分を隠している者がいれば、などと考えるのでしょうが、そういった者もリストに載っているのです。 ゼンドラドは礼を言ってから、ランスたちを従えてオフィスを出ました。 『お師匠様の元師匠…  犬猿の仲っぽいね』 サンドルフが言うと、サンサンは小さくうなづきました。 『それにね、僕たちの話は雰囲気から察したようだ。  思考は探っていなかった。  ツヴァイ先生と同レベル…』 サンドルフが言うと、サンサンはサンドルフを強く抱きしめました。 こうやって飛んでいるだけでも、サンドルフは修行になるのです。 なにしろ、サンサンはかなりの重量がありますから。 ですがふたりともそんなことは気にもしていません。 できれば、ランスの手助けができるように、慎重に出会う者たちと接し、集中しようと思っています。 イルニー国の西の外れにある警察署を訪れた時、サンドルフがいぶかしげに馬車を使った20才前後の荷物配達員を見ています。 この星は、一般の乗り物は馬車しかないので、運送業はそこら中で行なわれています。 配達員は額に汗して、せっせと荷物を馬車の中なら運び出しています。 『うーん…』とサンドルフがサンサンに念話を送りました。 サンサンはすぐにサンドルフを見てから、その視線の先を追いました。 そしてサンサンが、「あー…」と言った途端、「でかした、サンドルフッ、サンサンッ!!」とゼンドラドは叫んで、素早く配達員に走り寄りました。 「あはは、まさかだったなぁー…」とランスは頭をかきながら言ってから、サンドルフとサンサンをほめました。 「サンサンは引け目に思うことはねえ。  今はサンドルフが引け目に思っているからなっ!」 ランスが言うとふたりはランスに照れ笑いを向けました。 配達員は無意識でサイコキネッシスを使っていたのです。 荷物が時折、勝手に宙に浮かんで積み出されていたのです。 こういった意識をしていない能力者は、恐竜人の中にいる場合があります。 猿人や犬人にも能力者はいるのですが、恐竜人の術はその人種よりもずば抜けて高度に、パワフルに使いこなすのです。 さらに、恐竜人にはこの能力に目覚める可能性が全員にあるのです。 しかし、それはごくわずかで、見抜ける者も少ないのです。 今回のように、無意識で使っている者がほとんどなのですから。 よってゼンドラドが喜々としたことは、ランスたちにとってもその気持ちが手に取るようにわかると言ったところでしょう。 「ほめられちゃったっ!」とサンサンは言って、サンドルフを見上げています。 「一瞬だったからね。  きっと高度な術師じゃないかって思ったんだ。  だけどきっとね、無意識だよ」 サンドルフが言うと、「えー…」と言ってサンサンは少し驚いています。 「もし、わかっていて使っていたのなら、  涼しい顔をしていたはずだからね」 サンドルフが言うと、サンサンもですが、マキシミリアンたちも大いにうなづいています。 「先を越されてしまったな…」とマキシミリアンが照れ笑いを見せながら言いました。 「ごほうび、用意しておかないとなっ!!」とランスが言うとサンサンは、飛び跳ねて喜んでいます。 配達員との話は終わり、「おかしいと思った」とその配達員がごく普通に言うと、ゼンドラドたちは苦笑いを浮かべています。 仕事を辞めたら、ゼンドラド・セイント町のメリスンの店に来るように伝えると、配達員はかなりの勢いでガッツポーズをとりました。 どうやら、観光気分で来るようです。 しかしこの誠実さと明るさは、かなりの掘り出しものだと、誰もが思ったようです。 一行は警察署に入って、隅々まで所内を歩き回りました。 「あー…」とまたサンサンが言うと、「おっ!」と言って、ランスが笑みを浮かべました。 「サンサン、さすがだっ!」とランスは言って、牢に入っている老人に話しかけ始めました。 そしてランスは大声で笑い始めたのです。 「牢に入っていることが修行ってっ!!」とランスが叫ぶと、誰もがあっけに取られました。 この老人は冤罪で捕まって、裁判待ちのようです。 もちろん、やっていないことをやったとは言っていませんが、状況証拠だけでこの老人を犯人と決め付けたようです。 ゼンドラドは全能力を使って、簡単に犯人を断定しました。 すぐさま署員たちが根城に踏み込んで、警察署に連行しました。 犯人はまさか捕まるとは思っていなかったようですが、ゼンドラドの姿を見て、「ウソをついたら潰されるっ!!」と叫んでから、余罪まで全てを話し始めました。 ゼンドラドは有名人で、そして当然のように恐れられています。 犯人が、「潰される」と叫んだのは、真実の鎧のことです。 鎧を着せられた者がウソをつくと、あっという間にその鎧に潰されるという代物で、この術はゼンドラドではなく、相棒の森羅万象の術を持つエラルレラのものです。 この星の神が認定した、真実を追究するための鎧として、知れ渡っているのです。 ですが、こういった罪人に使うことはありません。 罪人でも相手が能力者や勇者の場合のみ使うものです。 心が悪に染まった勇者たちは、平気でウソをつくのです。 老人はすぐに釈放されたので、ゼンドラドたちに同行してもらうことにしました。 ゼンドラドたちは昼食を摂るため、ゼンドラド・セイント町に飛んだのですが、城との中間地点でセイラと合流しました。 どうやらトラブルがあったようで、セイラは縋るような目でランスを見ています。 セイラの話しを聞くとランスは、「ふざけやがってぇー…」とつぶやくように言ってから、とんでもないスピードでサークリット大陸に向かって飛んでいきました。 「サンドルフ君っ!!」「おうっ!!」とサンサンの言葉にサンドルフはすぐに答えて、サンサンを強く抱きしめてから流線型の結界を張ってその身を包み込み、気功術ではなく勇者の飛行術を使ってランスを追いました。 しかし、サンサンがあまりにも重いので、ランスに追いつくことは叶いません。 ですがサンドルフは歯を食いしばって、さらにスピードを上げました。 気功術の精神間転送を使えば、あっという間にランスに追いつくのですが、またすぐに引き放されてしまいます。 さらには、邪魔をされたとランスが思い怒りを買うとサンドルフは判断して、精神間転送は使わないことに決めています。 あっという間にサークリット大陸が見えてきました。 「サンサン、放すぞっ!!」とサンドルフが叫ぶと、「えっ?! うんっ!!」とサンサンは戸惑いながらも答えました。 サンドルフは飛びながら、サイコキネッシルでサンサンを操って、サンサンに負担をかけずに地面に下ろしました。 サンサンはほっと胸をなでおろしながら、すぐさま目の前にあるグレラスの屋敷に飛び込みました。 そこには、考えられない魔獣がいて、今にもグレラスを食べてしまう勢いで大人の体のグレラスをわしづかみにしています。 「龍、食う…  龍、なる…」 魔獣は片言のような言葉を放ちました。 「お父さん、ダメッ!!」とサンサンが叫ぶと同時に、魔獣はランスにその身を変えました。 「おお? 早かったな」と言ってランスはサンサンに笑みを向けました。 サンサンは涙を流しながらランスに抱きつきました。 「サンドルフのやつ、かなり無理したんだろうなぁー…」 ランスが言うとサンサンは何度も何度もうなづいています。 「心配かけたが、俺の意識はあったからな」 ランスが言うと、サンサンはそれもわかっていましたが、止めずにはいられなかったようです。 サンサンは泣き止んでから、カノンたちの様子を見ています。 「あっ! いけないっ!!」とサンサンが言うと、ランスがすぐさま、悪魔ダフィーの蘇生を行いました。 「かなり怖い変身だな」とランスは他人事のように言いました。 「サンサンは平気なのに…」とランスがさらに言うと、「夢中だったし、お父さんだもん…」とまた涙を流してランスに抱きつきました。 ランスは、「そうか」とだけ言って、サンサンを抱きしめました。 そしてランスは天使服を着て、意識を失った者たちの汚れを拭うために、拭去の術を放ちました。 ランスの猛烈な畏れと見た目の圧迫感と恐怖により、体にある穴から全てもものが吹き出したようなのです。 ランスはさらに、緑のオーラを強く流して匂いも消しました。 ランスが天使服を脱ぐと同時に、セイラが部屋に飛び込んできました。 「どーしてみんな寝てるのよっ!!」とセイラは辺りを見回しながら叫びました。 「起きたら聞いてくれ。  あ、証拠の品はテーブルの上」 ランスが言うとセイラは戸惑いながらも、「う、うん、ありがと」と言って、イルニー国建国時のクリッテとその姉弟たちの頭髪をカバンに入れました。 「じゃ、帰るから」とランスが言うと、「うん…」とセイラが上目使いでランスを見て答えました。 ランスはセイラの話しを聞き激怒したのです。 グレラスがランスを逆恨みして、オレに謝れと言っていたのです。 結城にかけた術を盾に、オレに圧力をかけているなどと、根も葉もないことをセイラに告げていたのです。 ランスが謝らない限り、大昔の偉人たちの遺品を出さないと、頑として譲らなかったのです。 しかしランスが魔獣に変身したことで、簡単にその証拠の品をグレラスがもつ異空間ポケットから取り出しました。 異空間ポケットは古い神の一族であれば誰でも使うことのできる便利な技です。 異空間では時間が経ちません。 そして、人間など魂がある者は死なずにそのまま維持されます。 しかし生命のないものはすぐに朽ち果ててしまうのですが、異空間ポケットは時間は経ちますが朽ちないという逆の仕組みになっています。 よって、数億年前の偉人の遺品も、まったく朽ちることなく現存していたのです。 ランスは疑っていたのです。 本当のクリッテの親族の子孫は、もうあまりいないのではないのかと。 証拠品をDNA鑑定すればすぐにわかることだったので、ランスはセイラにアドバイスしていたのです。 ですがグレラスのおろかな行動に、墓穴を掘ってしまったという顛末です。 ランスはサンサンを抱いたまま外に出ました。 すると、サンドルフが笑みを浮かべて、空から降りてきました。 サンドルフにいつもの覇気はなく、憔悴しきっています。 「素晴らしいな、サンドルフッ!!」と言ってランスはサンドルフも抱えて、ゼンドラド・セイント町を目指して飛びました。 ランスは全ての状況をゼンドラドに説明しました。 「龍を食うと龍になる。  憶測ではなく断定しているな…」 ゼンドラドが言うとランスは深くうなづきました。 「記憶を探ったのですが、見つからないのです。  さらに詳しく探ってその真実を突き止めることにします」 ランスが言うと、ゼンドラドは深くうなづきました。 サンドルフはあまりの疲労に今にも寝てしまいそうでしたが、メリスンの店の店員の三井悦子が、あるものをサンドルフに食べさせました。 「ううっ! うめえっ!!」とサンドルフが言ってパッチリと眼が覚めたようです。 そして、「ほぼ満腹って…」と言って驚いています。 三井悦子は御座成功太が人間のころの姉です。 その前世は、御座成悦子の夫でした。 さらには、さらにさかのぼった前世で、三井悦子は統括地の創造神として、宇宙の平和を守っていた逸材だったのです。 三井悦子の仲間であるセシリーと、セイラから抜け出した、三井悦子とセシリーの初めての願いの子のセルアもこの店で働いています。 サンドルフは三井悦子にお礼を言いました。 三井悦子は今世は御座成悦子と姉妹になりたいと思ったようで、その姿は御座成悦子と瓜二つなのです。 「ううん、いいのいいのっ!」と三井悦子は笑顔で言いました。 口調も御座成悦子と瓜二つで、サンドルフもサンサンも苦笑いを浮かべています。 三井悦子はパティシエでもあり、この店では重宝されています。 サンドルフが食べた小さなケーキは、悪魔の木の実を材料にしたものでした。 この悪魔の実は、個人差は多少ありますが小指大に切ったものだけで満腹になってしまうという代物です。 そして栄養も豊富なのです。 勇者たちの非常食には画期的なもので、ランスは常に携帯しています。 サンドルフはほぼ満腹なのですが、メリスンが縋るような目でサンドルフを見たので、何か軽食をと思ってメニューを見ました。 「あはは、ハンバーガーッ!」とサンドルフが言って笑うと、一瞬のうちに目の前に巨大なハンバーガーがありました。 メリスンは満面の笑みでサンドルフを見ています。 ―― 食べきらないととんでもないことになるっ!! ―― と思ったサンドルフは、メリスンに丁寧に礼を言って、一口かじりました。 「うおっ! うっめぇーっ!!」とサンドルフが言って、猛スピードで食べ始めました。 メリスンはサンドルフを見てさらに笑みを深めています。 「あ、サンサンも食べる?」とサンドルフが言うと、サンサンは待っていたかのようにハンバーガーにかじりついて、「うわぁー、すっごくおいしいっ!!」と言ってからメリスンに笑みを向けました。 メリスンは身もだえするほど喜んでいます。 「あ、でも、サンドルフ君、ハンバーガーって笑うことなの?」 サンサンが不思議そうな顔をしてサンドルフを見ています。 「前世の記憶だよ。  話してもいいけど、その必要はなさそうだ」 サンドルフが言ってから店内に入って来た、仲睦まじい俊介と青空を見ています。 そして俊介はサンドルフのハンバーガーを見て、「メリスンさん、ボクもっ!!」と言ってメリスンを喜々とさせました。 「何十個?」とメリスンが言うと、サンドルフは堪え切れなかったのか大声で笑い始めました。 「この大きさだったら、30個でいいよっ!!」と俊介が答えると、メリスンは朦朧とし始めましたが、気を取り直して手早くハンバーガーを作り始めました。 「大好きな理由って、何かあるんですか?」とサンドルフが素朴な質問を俊介に投げかけました。 「よくわかんないんだけどね、  ただただ香、食感、味が気に入ってるっていうだけなんだよね」 俊介が言うと、サンドルフは納得も理解もしました。 「あっちの世界のね、  ハンバーガーショップを食べつくすことが  ボクの日課のようなものだったんだよねー」 俊介の言葉に、サンサンはぼう然としていますが、サンドルフは大いに笑っています。 実際サンドルフはその姿を何度も見ていたので知っていたのです。 「ああ、メリスンさんっ!」と俊介が言うと、メリスンはまた喜びながら俊介を見ています。 「この新作を全部。  あ、ひとつずつでいいので」 「わかったわっ!」とメリスンは上機嫌で言いました。 新作は5種類で、ごく一般的な大きさなので、俊介にとって口直しといった程度のもののようです。 メリスンたちが満面の笑みで特大ハンバーガーを30個持ってきました。 一個が大人の手のひらよりも大きいので、メリスンひとりではもてなかったようなので、セルアが笑顔とともにメリスンの後に続いています。 青空がかなり困った顔をしていますが、「食べる?」と俊介が言うと、「うんっ!」と元気よく答えました。 「青空ちゃんもハンバーガー、大好きなんだよねぇー」 俊介が言うともうすでに青空は、一つ目のハンバーガーをぺろりと食べてしまっていました。 「…えっ?」とサンドルフとサンサンが同時に言って、青空を見て目が点になっています。 「かなり、大きかったはずなんだけど…」とサンドルフは苦笑いを浮かべて青空に言いました。 「あはは、超人間だからっ!」と青空はサンドルフの問いの回答ではない答えを元気よく言いました。 超人間は御座成悦子をはじめ、ここには数名います。 特に、結城が造った木像から生まれた魂は、全員が寿命を100億年持っています。 「あー…」とサンサンが言うと、サンドルフはランスにサンサンの種族について聞きました。 「サンサンも例外に漏れずに超人間」とランスは笑顔でサンドルフに言いました。 「知っていると思うが、  サンドルフはすでに勇者だから寿命はないに等しい。  だが、超人間には寿命がある。  この違いは大きいよな」 サンドルフの後ろにいたサンサンは、「あー…」と言って少し悲しそうな顔をしています。 「だけどサンサンが勇者になれば、サンドルフと同じだぞ」とランスがサンサンに笑みを向けて言うと、サンサンは手のひらを合わせて飛び上がって喜んでいます。 「だけど超人間は成長が遅い。  あと10億年ほどしないと、サンサンはお年頃ではないな」 ランスが少し含み笑いをして言うと、サンサンはかなり悲しそうな顔で、「あー…」と言ってから落ち込んでいます。 「だが、サンドルフと恋愛関係になりたいのなら、朗報もあるぞ」 ランスが言うと、サンサンはランスに食いつくのかと言うほどに顔を近づけています。 「サンサンの現在の精神的年齢は、サンドルフと同じで12才だ」 ランスが言うと、サンサンよりもサンドルフが驚いています。 「あー、だとすると…」とサンドルフが言って、ランスがこの先に放つ言葉の理解をしました。 「肉体と精神の一致という術があるんだ」 ランスの言葉に、サンドルフは大きくうなづいています。 「こっちの世界でそれができるのはグリーンベティーちゃん。  源次郎さんと、コンペイトウの巨木との娘だっ!!」 ランスは大声で笑いました。 さすがにサンドルフたちは笑えないので、苦笑いを浮かべています。 「術を受けるのなら、地球に行って来い」とランスが言うと、サンサンはかなり考え込んでいます。 「…私、12才って思えないんですけど…」 サンサンはサンドルフを見て考えています。 サンドルフのように行動力も思考能力も追いついていないと判断したようです。 「ヒューマノイドを取り込んだせいだろうな。  サンサンはもう幼児ではない」 サンサンの疑問にはランスがすぐに答えました。 「体重、増えちゃうかもっ!!」とサンサンが言うと、サンドルフもランスも大声で笑いました。 「身長的にはほぼ倍になるから、重くなるかもしれない。  今のサンドルフでは、サンサンを抱え上がられないかもしれないな」 ランスが意地悪く言うと、「あ、だったらこのままでいいですぅー…」とサンサンが言って即断すると、ランスはかなりの勢いで笑い始めました。 「だがこの術は術者だけではなく、  術を受ける側の主張も取り入れられるんだ。  精神年齢と同じ身体が欲しいのなら何も考える必要はないが、  それを押さえ込むことで、  身体を12才以下に留めることも可能なんだよ。  だが背伸びをすることはお勧めではない。  子供のまま大人の体を持つとロクなことがないからな」 ランスが言うとサンサンは興味はありましたが、ランスの言葉なのですぐに考えないことにしました。 「少しだけ、成長したい、かなぁー…」とサンサンが言うと、ランスはサンサンに笑みを向け、サンドルフは苦笑いを向けました。 ―― サンサンを抱き上げることがまだまだ修行… ―― とサンドルフは考えているようです。 「あっ、超人間は満腹感も…」 サンドルフが言うと、ランスは苦笑いを浮かべています。 「それだけは年齢に関係なく大人サイズなんだよ」 ランスが言うと、サンサンもサンドルフもまだ食べている青空を見て納得したようです。 「あー… 食べ過ぎちゃいけないって思って…」とサンサンがつぶやくように言いました。 「俊介君ほど食べなければ問題はないはずだぞ」とランスが笑いながらサンサンに言うと納得したようで、「これからはもう少し食べることにしますぅー…」とかなりうれしそうな顔をしてサンサンは言いました。 ランスは源次郎に連絡を取って、グリーンベティーの術を受けたいと申し出ました。 丁度定例の若返りの会が明日の朝にあると言われ、サンサンを同席させてもらうように願い出ました。 ランスが念話を切ると、サンサンはランスに丁寧におじぎをしています。 「明日はもう一日、人探しをすることに決めた。  サンサンは気にせずに、成長して来い」 「はい、お父さんっ!」とサンサンは笑顔で元気よく答えました。 … … … … … 翌日、サンサンはサンドルフたちを見送ったあと、意気揚々と地球に渡っていきました。 サンサンは源次郎に丁寧にあいさつしたあと、術師のグリーンベティーがこの空中訓練場にやってきました。 「うわぁー、キレー…」とサンサンは思わずつぶやきました。 グリーンベティーは頭髪は薄い緑色で、その瞳も緑なのです。 しかし肉体は透き通るように白く、誰もが好感を持てる女性です。 「うふっ! よろしくね、サンサンちゃんっ!」と、グリーンベティーは気さくに言いました。 「い、いえ、こちらこそ…」とサンサンは丁寧にお辞儀をしました。 早速、精神と肉体の一致と若返りの会が始まるのですが、その前に、世界の騎士団員のカールが、『グォオオオオッ!!』と人ならざる声で叫ぶと同時に、体中に炎を纏いました。 そして地面が焼け焦げたあと、仕事をやり遂げたと言わんばかりの顔をして、カールはグリーンベティーに笑みを向けました。 グリーンベティーは喜び勇んで、焼けた土に触れました。 「今回の方がすごくステキな土よっ!」とグリーンベティーが言うと、さも当然と言った顔をしてカールはうなづいています。 カールは、人間ではあるのですが、古い記憶である火の妖精だった事実がよみがえりつつあり、火龍の吐く炎と同じ炎を纏えるのです。 グリーンベティーは、焼けた土の上にはだしで立ちました。 これから行なう術は、大量の水と、よく肥えた土が必要なのです。 グリーンベティーは早速、歌を歌い始めました。 サンサンは、『今回はちょっとだけでいいのです…』と願いを込めました。 『そうするわ』とサンサンの目の前にいる、グリーンベティーによく似た小さな妖精が言いました。 そして、サンサンの胸の中に飛び込んでいきました。 サンサンは今起こったことにぼう然としています。 「…ああ、あの妖精さんが術…」と正しく理解しました。 我に返った数名の女性たちが鏡に近づいて歓喜の声を上げています。 やはり誰しも、若くなるとうれしく思うものなのです。 精神と肉体を一致させるだけではなく、個人差はありますが若返ることが可能な術なのです。 しかし寿命が伸びることはありません。 サンサンも早足に大きな鏡に近づきました。 そして鏡に向かって笑みを浮かべています。 サンサンが思った通り、もう幼児ではなく、少女になっていました。 年齢的には10才といったところでしょうか。 ―― 少しは、サンドルフ君も喜んでくれるかもぉー… ―― そしてサンサンはあることに気づきました。 「うっ 胸が…」と言って、体を横に向けて鏡を見ました。 わずかですが、サンサンはもう、女性の仲間入りを果たしたと思ったようです。 女性には少なからずこういったことがありますので、周りにいる人たちは笑顔でサンサンを見ているだけです。 「うまそうになったなぁー…  食ってもいいかぁー…」 ベティーBTが笑顔でサンサンに近づいてきました。 「私、重くて硬いそうですよ」とサンサンが言うと、ベティーはトラに変身しました。 そしてなんとサンサンのかわいらしい小さな手に噛み付いたのですが、すぐに変身を解きました。 「おまえのようなうまそうなやつを食えなかったことが残念だぁー…」 ベティーは言ってかなり悔しがっています。 源次郎たちが大声で笑うと、「笑うんじゃねえっ!」とベティーは虚勢を張って怒っています。 サンサンは噛みつかれたのですが、皮膚にはあとも残っていません。 「本当に硬いんだぁー…」とサンサンは言って、あまり女性らしくないことを残念に思っています。 「うらやましいわぁー…」と笑みを浮かべた源次郎の妹の巌剛真奈美がサンサンを抱きしめました。 真奈美と源次郎には血のつながりはありませんが、同じ児童保護施設で育ったのです。 真奈美は源次郎を兄として慕っていたのです。 その真奈美はサンサンに触れまわっています。 「私の倍…  まるで悪魔の皮膚ね。  恐れ入ったわぁー…」 真奈美は本気でうらやましがっています。 真奈美もサンサンと同じく、どちらかといえば大人しそうで可憐な女性です。 しかし、世界の騎士団員の中でも上位に位置する猛者なのです。 その得意技は蹴り。 素早く重い蹴りが、何もかも粉砕してしまうのです。 もちろんランスよりも弱いようですが、その領域に近づきつつある猛者なのです。 「ははは、はずかしいですぅー…」とサンサンが言うと、「ああ、ごめんなさい、夢中になっちゃったわっ!!」と言って真奈美は大声で笑いました。 サンサンは真奈美に好感を抱きました。 「ベティーさんって、まさかですけど…」 「ええ、本気で食べようと思っていたみたいね」 サンサンの疑問は素早く答えた真奈美の言葉で解決しました。 「だけどね、食べられないって、  お兄ちゃんが思っていたようだから邪魔しなかったみたいね」 真奈美が言うと、サンサンは少し笑っている源次郎を見て頭を下げました。 「あのぉー、サンサンちゃん…」とグリーンベティーがサンサンに近づいて話しかけてきました。 「あ、ベティーさん、ありがとうございましたっ!」とサンサンが感謝の心を持って言うと、グリーンベティーは首を横に振って微笑んでいます。 「私にできることだったらみんなに協力したいだけだから。  それにね、サンサンちゃんほど、  その想いが伝わってくる人ってなかなかいないの。  あ、もちろん感謝れていることはわかるのよ。  だけど、みんなとはぜんぜん違うの」 グリーンベティーの言葉に、サンサンはどう言えばいいのか途惑いました。 「自分のことは自分ではよくわからないこともあるの。  ベティーちゃんははっきりと言った方がいいわよ」 真奈美がグリーンベティーに助け舟を出しました。 グリーンベティーは真奈美に笑みを向けてからサンサンをまっすぐに見ました。 「私の今の施術に協力して欲しいのっ!!」とグリーンベティーは大声で言って、サンサンに頭を下げました。 「…えー、一体、どーして…」とサンサンは言って、不思議に思っています。 「妖精たちと話ができたのは、サンサンちゃんが始めてだから。  だから術を受けた人一人ひとり、正確に願いを叶えたいの。  気にいらないって人は誰もいないんだけどね、  本当に願い通りなのかは疑問なの…」 サンサンは納得して、その身をぬいぐるみに変えて、この場にいる全員に抱きつきに行きました。 誰もが大歓迎してサンサンを抱きしめています。 そしてみんなに手を振って、グリーンベティーの目の前で変身を解きました。 「みんな満足しているんだけど、  大満足っていう人はたったの三人だったの…  でもね、願いがあやふやだったってことが、大きな原因。  欲をもっちゃいけないことだから。  お願いで止めないといけないの」 グリーンベティーも真奈美も顔を見合わせて納得したようです。 「次からはきちんと説明するわ。  それでもダメなら、協力、お願いできない?」 グリーンベティーが言うとサンサンは、「私ができることだったら…」と少し自信なさげに言いました。 「あ、サンサンちゃんに術がかからないようにすれば、  中継役は簡単にできるはずだから。  あ、簡単と言っても、  かなり素早く動かなきゃいけないって思うけど…」 グリーンベティーが言うとサンサンは、―― これも修行っ!! ―― と強く思い、「次回は協力させてくださいっ!」とはっきりと言いました。 「まずは真奈美さんを実験台に…」とサンサンが言うと、源次郎が三人に結界を張りました。 「お兄ちゃん、素知らぬ振りしてちゃんと聞いていたのね…」と真奈美は少し批判的な目を源次郎に向けています。 グリーンベティーもサンサンも、少し大声で笑ってしまいました。 でも、誰にも聞こえないので、誰にも迷惑はかかっていません。 「ひとりだけなので、おなかはすかないからこのままで…」 グリーンベティーが言うと、真奈美は身構えましたが、「心に笑顔をっ!!」というサンサンのアドバイスに、真奈美は素直に従いました。 グリーンベティーが術を放つと、妖精はまずはサンサンを見ています。 「迷っちゃダメ。  今の真奈美さんの思いに、素直に…」 サンサンが言うと、妖精は笑みを浮かべてゆっくりと真奈美に浸透して行きました。 「へー…」とサンサンが言うと、グリーンベティーは満足そうな笑みを真奈美に向けています。 真奈美は何があったのかすぐに知りたくて、鏡に向かって走り出し、結界を破って外に出ました。 「とんでもないなっ!!」と源次郎は言って大声で笑っています。 もちろん、それほど強い結界ではなかったので、真奈美であれば突破できたようです。 「きっと満足。  真奈美さんに聞かなくてもわかったわ…  ありがとう、サンサンちゃん」 グリーンベティーは柔らかな笑みを浮かべて、サンサンにお礼を言いました。 「ううん、また私もお願いしちゃうからいいのっ!」とサンサンは言って、グリーンベティーを満面の笑みにしました。 「これっ!  これよっ!!  大満足だわっ!!」 真奈美が叫ぶように言うと、サンサンとグリーンベティーは顔を見合わせて笑いあいました。 グリーンベティーはサンサンを食事に誘いましたが、サンサンはサンドルフたちの仕事の協力に行くことに決めていました。 その想いを察して、グリーンベティーは今回は諦めたようです。 この場にいたセイランダたちも少しさびしそうにしています。 サンサンはグリーンベティーや源次郎たちに重ねてお礼を言って、セルラ星に戻りました。 訓練場に出ると、爽太が学生たち相手にハイビームの訓練をしています。 爽太はサンサンをひと目見て変わったことに気づきました。 「へー… きっと大人になったら美人だよ」と爽太に言われてサンサンは赤面してしまいました。 学生たちも、少女になったサンサンに釘付けになっています。 そして欲が流れてきたところで、爽太とカナエたちがその者たちに渇を入れ始めました。 「あのぉー、お仕事中なんですけど…」とサンサンが言うと、「ああ、サンドルフ君はこの北10キロにいるから、念話で呼べばすぐに来てくれるよ」と爽太が言ったので、サンサンはお礼を言ってからサンドルフに念話をしました。 サンドルフはかなりの勢いですっ飛んできたようで、すぐに訓練場に姿を見せました。 「へー、見違えたね、サンサン」とサンドルフはやさしい笑みでサンサンを見ています。 訓練中のカレンはひと言言いたいようですが、今は我慢して訓練の続きを始めました。 「さて、問題はだな…」と言ってサンドルフはサンサンを抱きしめてから、「うりゃっ!」と言って抱き上げました。 「ふぅー、許容範囲ぃー…」とサンドルフが言うとサンサンは喜んでいます。 そしてそのまま宙に浮かんで、素早く訓練場を後にしました。 「…カレンさん…」「ライバルの想いに反応してんじゃねえ」とサンドルフがランスが言うよな言葉を発して、サンサンを笑顔にしました。 「うん、私も、後悔したくないから」とサンサンはサンドルフに笑みを向けました。 ほんの数秒でサンドルフたちはランスたちと合流しました。 今はゼンドラドが候補者の面接をしているところです。 サンサンは笑顔でランスに抱きつきました。 「なるほど、やはり重くなっているな。  サンドルフにとって最高の修行だが、今日は俺についてくれ」 ランスが言うとサンサンはまったく感情を変えずに、「はい、お父さんっ!」と言って喜んでいます。 「あっ!」とゼンドラドに面接を受けている青年がサンサンを見て反応しました。 ですがすぐに肩を落としました。 どうやらサンサンが誰かに似ていたようなのです。 「戦争中にはぐれてしまった妹に似ていたか…」とゼンドラドが言うと、サンサンはぬいぐるみに変身して青年に抱きつきました。 そしてサンサンはすぐに、ゼンドラドに抱きつきました。 ゼンドラドはサンサンに笑みを浮かべて、「はぁっ!!」とひとつ気合を入れると、青年の妹が白衣姿で、眠っている状態でこの場に現れました。 「…コーリン…」と青年は言って、少女に近づき涙を流し始めました。 するとランスの体から一匹の猫がでてきて、コーリンと呼ばれた少女の体内に入り込みました。 そして、さまざまなものをその体から取り出して、またランスの体に戻っていきました。 「私がやりたかったのにぃー…」とランスの肩にいる小さな妖精が、少し怒りながら言いました。 「次はおまえがやればいい」とランスは妖精に笑みを向けました。 「さて、はらごしらえ…」とランスは言って、異空間ポケットから容器を取り出しました。 ふたを開けて青年に差し出して、「小さなものをひとつだけ食べさせてやってくれ」と言いました。 青年は疑うことなく悪魔の木の実の小さな欠片をつまんで、コーリンに食べさせました。 数秒後、コーリンはゆっくりと目覚めました。 「…ああ、お兄ちゃんも死んじゃったのね…」とコーリンがうわごとのように言うと、「死んでないぞ」と青年は答えました。 そしてコーリンをやさしく抱きしめました。 「だって、かわいい天使さんがいるもの…」 コーリンは変身している天使デッダのサンサンを見て自分は死んだと思ったようです。 「死んではいないが、現実の世界にも天使はいるんだよ」 青年が言うと、コーリンはサンサンに手を差し伸べました。 サンサンはすぐに、コーリンに抱かれました。 「妹とともに、ゼンドラド・セイント町に来て欲しいんだがな」 ゼンドラドが言うと、「はい、お世話になりますっ!!」と生気を取り戻した青年は叫ぶように言いました。 サンサンが人間の姿に戻ると、コーリンは驚いています。 確かにコーリンとサンサンはよく似ていたのです。 「コーリンが元気になったら、サンサンにそっくりになりそうだな…」 ゼンドラドが感慨深く言うと、誰もがうなづいています。 「見間違えなかった理由を聞かせてくれないかな?」 ゼンドラドが青年に笑みを向けて言うと、「コーリンには耳たぶにほくろが…」と言うと、ゼンドラドもランスたちもコーリンの耳たぶに大注目しました。 「…回避…」とサンドルフがつぶやくと、ゼンドラドは笑みを、ランスは驚きの顔をサンドルフに向けています。 そしてランスはサンドルフを始めて探り、「はー、納得だ…」と言ってサンドルフに笑みを向けました。 「彼女は宇宙の(くさび)だ」とゼンドラドが言うと、誰もがうなづき始めました。 サヤカの平和も、サヤカが宇宙の楔として宇宙を支え、その想いが人間としてこの世に生を受けたものなのです。 「ひどい目にあったが、間一髪で死ぬことはなかった。  こうやって彼女は天寿を全うして転生を繰り返しているんだろうな」 ゼンドラドの言葉にまた全員が深くうなづいています。 「しかも、俺が打ったっ!!」とゼンドラドは言って、大声で笑い始めました。 ランスたちはこの偶然に驚いた顔を見せましたが納得もしています。 「しばらくゆっくりしてもらってから、今後の進路を決めてもらおう」 ゼンドラドが言うと、全員がゼンドラドに頭を下げました。 「宇宙の楔…」と青年が言うと、ゼンドラドは全ての説明をしました。 「宇宙を流れないようにつなぎ止める…」と青年は言ってぼう然としています。 「楔を打つ時に願いをかけるんだ。  すでにある願いは拒絶される。  ワシの願いは数回拒絶されて、最終的に回避で落ち着いたんだよ」 ゼンドラドが言うと、誰もがうなづいています。 町に戻る途中ランスが、「サンドルフ、代わってくれ…」とまた言っています。 説明はランスに聞いたのですが、サンドルフは困り果てています。 「誰でも祖父の子でいたいことはよくわかる」とゼンドラドは笑みを浮かべてランスを見ています。 「あと一人は女性か…」とゼンドラドが言うと、「カレン、は違ったんだよなぁー…」とランスが言いました。 「もっとも、男に転生している場合もあるが、  古い神の場合、高確率で女性のはずだ。  性別を頻繁に変える者はほとんどいないからな」 ゼンドラドが言うと、誰もが納得しています。 ですがこれではいけないのです。 男性と女性を入れ替えては転生するものこそが、最高にいい修行をしているはずだとゼンドラドは思ってやみません。 ゼンドラドは昼食にすることにして、メリスンの店に向かって飛んでいきました。 「うっ! やっぱ忙しそうだ…」 昼食はいつも学生食堂で摂ります。 その理由はまさにこの戦場と何も変わらない店内に漂っている気迫。 メリスンたちは毎日この修行を積んでいるのです。 もっともメリスンにとってはうれしいことなのですが、店員の三人にとってはまさに地獄でした。 しかし三人もそれなりの猛者なので、修行として精一杯働いているのです。 「あれ? おかしいな…」とランスは勧誘除外リストを見てつぶやいています。 「ほうっ!」と言ってゼンドラドはひとりの青年を見ています。 この青年はほぼ毎日来店していて、ゼンドラドもランスも顔見知りです。 ですが、今回のように深層心理を探ることはなかったので、改めて驚いているようです。 そしてこの青年の名前が、リストの中になかったのです。 「術は放っていないから、その存在感だけで、普通の人に見せていた…」 ゼンドラドが言うとランスが、「かなりハイレベルなようですが…」と言って、少し笑っています。 「色恋沙汰に紛れ込ませていたかっ!!」とゼンドラドは言って大声で笑い始めました。 「はい、彼はセルアにメロメロですから」とランスは少し笑いながら言いました。 「セルア目当てか…  だが、警察官としてはかなり優秀だが…」 ゼンドラドは少々いぶかしげに思っているようです。 「純粋に、麗子さんが嫌いなだけ…」とランスが言うと、ゼンドラドは納得してうなづき始めました。 早速、今回はランスが青年にアプローチを摂り始め、簡単に警察官をやめて魔王軍に所属したいと言いました。 「お父さん、早いなぁー…」とサンサンは少し感動しています。 「条件付だからね…」とサンドルフが苦笑いを浮かべて言うと、サンサンも同じような顔をしています。 ランスはセルアとこの青年のデートの橋渡しをすることで簡単に勧誘したようです。 「いつまでも突っ立っていないで座って注文してっ!!」とメリスンの厳しい声が飛んで、ゼンドラドたちは誰もいない学校関係者用のテーブル席に座りました。 「あ、私が…」と言ってサンサンがウェイトレスを引き受けるようで、みんなから注文を聞いています。 メリスンは笑顔でサンサンを見ています。 注文を聞き終えたサンサンはすぐにメリスンに伝えて、メリスンに深い笑みをもたらせました。 「明日からもお昼に来てくれていいわよ。  サンサンがいる時はね」 メリスンが言うと、サンサンは喜び勇んでランスに報告に行きました。 セイラたちが怪訝そうな顔をして店をのぞき込んでいます。 魂を探ったのか、この時間になぜランスたちが店にいるのか気になったようです。 「あ、セイラたちも今日はいいわよ」とメリスンが上機嫌で言いました。 サンドラを含んだ6名が、申し訳なさそうにして店内に入ってきて、いつもの席に座りました。 「ご注文をどうぞっ!」とサンドラのとなりに立っているサンサンが言うと、セイラたちは目をむきました。 「サンサンちゃんっ!!」と一番に声を発したのはサヤカでした。 「今日は、こっち側のウェイトレスなのぉー…」とサンサンはうれしそうに言いました。 ここはサヤカが仕切って、サンサンは難なく注文を取り、メリスンに駆け寄りました。 「はぁー… サンドルフ君、迷ってるみたい…」 早百合が言うと、セイラたちはそのサンドルフに視線を移しました。 ですが今は、そのようなことはなく、笑みを浮かべてランスたちと話しをしています。 「カレンちゃん、どうするのかしら…」と早百合は少し心配そうな顔をしました。 「私のように、ランスに捨てられるのよ…」とセイラが言いましたが、誰もセイラの相手はしないようです。 そもそもランスは、セイラにはまったく興味はないようです。 「私のものだったのに…」とカノンが言いました。 カノンは古い神の一族で言うとランスの母で、ランスを夫にするために産んだのです。 しかし産んだ子は魔王でした。 カノンの望みは叶ったのですが、快楽の苦痛が幾日も続いて、カノンは逃げ出してしまったのです。 決められたレールは必要なしとして、そういった者たちはその呪縛から解き放たれているのです。 安藤麗子もまさにその通りで、セイントである結城覇王の嫁になるレールを敷かれていましたが、今は解き放たれています。 ですがカノンも麗子も、解き放たれたことが気に入らないようです。 この母娘は、不幸な人生を歩んでいる途中なのです。 「いい加減にしておかないと、さらに困ったことになちゃうわよ」 早百合が言うと、カノンは十分にわかっているので、下を向いてしまいました。 そのランスが、早百合に歩み寄ってきました。 「どんな具合?」とランスはかなり上機嫌で早百合に聞きました。 「貴族、9割粛清」と早百合はかなり厳しい言葉をランスに告げました。 ですが、これは予想していたことなので、ランスの表情は変わらずうなづいているだけです。 「来年の卒業者、実習として城に派遣してもいいんじゃねえの?  ほとんど学校や町に残るんだろ?」 ランスが言うと、早百合は深くうなづきました。 「…そうするわ。  それで、ガロン王がいなくてもイルニー国は安泰。  表情から察して、ランスの仕事も順調のようね」 早百合が言うと、ランスは笑みでうなづいています。 「騎士候補五名。  そして魔王軍に12名」 ランスが言うと、早百合たちは驚きの顔をランスに向けています。 「その半数が、サンサンとサンドルフが見つけたんだよ。  俺は最高の弟子を持って最高に幸せだぜ」 ランスは心の底から本心を述べました。 セイラとカノンはランスを見ていますが、特にコメントはないようです。 「サンドラの騎士はそれで十分だわ。  あとは私たちだけど…」 「しばらくはサンドラの補佐を頼みたいね。  引き際は、俺なんかよりもわかっているはずだからな」 ランスが言うと早百合は、「わかったわ」と言って、ランスに笑みを向けました。 「あんた、早百合に気があるんじゃないの?」とセイラが言いましたが、ランスは無視して自分の席に戻っていきました。 「セイラ、余計なことは言わない方がいいわよ。  ランス、消えちゃうかも…」 早百合が言うと、セイラたちはかなり驚いた表情をしてランスを見ています。 「…消えるって、まさか…」とダフィーが言うと、早百合は深くうなづきました。 「ランスは近々また引っ越すはずだわ。  どうやらドズ星も、ランスにとって面倒な場所のようだから」 「ブライ様?」とサヤカが言うと、早百合は小さくうなづきました。 「今は機嫌がいいの。  蓮迦様が毎日ドズ星を訪れるから。  だけど、ランスは自分の宇宙に家を建てることになるはずだからね、  遅かれ早かれ引っ越すことになると思うわ。  そこだとしっかりと吟味して選定すれば、面倒な星はないはずだから」 早百合が言うと、セイラもカノンも顔色を変えました。 「…黒い扉をくぐれない…」とダフィーが言うと、早百合はうなづいています。 「ランスの邪魔は、もう誰にもできなくなるわね。  ランスと細田さんは契約を結んだみたいだから。  これってもう最強だと思うわよ」 早百合が言うと、セイラもカノンもわなわなと震え始めました。 そしてふたりは立ち上がろうとしましたが、それは叶いませんでした。 「ほら、もう罰を喰らっちゃったわね」と早百合が言うと、ふたりは力尽くで抵抗していますが、どうしようもないようです。 そして肩を落としてうなだれてしまいました。 「うわっ、怖ええ…」とサンドルフがランスのように言うと、「俺もそう思う」とランスが苦笑いを浮かべながら言いました。 「早百合ちゃんの言った通りでいいと思う。  わざわざ面倒なことを先延ばしにしないで、  もう決めちゃえばいいんだよ」 セイルが言うと、ランスは背中を押されたように感じて、セイルに頭を下げました。 「セイル兄さんのおっしゃった通りにします。  コロネル…」 ランスが言うとコロネルが姿を見せて、候補の星の一覧の映像と情報を出しました。 「一番いいのはこの名もない星。  管理者がいないからな。  もうずいぶんと長い間、動物と植物だけの星だ」 「ダイゾとか…」とランスが言うと、「そこまではわかんね」とコロネルは言いました。 「じゃ、ここにしよう」と言って、ランスは簡単に決めてしまいました。 「じゃ、私に任せてっ!!」と、いつの間にかいた悦子が胸を張って、巨大ハンバーガーを両手に持って言いました。 保奈美もいて、ランスに申し訳なさそうな顔を向けています。 「地獄耳ですね」とランスが悦子に言うと、「細田さんに頼まれちゃったから…」と身をねじって恥ずかしそうに言いました。 もうすでに、悦子が持っていたハンバーガーは、胃袋に収まっていました。 「うーん…」とランスは言ってそして考え、細田の作戦を理解したようです。 時には大きな仕事を悦子に頼んで、ご機嫌を取っておく作戦、などとランスは考えたようです。 まさに細田の考えはその通りでした。 すると、悦子と保奈美は消えてしまいました。 「この星のライブ」とコロネルが言って、映像を出すと、悦子と保奈美が空に向かって手を振っています。 どうやら、撮られていることもわかっているようです。 そして悦子は悦子の僕のツヨシを呼び出しました。 「いつ見てもかっこいいなぁー…」とランスは映像を見て言いました。 ランスはツヨシの大ファンなのです。 「お、俺と比べてどうだ?」といつの間にかセイラから変身したキャサリンが言いました。 「まったくの別の能力だからな。  判断はできないよ」 ランスが言うとそれでもよかったようで、キャサリンは喜んでいるようです。 サンドルフとサンサンは素早く食事を終えて、映像に夢中になっています。 時折猛獣が襲ってきますが、悦子が簡単に撃退しています。 重力がドズ星と同じなので鳥はいないと思っていたようですが、黒い影が悦子を襲うとしています。 しかしツヨシが難なく撃退しました。 そして保奈美に慰められて、保奈美のペットになったようで、飛ばずに歩いて、保奈美についていきます。 「どうやって言い聞かせたのっ!!」と言ってサンドルフが大笑いしています。 誰もが不思議に思ったようで、サンドルフに続いて大声で笑い始めました。 「調べるねっ!」 サンサンだけがマジメでした。 「…あ、ああ、すごいね…」とサンドルフは言って、サンサンを見て感心しています。 サンサンは眼を閉じているだけです。 そして、「テレパシー?」と自信なさげに言いました。 「まさか、保奈美さんがやさしさを向けただけで家来になった…」とサンドルフが言うと、「うん、それしかないようなの」とサンサンは照れ笑いをしながら言いました。 保奈美が笑顔で指を差すだけで、怪鳥は喜びながら仕事をしています。 「動物使いもできるんだな…」とランスは感心しながら言いました。 「あー、今のって、テレパシー飛んでたよ」とサンサンが言うと、一同は納得の笑みを浮かべています。 一方、悦子とツヨシは、高い壁を築き上げています。 「ドズ星のよりも高いな…」とランスはしきりに感心しています。 「…さて、今後の方針なんだけどな…」とランスが言うと、マキシミリアンたちは真剣な顔をランスに向けました。 「メリスンさんには申し訳ないが、俺は完全にセルラ星を放棄する。  そしてあの星で鍛え、あの星で生活して、あの星から旅に出る。  ということで頼むぜ」 ランスが言うと、セイル以外は少し驚きましたが、すぐにランスに頭を下げました。 「星への出入りは、俺の悪魔様に一任するからな。  俺の意思はないことも言っておこうか」 「それでいいと思うんだ」とセイルが笑みを浮かべて言うと、「賛同していただいてありがたく」と言ってランスはセイルに頭を下げました。 ランスは早速引越しをするようで、その姿を消しました。 「うっ、地球に…」とサンドルフが言って、「行く?」とサンサンに聞きました。 サンサンは少し考えてから、身震いをしました。 「嫌な予感だけど…  私は見ない方がいいのかも…」 サンサンが言うと、サンドルフも無理をしてまで見る必要はないと思ったようです。 ランスがひとりで消えたことがその証拠です。 まさにふたりの予感は的中しました。 ドズ星の管理者のブライは、ランスに抵抗しようとして、自らの術を跳ね返されて、手の先、足の先を失ってしまったのです。 ランスはドズ星でランスの子供になった50人とセイランダたちを連れて、新しい星に姿を現しました。 「メリスンさんが怒っているからね…」 いつの間にかいた店にいた細田が言って、メリスンに事情を説明すると、メリスンは納得してから、カウンターの後ろにある小部屋に入っていきました。 するとメリスンは、新しい星に姿を見せて、空に向かって手を振っています。 「行こうか」とサンドルフが言うとサンサンが、「うんっ!」と答えて、ふたりはすぐに、小部屋に入っていきました。 「うう、ドズ星…」とサンサンがうなるように言って、サンドルフも同じように思ったのか笑っています。 「重力もそのものだね。  そしてこの荒れた大地。  ドズ星は今は緑でいっぱいだけど、  お師匠様が同じように改善するだろうね」 そのランスが翼龍に変身して、空高く舞い上がりました。 「待て、ランスッ!!」という声がして、キャサリンがすぐに火龍に変身して飛び立ちました。 「今すぐに開拓するんだ」と言ってサンドルフは笑っています。 すると、映像で確認していた怪鳥がうろうろとし始めたので、保奈美が許可を出したのか、すぐに翼龍と火龍の後を追いかけて飛び立ちました。 「あ、風のにおいが…」「ああ、緑のにおい…」 ふたりは深呼吸をして笑みを向けあいました。 すると黒い扉からまた強引にカレンが姿を見せました。 ここでは警報が鳴りませんが、セルラ星では鳴っているようです。 「サンドルフ君っ!」とカレンが言って、一瞬にしてサンドルフとサンサンの目の前に現れました。 サンドルフは少し首をいなしています。 「光のビーム…」「ごめんなさい…」 サンドルフは簡単に避けましたが、普通の者のであれば吹っ飛んでいたことでしょう。 「心配なんだ」とサンドルフが言うと、カレンはサンサンを見ています。 「…ロリコンかもしれないじゃない…  ってっ!!」 カレンはサンサンの胸に注目しています。 そして、自分の胸を見ています。 カレンの胸はまるで男の子のようです。 「…私よりも出てる…」とカレンが言うと、サンドルフは、「カレンの方がロリータだっ!」と言って大いに笑っています。 「ボクもお師匠様の意見に賛成なんだ。  見た目はそれほど重要じゃない」 サンドルフが言うと、サンサンは大いに落ち込んだようです。 「…喜んだのにぃー…」と言ってサンサンはサンドルフに苦情を申し立てています。 「今のうちに言っておいてもいいんだけど…」 サンドルフが言うと、サンサンもカレンも同時に耳を塞ぎました。 「いいよ、だったら言わないから」とサンドルフが言うと、ふたりはサンドルフに笑みを向けました。 「うーん…  笑顔勝負は引き分けで」 サンドルフが言うと、ふたりとも悔しがっています。 「何か手伝えることってないかなぁー…」 サンドルフはふたりを横目で見ながら言いました。 ふたりは真剣な表情で考え始めました。 「囲いの中の整地っ!!」とサンサンが言うと、「そうだね、二度手間になるかもしれないけど、ひどいところはやっておこうか」と言って、サンドルフはサンサンに笑みを見せました。 あまりの自分の不甲斐なさにカレンは大いに憤慨しています。 「よっ!!」とサンドルフはひとつ気合を入れてサンサンを抱き上げました。 そして、小股で歩き出しました。 サンサンの重みで、荒れた土地は少しずつ平らになっていきます。 「ううっ! 意見できないっ!!」とカレンが叫んで、地団太を踏んでいます。 大まかな作業は終ったようで、悦子たちはサンドルフを見ています。 「サンサンちゃん、どんだけ重いのよっ!」と言って悦子は大声で笑っています。 「私が力を入れて踏みしめても、あんなにキレイにならないわ…」 保奈美が言うと、悦子も賛成しました。 「500キロほどでしょうか…  ふんっ!」 『ダンッ!!』という音とともに、少しだけツヨシの足が地面に埋まっています。 「こんな感じですね」とツヨシが言うと、悦子も保奈美も理解できたようです。 「この星の地面はなかなか硬いですから。  サンドルフ君もかなりすごいですね」 「陽鋳郎君も、体力バカだったからねっ!」と悦子は陽気に言いました。 「ああ、そうでしたか」とツヨシは言ってうなずいています。 「まだ転生したばかりなのにすごいですね」とツヨシは言って、目を細めてサンドルフたち三人を見ています。 「あの女性…」とツヨシが言って、カレンに興味を持ったようです。 「今のところはね、サンドルフ君の彼女」と悦子が言うと、ツヨシは少しうなだれたように見えました。 そして思い出したように、「今のところ…」と言ってツヨシは少し笑みを浮かべて、「サンサンちゃんが…」とさらに言うと、悦子はツヨシに笑みを向けました。 「ツヨちゃんにはどうかなぁー…」ともうすでにツヨシの気持ちを察している悦子が言うとその雰囲気から、『やめておけ』と言われたようにツヨシは思いました。 「妖精だからね」と悦子がさらに言うと、「ああ、なるほど…」と言ってツヨシはこの時点でカレンを諦めました。 カレンは魅力があるとツヨシは感じていたのですが、それがなんなのかわからなかったのです。 妖精と聞いてさすがのツヨシも付き合う気は失せたようです。 妖精とは主従関係でいることが自然だと、ツヨシは思っているからです。 「ツヨちゃんは妖精を持ってないからいいんじゃないの?」 悦子が言うとツヨシは笑顔で首を横に振りました。 「いえ、もうすでに彼女には興味がなくなってしまいました」 ツヨシが言うと、悦子も保奈美も、「ひっどぉーい…」と言ってツヨシを非難しました。 ふたりの様子からツヨシは、「…ええ-…」と言って、自分が間違っているのかとさらに考え始めました。 「別に妖精が彼女でもいいじゃない。  何か問題でもあるの?  ああ、ツヨちゃんは古い体質だからなぁー…」 悦子が言うと、ツヨシは少し頭を下げました。 今のところは保留でいいと、ツヨシも、そして悦子たちもそう思ったようです。 ランスたちが帰ってきて変身を解くと悦子が、「井戸と温泉、お願いっ!!」と叫びました。 「はい、すぐにっ!」とランスは言ってから、視線を下に向けると地面がきれいに聖地されていることに気づきました。 今もまだサンドルフがサンサンを抱き上げて、その重みで整地をしています。 「いい訓練になっているようだな」とランスは言って、目を細めてふたりを見ています。 そしてその後を追いかけているカレンを不憫に思っています。 今のところサンドルフとサンサンは兄妹のようなものですが、この先きっと変わるとランスは感じています。 そして中途半端な気が流れてきました。 「…はあ、ツヨシさんが…」とランスが言ってさらに笑みを深めました。 ですがかなりあいまいなので、ランスは何も言わないことにしたようです。 ランスは地中を探って、ふたつの井戸と温泉をひとつ掘り出しました。 仕事が終ったランスは、異空間ポケットから家を取り出して、一番いいポジションに並べました。 「遊園地はまた造ろうか」とランスが言うと、50人の子供たちは笑顔でランスを見ています。 ランスは子供たちの願いを聞き入れて、ドズ星に動力源と遊具のふたつの機能を兼ね備えた遊園地を造っていたのです。 50人の子供たちが動力源として鍛え、それを遊びにして、遊具は主に天使たちが楽しむのです。 その天使たちの高揚感などにより、子供たちは鍛え上げられますがそれほど疲れないのです。 これほど画期的なものはないと、ランスは感じていました。 「木がねえ…」とランスは辺りを見回しました。 やはり重力が厳しいので、木があったとしてもそれほど大きく成長できませんが、この星は短い草かツタのようなものしか、囲いの周りには生息していないようです。 ランスは高く飛び上がって、「ああ、あったあったっ!」と言ってかなりの勢いでその方角に飛んでいきました。 カレンは、―― 何か手伝いを… ―― と思っていたので、サンドルフを離れてランスを追いかけました。 ランスはあまり生えていない、ずんぐりした木を丁寧に引き抜いています。 「あのー、私も…」とカレンが言うと、「おうっ! 手伝ってくれっ!」とランスが言うとカレンは満面の笑みで返事をして早速近くの木を掘り出しました。 「おーおー、早ええなぁー…」とランスは言って感心しています。 ―― 役に立ったっ!! ―― とカレンは思って、高揚感をさらに上げて作業を続けました。 悦子たちも駆けつけてきて、植樹の手伝いを始めました。 「あ、山、造ってくるわっ!!」と悦子は言って、ツヨシと保奈美を連れて囲いの町に戻りました。 「山、造っちゃうんだぁー…」とカレンはぼう然として言うと、「神様だからな」とさも当然のようにランスが言うと、―― それはその通り… ―― とカレンは納得しました。 ふたりして木を抱え込んで悦子の作業場に近づくと、もう山がほぼ出来上がっていました。 「さっきはなかったのに…」とカレンはぼう然として眼下を見ています。 「驚いて当然だっ!」とランスは言って少し笑ってから、木を降ろしました。 植えるのは保奈美が担当するようで、悦子たちも宙に浮かんでランスの手伝いを始めました。 保奈美は笑顔でそしてスピーディーに植樹をしていきます。 怪鳥は木の根元を固める役のようで、楽しそうにして保奈美についていきます。 「パワーも相当なもんだなぁー…」とランスは保奈美を見てかなり感心しています。 悦子は自分がほめられたように思い、自慢げに胸を張りました。 ほんの数時間で、今までここにあったと言わんばかりの緑深い山ができました。 ランスたちは満面の笑みを山に向けています。 そして振り返ると、小さいながらも町ができていました。 プールも完備しているので、もうすでにセイランダたちは水遊びを楽しんでいます。 「あの子たちったら…」と悦子が気に入らないような口調で言うと、「基本、動物だからね」とランスが言いました。 「だって、小鳥さんだって手伝ってたじゃないっ!」 悦子は体長10メートルの怪鳥に指を差して言いました。 「小鳥なんだっ!!」とランスは叫んで腹を抱えて笑い転げました。 そして、「まあ、エッちゃん先生が本気を出せば、虫レベルだけどね」とランスが言うと、悦子はまだ怒っているようですが、小さくうなづいています。 「エッちゃん先生が指導してよ」とランスが言うと、それは困るようで、すぐに機嫌を治しました。 ようやく整地を終えたサンドルフが、サンサンを抱き上げたままランスに近づいてきました。 「いやぁー、絶景ですねっ!」とサンドルフが言うと、悦子は自分に指を差して自己主張を開始しました。 サンサンはうっとりとした顔でサンドルフに抱かれたままです。 「…サンサンちゃん…」とカレンが苦笑いを浮かべてホホを引きつらせて言うと、サンサンは悪夢から醒めたような顔をしてから、サンドルフの腕を離れました。 「…えっ?」と保奈美が一瞬、驚きの声を上げました。 「サンドルフ君は、術、使ってませんよね?」と保奈美はランスを見て言いました。 ランスはすぐにサンドルフたちを探って、少しだけ笑みを浮かべました。 「サンサンが地力で浮かんだようですね。  サイコキネッシルではなく、飛行術だと思いますが、  まだ勇者ではないようです」 「えー…」と悦子がかなり困った顔をしてランスを見てからサンサンを見て探りました。 「あー、術として持ってる…」と悦子は納得したようです。 「それに、サンドルフ君、やっときちんと見えるようになったけど…」 悦子が言うと、ランスは笑みを浮かべました。 「古い神として覚醒する前に、  カミサン語を思い出す必要があるようです。  ですので、結城さんも探れなかったと思うんですよ」 「あー…」と言って悦子は納得したようです。 「だったら探れないと古い神…」と悦子はつぶやくように言いました。 ランスは笑顔でうなづいています。 「メリスンさんかメリルさんのどちらかが、  佐藤さんの娘かもしれませんね」 ランスが言うと、悦子は納得の笑みを浮かべました。 「私は、怖いから探らなかったんだけど…」とかなり困った顔をして悦子は言いました。 「あとは魔王」とランスが言うと、「そっちの方が都合がいいんだけど…」と悦子が言いました。 それは当然のことで、この先、確実に魔王は悪い魔王になることがないはずだからです。 魔王は古い神の一族にあこがれていますから。 「悪魔メリルは、古い神の件を知っていたのかもしれませんね。  そして、魔王を呼び出して生んだ」 ランスが言うと、悦子はすぐに全てを探りました。 するとメリスンがホホを引きつらせながらこの星に渡ってきました。 「ううっ 素早いっ!  やっぱり見つかっちゃったっ!!」 悦子は言ってから、ランスの影に隠れました。 「隠れなくてもいいじゃないですか、戦えば…」 ランスが笑いながら言うと悦子は超高速で首を横に振っています。 「メリスンさんはどのような存在なのでしょうか?」 ランスが笑顔で聞くとメリスンは怪訝そうな顔をランスに向けて、そして悦子を見て納得したようです。 「話さなかったのね…」とメリスンは悦子を見て言いましたが、悦子はメリスンに視線をあわせるつもりはないようです。 「…言ったら、石にしちゃう…」とメリスンが言うと悦子は、「言わないわよぉー…」とかなり迷惑そうな顔をして言いました。 「ふーん…」とランスがうなってメリスンを見ています。 「年齢、10億才…  もうひとつは、3000年…  こっちが悪魔ですね…」 なんとランスはメリスンを探り始めたのです。 ですがメリスンは笑顔でランスを見ています。 「おかしいですね…  ああ、超人間になっている…  デヴィラとよく似た症状だなぁー…」 ランスが言うとメリスンがクスリと笑いました。 「神落ちした時にね、メリルが一度しか使えない術を放ったの。  それが超人間」 メリスンが言うと、ランスは納得の笑みを浮かべました。 「じゃ、これが読める…」とランスが言うと、コロネルが宙に映像を出しました。 何かの記号のようですが、普通では読めないようです。 「私には読めないわ」とメリスンはごく自然に言いました。 ランスは素早く悪魔メリルの魂を探り、「親子の対面を…」と言いました。 メリスンには何のことだかわからなかったようで、悪魔メリルに変身しました。 「どういうこと?」と悪魔メリルが言うと、ランスは笑みを浮かべて、「佐藤俊介さんが古い神の一族で言えば父親ですよ」とランスはさもつまらなさそうに言いました。 「サンドルフが弟。  そして、グレラスが兄」 ランスがさらに言うと、メリルは喜びましたが、「グレラスはいらないな…」と言って、笑顔でサンドルフに歩み寄りました。 「ずっと何かを感じていた。  今はねきっと、私が妹だって感じてるの」 「あはは、実は、僕にはまだわからないんです。  でも、ずっと親近感は感じていましたね。  この先覚醒の許可が下りた時にできれば、  仲良く接したいと思ってやみません」 サンドルフが言うと、メリルは笑顔でサンドルフを抱きしめました。 「お兄ちゃんがいいなぁー…」とメリルが言って、柔らかな感情を流しました。 「あー…」とサンサンが言ってから、「…デヴィラさんと俊介君…」とつぶやくように言いました。 ランスは納得したようで大いにうなづいています。 「ふたりも兄妹。  そして仲はかなりいいからね」 ランスはサンサンに笑みを浮かべながら言いました。 「話の腰を折るんだけどね。  実はもうひとり兄弟がいる。  古い神のセントとしては第一子なんだけどね」 ランスが言うと、悦子は少し困ったようで苦笑いを浮かべています。 「あ、ジオラマにはいなかった…」と悦子が言うとランスはうなづきました。 「生まれてすぐに家出したっ!!」とランスは言って大声で笑いました。 「セントとセイラレスが同時に生まれてすぐに願いの子を産んだんだよ。  もちろん、神であろうともこの能力は使えるんだけど、まさに未熟」 ランスが言うと、悦子、サンドルフ、メリルは理解できたようです。 「経験を積んでから子を宿すべきという戒めのようのな話だよね」 ランスがサンサンに向けて言うと、サンサンはさらにランスの想いの理解を深めました。 「子供の心しかないのに、大人になっちゃいけない…」 サンサンが言うとランスは深くうなづきました。 「その子は、今頃は罰を受けています。  やはり何度転生しても、悪い方にしか転がらないようで、  宇宙壁か虫をしていることでしょうね。  この罰はあと数千万年は続くでしょう。  これはセイラの転生が全て明らかになった統計上から  算出していますので確かです」 ランスが言うと、メリルは大きくうなづきました。 「長く生きていれば、困った兄に出会うことになるということね…」 メリルはため息混じりに言いました。 早速父である佐藤に会いに行くことになり、全員で黒い扉をくぐってセルラ星に行きました。 佐藤は今は幼稚園にいるようです。 ランスたちは話しながら大勢で幼稚園に押しかけました。 「大家族ねっ!」とイザーニャが言ってランスたちを歓迎しました。 ランスの50人の子供たちとセイランダたちは、園児たちとあいさつを始めました。 「あはは、もうみつかったよぉー!」と俊介はうれしそうにしてもろ手を上げました。 「メリルさんだったらうれしいなぁーって思っていたんだっ!!」 俊介は本当に嬉しそうに言って、メリルの前に立ちました。 そして、かなりの早業で俊介は大人の姿に戻って、「セントレイア」と言ってから幼児の姿に戻りました。 「ううっ!!」とメリルは叫んでから頭を抱え込みました。 ですがそれは数秒で、「父上、お久しくっ!!」とまるでデヴィラが乗り移ったような口調で言いました。 そのデヴィラはメリルに向けて苦笑いを浮かべています。 「あはは、そうだよねっ!  本当に久しぶりだっ!  あ、サンドルフ君はどうするの?  ボクは言ってもいいって思ってるんだけどね。  きっとね、思わぬ事態が発生するって思うんだよねぇー…」 サンドルフは考えることなく、「ボクが大人になった時にお願いします!」と堂々と胸を張って言いました。 俊介もそしてランスも笑顔でうなづいています。 「それが順当だと俺も思っているんだ。  俺もできれば、大人になってから覚醒した方がよかったのではと  思っているんだよ。  だけど、偶然にも覚醒しちまったから仕方ねえんだけどな」 ランスが言うと、サンサンがその話しを聞きたがったようで、ランスは簡単に説明しました。 「…お父さん、大好き…」とサンサンがつぶやくように言いました。 この言葉に、サンダイスが含まれていたのです。 「笑い話みてえだろ?」とランスは言って、大声で笑い始めました。 「ああ、私が、その言葉を発したかった…」とサンサンはリノとエンジェルをうらやましく思ったようです。 「本来ならば覚醒しないはずなんだが、俺の場合は覚醒した。  やはりふたりの想いに敏感に反応したんだろうなぁー…」 ランスが懐かしそうに遠くを見て笑みを浮かべると、誰もが心が温かくなったようです。 「きっと、サラの持っていた感情と同じようなものを、  二人が持っていたんだろう」 ランスがさらに言うと、サンサンはサラに対してもうらやましさを感じていました。 「そろそろ、自重した方がいい」とサンドルフが言うと、サンサンは一体どういうことなのかよくわかりませんでした。 サンドルフは天使デッダに変身して、サンサンに抱きつきました。 「うらやましさで一杯だぜっ!」とサンドルフが言うと、ランスたちは笑みを浮かべてその様子を見ています。 サンサンは、「…ああ、そうだった…」とつぶやいてから、かなりの勢いで反省を始めました。 「問題はメリスンさんだけど…  古い神の一族と関係はあるみたいだよ」 佐藤が言うと、メリルはすぐにメリスンに変わりました。 「…渦巻いている…  頭のつむじ…」 佐藤が言うと、メリスンが頭を押さえつけました。 「確認できませんから…」とランスが苦笑いを浮かべて言うと、メリスンは罰が悪そうな顔をしてから、ランスに向かってお辞儀をしました。 ランスは一瞬のうちに探って、コロネルがその映像を出しました。 「…未知…  うーん、これは…」 ランスが言うとランスだけでなく俊介も困っているようですが笑みを浮かべています。 「大昔に接触した古い神も、  メリスンさんをかなり不思議に思ったんでしょうね。  よって、その神もメリスンさんの本来の姿を確認できていない。  この名前を残すことで、後世に伝えたかったのかもしれません。  ですので、メリスンさんも古い神の関係者ということになります。  メリルもごく自然に、メリスンさんを認めて、  ひとつの体を共有することに決めたんでしょうね。  ああ、メリルはこの事実は?」 俊介が言うとメリスンは悪魔メリルに変身しました。 「いえ、まったく気づいていませんでした。  あ、この体には」 メリルが言うと、ランスは頭を含めて探ると、「あー、手のひら」と言ってメリルは今更ながらに驚いています。 「…セントレイア…」とメリルはやさしい笑みを浮かべて、手のひらを握り締めて胸に当てました。 「同じ体だけど、変身すると別人だという証明ができたということだね」 俊介が優しい笑みを浮かべて言うと、メリルははにかんだ笑みで俊介を見ました。 「だけど、サンサンちゃんは気づかなかったの?」と俊介が聞くと、「よく似てるって思って…」とサンサンはバツが悪そうな顔をして言いました。 「いいや、確信ではなく憶測でしかなかったからね。  それでいいんだよ」 俊介は優しい笑みをサンサンに向けました。 「その証拠は、サンサンが困った時は、メリスンさんにだけは  真実を話すことにしていますから」 ランスが言うと、俊介は深い笑みをサンサンに向けました。 「それでいいと僕も思うんだ」 俊介は深い笑みをサンサンとメリルに向けています。 「ああ、だけど…」とメリルは一番杞憂に思っていることを思い出しました。 今はチェニーと遊んでいる魔王のことです。 「彼はまた特別だよね…」と俊介は苦笑いを浮かべて言いました。 「だけど、古い神の一族に  まったく関係していないことが逆におかしいんだよ」 俊介が言うと、誰もが納得して感慨深くうなづいています。 「古い神の一族以外だと…」と俊介は言って、この幼稚園の窓から見えるエラルレラ山を見ています。 「間接的に関係あり?」と俊介は言って少しだけ笑いました。 「…悪の…」とサンドルフが言うと、俊介は素早くうなづきました。 そして俊介の緑の妖精が、ある映像を流し始めました。 「うっ! これって…」とサンドルフはうなり声を上げました。 映像には少し若い覇王と、どう見ても黒いダイゾが相対しています。 「メリルの願いは、暗黒宇宙まで達して、  悪がせっせととんでもない魂を造り上げたような気がするんだよ。  この悪魔のダイゾも、悪の作品だ」 そして映像は流れて行き、あっけなく結論が出て、サンドルフをかなり中途半端な感情にしてしまいました。 「自分の力を過信しすぎ。  どれほど強くても、何も考えずに行動すれば、簡単にこうなっちゃう」 サンドルフが言うと、俊介は笑顔でうなづいています。 「…反射の、結界…」とサンサンがつぶやきました。 「父上はたいそう悔やんでおられた。  反射の結界にするんじゃなかったと言ってね。  まさかまったく気づかないなんて思いもよらなかったようなんだよ。  それほどにおろかな存在だったということなんだ。  …あー、まさかだけど…」 俊介は言ってから、魔王に素早く駆け寄って、魂を探るとはっきりと言いました。 魔王は腰が引けていて、何度も何度もうなづいています。 「あー、まさか、だけど…」とサンドルフは言って、今は石化した状態で停止している映像を見ています。 「あ、でも、石化したら魂も…」とサンサンはかなり辛そうにして言いました。 するとデヴィラが、「この先、流してちょうだい」と緑の妖精に言いました。 少し流れたところで、「止めて」とデヴィラが言いました。 「あっ!」とサンサンが何かを発見したようで、少し喜んでいます。 「魂だけは石化を免れたようだね」とサンドルフは笑みを浮かべて言いました。 「父上がそれだけはと思って、魂が石化する前に術を放ったの」 デヴィラが言うとサンサンは複雑な心境でしたが、最悪の事態だけは避けたかった覇王の心に感謝しています。 「はぁー、やっぱり、学長先生もすげぇー…」とサンドルフが言うと、デヴィラは満面の笑みでサンドルフを見ています。 俊介が戻ってきて、「悪魔のダイゾの魂が前世…」と苦笑いを浮かべて言いました。 「ランちゃんは知らなかったそうだから、  きっと気づかれないようにこの星に来たんじゃないかな?  用心深さは一級品だと思うね。  前世の体験がそうさせたんだろう」 俊介が言うと、誰もが深くうなづいています。 「じゃあ、まさか…  魔王が喜ぶことが起きる、かも…」 サンドルフはかなり微妙な顔をして言うと、俊介も同じような顔をしています。 「今は探れなかったけど、突然覚醒するかもしれないね。  だけど今のところは彼を戦いに出さない方がいいと思う。  あ、もちろん今はどう考えても10才程度だから、  まだ早いとは思うけど…」 俊介が言ってからサンドルフを見ています。 「僕、戦場に出ない方がいいのかなぁー…  ますます魔王の好奇心を増徴させちゃうし、  今の話も黙っていないできちんと話しをしなきゃいけない」 俊介は深くうなづきました。 悦子は、「別に言わなくても…」と言いましたが、「悟られちゃうの…」とサンサンが言うと、悦子は肩を落としました。 「魔王の親友に託すことにするよ。  さらに前世の情報も伝えておくべきだ。  どれほど強くても、  うかつなことをすれば簡単にこの世を去ってしまうという  戒めにもなるからね」 「はい、きっと魔王なら考え直すと思っています」 サンドルフが言うと、「あ、授業を受けた男悪魔の性格についても話したの」とサンサンが言うと、サンドルフも俊介もサンサンに笑みを向けました。 「それが一番いいアドバイスだと思うね」 俊介は言ってから、背伸びをしてサンサンの頭をなでています。 男悪魔は常にクールです。 さらには余計な事はしないのです。 ですが、心の中では炎が燃えているのです。 まさに魔王の父、ガロンがいいお手本なのです。 ガロンを探ってまさに典型的な男悪魔だと知ったサンサンは、ランスに願い出て、ガロンを玉座から降りてもらうことを進言していたのです。 よって今、セイラたちが貴族たちの教育と、今後の地盤固めに勤しんでいるのです。 そのガロンが、まだ陽も高い真昼間にメリスンの店を訪れました。 妻であるメリスンが見当たらないので、ガロンは三井悦子から聞き出して、幼稚園に向かいました。 この町に帰ってきていなかったわけではないのですが、毎日毎日夜遅く帰ってくるので、客の半数はガロンを見て怪訝そうな顔をしています。 そして知り合いからガロン王だと聞いて、あっけに取られています。 ガロン王は朗らかです。 出会う人すべてに愛想よくあいさつをします。 ですが悪魔が沸く前は、ただのスケベ親父でした。 そして、何事にも本気にならなかったのです。 それが悪魔が沸いて一変したのです。 さらにはメリスンがひと目見て恋に落ちてしまったのです。 もちろんメリルもメリスンに同意しました。 メリスンもメリルも、夫とのふれあいが少なくなったので、少々浮気に走ろうなどと考ええいたようで、覇王やランスに色目を使うこともしばしばありました。 ですが今、幼稚園に足を踏み入れたガロンを見て、「あら?」とメリスンは言ってから満面の笑みを浮かべました。 そして母の様子から察した魔王が、チェニーを抱いて素早くガロンに走り寄りました。 「父上、おかえりなさいっ!!」と魔王がいうと、『別人だなっ!!』とサンドルフがサンサンに念話を送りました。 『もう、ダメよぉー…』とサンサンは一応戒めの言葉を言いましたが、気持ちはサンドルフと同じようです。 『セイラさんたちへの王の引継ぎが終ったんだね』とサンドルフが言いました。 『じゃあ、今日からは…』とサンサンがいうと、『魔王の父として、魔王を鍛えて欲しいなぁーって思う』とサンドルフは答えました。 今の魔王があまりにも三才児なので、サンドルフは我慢しきれすに、部屋の隅に行って、大声で笑い始めました。 … … … … … 「どーしてこっちに来たんだよ…」とサンドルフは魔王にクレームをつけました。 サンドルフと魔王は、ランスがサンダイスとなずけた星にいます。 チェニーは連れてきていないので、ガロンに甘えているようだとサンドルフは察しています。 「居場所がねえだろうがぁー…」と魔王は言って畏れを流しながらも少しホホを赤らめています。 10才程度だと、魔王の場合は多少の気づかいはできるようになっているようです。 「チェニーちゃんは…  ああ、寝るの早いからね」 サンドルフがいうと、「そういうこと」と魔王は答えました。 「それにだ」と魔王がいうとサンドルフはすぐに、昼間に俊介たちと話していたことを全て魔王に話しました。 魔王はとんでもない話の内容に、「…聞くんじゃなかった…」と言って後悔しています。 サンドルフは少しだけ笑いました。 許容範囲だったようで、魔王が怒り出すことはありません。 「少々特殊だけどね。  ある意味、古い神の一族…」 「普通じゃなさ過ぎるだろうがぁー…」と魔王は言いましたが、特に問題はないようで、妙に丁寧にサンドルフにお礼を言っています。 魔王は悪魔のダイゾに関しては映像を見て知っていたようです。 バカなやつだと魔王は思っていたようですが、まさか魔王の前世だとは思いも寄らなかったようで、複雑な心境のようです。 「俺も、ダイゾとか…」と魔王は少しうれしそうに言いました。 「あると思うんだけどね、それが一番注意しなくちゃいけないことだよ」 サンドルフがいうと魔王は顔を引き締めました。 「あ、これ読める?」とサンドルフは言って、サンドルフの右足の親指と人差し指の間にあった紋様を書いたスケッチブックを魔王に差し出しました。 「…カミサン語…」と魔王は言って、苦笑いを浮かべています。 「…ん?」と魔王は言って、サンドルフを静止するように右の手のひらをサンドルフに向けました。 「ん?」と今度はサンドルフが言って、魔王の手のひらにある紋様を描き移しました。 通常はほくろのような小さなものなのですが、魔王の場合、手のひら中にその印があったので、サンドルフは大笑いしそうになりましたがここは堪えました。 魔王はまだ考えています。 やはり、古い神の一族の関係者ではあるので、おぼろげながらにも頭に何かが浮かんでいるんだとサンドルフは考えたようです。 ですが、悪は本体から放れてしまっているので思い出すには時間がかかるのだろうとサンドルフは察しました。 「…思い出しそうなんだが…」と魔王が言うとサンドルフは今書き写した紋様を見せました。 「これが魔王君の名前だね」とサンドルフがいうと、「なにっ?!」と言って魔王はスケッチブックを食い入るようにして見ています。 「見覚えが…」と魔王は言って、自分の右手の手のひらを見ました。 「俺の、名前だった…」と言って魔王はにやりと笑いました。 「僕が読めたからね、間違いないよ」とサンドルフが言うと、「今はこれだけで満足だ」と魔王は言ってまたサンドルフに丁寧に礼を言いました。 「ということで、魔王はサンサンと同じで、  古い神の一族じゃなくて、新しい神の一族、  と言っていいと思うね。  あ、青空ちゃんもそうだよ」 サンドルフが言うと、「まあ、生まれたばかりのようなもんだからな」と魔王はにやりと笑いました。 「なんでえ、ふたりとも」とランスが言って部屋の隅にいたサンドルフと魔王に声をかけました。 そしてランスは、「あ、それ見せてくんね?」とサンドルフに笑顔を向けて言いました。 サンドルフはすぐに、ランスにスケッチブックを手渡しました。 ランスは二枚の印を見て、笑顔でうなづいています。 「あ、コメントは控えさせてもらう。  魔王はどこにあったんだ?」 ランスが言うと魔王は笑顔で、そして自慢げに、ランスに右手の手のひらを見せました。 するとランスはかなり愉快だったようで、「魔王らしいぜっ!!」と言って大声で笑い始めました。 「まさに堂々としている。  この存在感がまさに魔王だ。  俺の印もみんなと同じでほくろのようなものだからなぁー…  やっぱ、小者なのかなぁー…」 ランスが言うと魔王は即座に、「そんなことはねえっ!!」と真剣な顔をランスに向けて言いました。 この魔王の勢いに、ランスの子供たちがかなり驚いて、健やかな眠りに誘われてしまいました。 「…あ、ごめんなさい…」と魔王はランスに頭を下げました。 「いや、今のは俺が悪りいからいい」とランスは言って、魔王の頭をなでました。 「しかし、うめえもんだなぁー…」とランスは言って、スケッチブックを見ています。 ランスも絵はうまいのですが、この二枚の印には感情も乗っていることに気づいたのです。 ランスの隣にいたサンサンもスケッチブックを覗き込んでいます。 「…えー…」とサンサンは言って、少し困ってしまったようです。 「私も、描いていい?」とサンサンは言ってサンドルフに視線を移しました。 「う、うん、いいけど…」とサンドルフは言って、サンサンに鉛筆を渡しました。 今のサンサンの感情が、サンドルフには理解できなかったのです。 それは初めての体験で、サンサンがサンドルフにライバル心を抱いた感情だったからです。 「おいおい、それで描いたのかよ…」とランスは言ってかなり驚いています。 「…私、描かない方がいいかも…」とサンサンは言って、ごく普通の鉛筆を見ています。 「うますぎるにもほどがあるよなっ!!」とランスは言って慰めるようにサンサンの肩を叩いています。 「何事も修行だぞ、サンサン」とランスが言うと、「はいぃー…」と言ってサンサンは自分の紋様を描き始めました。 サンサンの造り出す作品はかわいらしくそして芸術品です。 ですが、絵はうまいのですが仕上がりはごく普通です。 普通と言ってもうまいことには変わりなく、色つけなどをすれば見ほれてしまうほどの作品になるはずです。 ですが、サンドルフの描いたものはもうすでに芸術作品のようです。 「ああ、サンドルフ君も素晴らしい…」と言って佐藤が涙を流しながらスケッチブックを見ています。 「ああ、申し訳ないのですが…」と佐藤が言うと、「あ、はい、すぐに」とサンドルフは言ってサンサンから鉛筆をもらって佐藤の印であるセントの紋様を描きました。 佐藤は大満足して、「強くなったぁ―――っ!!」と大声で叫びました。 何事かと思った悦子たちもランスに寄り添ってきました。 「…うっわぁー…」と言って悦子は驚きの顔をスケッチブックに向けています。 「サンサンちゃんもだけど、サンドルフ君も上手だわ」と保奈美が言うとふたりは照れてしまいました。 「私の…」と悦子がいいかけたところで、サンドルフはすぐに悦子の紋様のデヴォラを描きました。 悦子は心の底から、「おおおー、ありがとう…」と威厳をもった声を出し、「本当にすごいわぁー…」と言って今まで通りの口調に戻りました。 「今一瞬出たのが、真実のエッちゃんなんだぜ」とランスが言うと、サンドルフもサンサンも理解できたようで、苦笑いをランスに向けています。 「本物が出てきたということは、本当に感動したと言っていいな。  口先だけじゃねえという証拠」 ランスのかなりわかりやすい解説に、ふたりはさらに納得したようです。 「ああ、サンドルフくぅーん…」と甘えるような声で悦子が言うと、サンドルフはまた描き始めました。 「えっ? えっ?」と悦子は言って途惑っています。 ですがサンドルフは悦子の想いを正確に受け止めていて、結城覇王の紋様のセイントを描きました。 やはりセイントの紋様だけは特殊で、誰よりも威厳があると感じます。 その紋様はまさに龍。 古い神の長兄にふさわしいと、誰もが思うことでしょう。 「この才能は見出せなかったなぁー…」と佐藤は言って懐かしそうな顔をスケッチブックに向けています。 セントの紋様も龍なのですが、セイントと比べると少しやさしさがあるように思えます。 「この紋様の通りになってくれたらなぁー…」とランスはサンドルフが描いた紋様を見てつぶやきました。 悦子は気に入らないようですが、佐藤は笑顔でうなづいています。 「…ああ、決心がついたようですね」と佐藤が言うと、とんでもない気が、この家を覆い尽くしました。 「うわぁー、怒ってるとしか思えねえっ!!」とランスが言って、大声で笑い出しました。 サンサンがおびえ始めたので、サンドルフはサンサンの手を取りました。 サンサンはいいようのない怯えから脱出できたようで、サンドルフに笑みを向けています。 「頼りないやつですまなかった」と覇王が家に入ってきてすぐに言いました。 そしてサンドルフが描いた紋様を見て、『ハァ!!』と人ならざる声で叫んで、光の鎧をまといました。 「俺は今、生まれ変わったっ!!」と覇王が言うと、神の関係者は一斉に覇王に向けて頭を下げました。 「あ、すまんな、調子に乗った」と覇王は言ってから、人間の姿に戻りました。 しかし覇王は今までの覇王ではありませんでした。 覇王は覇王らしく、自分の進む道を切り替えたのです。 今は優柔不断で行き過ぎたやさしさを持つ覇王はいなくなっています。 『うわぁー、さらに怖ええ…』と魔王はサンドルフに念話を送ってきました。 「魔王、念話はダメだよ」とサンドルフが言うと、覇王は魔王をにらみつけました。 「サンドルフの言った通りだ」と覇王はごく普通に言いましたが、魔王は罰を受けたかのように怯え始めました。 何が無性にこれほど怖いのか。 それはただただ後ろめたさだとサンドルフは感じています。 よって、覇王に後ろめたさを持っている者は全て今の覇王が怖いのです。 逆に覇王を怖がっていないのは、ランス、佐藤、サンドルフだけです。 ランスは様々な苦言苦情を覇王に言いたかったようですが、全てが解決して今は笑みを浮かべています。 「それほどまでしてここに来たかったのですか?」とランスが言うと、覇王は無言でうなづきました。 「どうか寝る場所はほかで」とランスが言うと、悦子が猛然たる勢いでうなづいています。 兄を慕う悦子ですが、今の覇王はあまり歓迎されていないようです。 「迷惑か?」「はい、大いに」と覇王の言葉にランスはすぐに答えましたが覇王は、―― 仕方ない… ―― と思ったようで寝床は別の場所にすることにしたようです。 「この星は俺が主で俺の城ですので」とランスが言うと、「わかった」とだけ覇王は言いましたが、かなり気に入らないようで今にも怒り出しそうな顔をしています。 「悦子はここがいいのかっ!!」と覇王が怒ったように言うと、悦子は涙声で、「…ここ、安心だから…」と声を振り絞るように言ってから、ワンワンと泣き始めました。 「…うっ… なぜか泣かせてしまった…」と覇王は自分の心を探って少しだけ後悔したようです。 「全ては後ろめたさからですから。  結城さんのせいじゃありません」 ランスが平然として言うと、「くそ… ランスとサンドルフ…」と覇王は言って少し悔しがっています。 サンサンはサンドルフがそばにいることで怖くないだけです。 佐藤は元々覇王が何をしようとも恐怖心は抱きません。 むしろ今の覇王を歓迎しているようです。 サンドルフは誰に対しても何に対しても何一つ後ろめたさがないので平然としているのです。 「今日は地球で寝るっ!!」と覇王は言って勢いよく立ち上がり、ランスの家を出て行きました。 ランスは覇王を見送って、ほっと胸をなでおろしています。 「極端だなっ!!」とランスは言って、少し笑いました。 「おまえ、あまり人のことは言えないぞ…」とマキシミリアンに言われたランスは始めて自分自身の行為行動を振り返って、「…その通りだった…」と言って反省を始めました。 「反面教師、ということで…」とランスは言ってから、まだ怯えている子供たちを抱きしめに回りました。 … … … … … このサンダイス星には雌雄ふたつの巨木になるツタを植えました。 重力は厳しいのですが、このふたつの巨木によって、酸素量も上がり空気もきれいなので、重力の負荷をそれほど感じさせません。 そしてこの巨木には妖精というよりも、植物の生命体が住んでいます。 現実世界では実態を現せませんが、夢の中だとその実体があらわになります。 サンドルフがそうだったように。 「まさか動けるとはなっ!  ランス、礼を言うぞっ!  …あー…  ランスさん、ありがとうございましたっ!!」 雄の巨木はランスが怖いわけではありません。 パートナーの雌の巨木に、「乱暴なので嫌い」とファーストコンタクトで言われてしまったので、話し方を変えたのです。 「喜んでもらえて何よりだよ。  悪いんけど、子供たちを守って欲しいんだ」 ランスの夢見には、この星に住む全員が来ました。 さすがに子供たちに戦わせるわけには行かないのです。 「ああ、わかった!  あ、はい、わかりました、ランスさん」 雄の巨木は巨大な腕を広げて、子供たちを包み込みました。 子供たちは安心したのか、その太い腕にぶら下がってランスたちを応援します。 雌の巨木は少し笑ってから、女の子を担当することにしたようです。 … … … … … 「…驚いちゃったよ…」とサンドルフが言いました。 魔王もサンサンもサンドルフの言葉に大きくうなづいています。 「仕事の内容よりも、巨木に驚いちまった…」と魔王が言ってさすがに平常心ではいられなかったようです。 そのふたりの巨木は、今は何も言わずに、サンドルフたちを見下ろしているだけです。 すると、サンドルフが数回あったことのある、ルミという悪魔が黒い扉をくぐってサンダイス星にやってきました。 今回も、ナースという影と仲良く手をつないで、ランスに家にまっすぐに歩いてきます。 ルミもランスを虎視眈々と狙うひとりなのですが、今のところは遠くからランスを見ることにしているようです。 このルミは、御座成功太とデヴィラの願いの子です。 「なんでえ、許可されたんだな…」とランスがつまらなさそうな顔をルミに向けました。 「お邪魔します!」とルミはランスの言葉を無視してあいさつだけしました。 「今日は組み手はやんねえぞ」とランスが言うとルミは、「本当にあいさつだけなので」とルミは言って、ナースとともにメリスンが手ぐすね引いて待っている食堂に行きました。 メリスンが大歓迎しているので、ルミがランスの邪魔をしようなどとは思っていないと、サンドルフは察しました。 「…あー…」とサンサンがため息を吐き出すように言葉を発しました。 「面倒ごと?」とサンドルフが言うと、サンサンは理解できないといった表情をサンドルフに向けています。 「ということは、構えておいた方がよさそうだ」 サンドルフが言うと、サンサンもその意見に賛成しています。 「でもね、ナースちゃんが簡単に止めると思うの。  ヒューマノイドなのに…」 「優秀な人についたヒューマノイドはかなり優秀になるようだね」 サンドルフが言うと、サンサンは笑みを見せて、やさしかったヒューマノイドを思い出しました。 一閃の光が、黒い扉から飛び出してきました。 「サンドルフ君、おはよ―――っ!」とカレンが100メートルほど先にいるサンドルフに向けて手を振りながらあいさつをしました。 そしてメリスンにはかなり丁寧にあいさつをしています。 「強引に来ちゃダメだよっ!」とサンドルフが叫ぶとカレンは舌を出しておどけています。 その様子を見ていたルミが、一気にカレンの目の前に立ちましたが、もうすでにカレンはサンドルフの5メートル手前にいました。 「やっぱ、異常な早さだね」とサンドルフは言って苦笑いを浮かべています。 「ある意味最強だと思う。  一度、組み手をして欲しいね」 サンドルフが言うとカレンは、「それはいつっ? いつなのっ?」と悦子のように言いました。 「やっぱ、なんだかカレンがめんどくさいからいい…」とサンドルフが言うと、―― エッちゃん先生のマネをしちゃダメッ!! ―― とカレンは心に決めました。 「いつだったらいいのかなぁー…」とカレンは今度はさもけだるそうに言いました。 「なになに? モノマネ大会?」と言ってサンドルフは笑いました。 ―― ああ、笑顔がステキ… ―― とカレンは本懐は遂げたと思い、いつものカレンに戻りました。 サンサンはカレンの行動の意味がわかったので、何かしないといけないと思ったのかあたふたと始めました。 「何やってんの…」とサンドルフに言われてサンサンは少し反省しました。 ―― 私は私っ!! ―― とサンサンは平常心を保つことに決めました。 「…おまえ…」と言ってランスのホホが引きつっています。 その視線の先には当然カレンがいます。 「お邪魔してますっ!!」とカレンはかなり緊張した顔でランスに丁寧に頭を下げています。 「…ま、いっか…」とランスは言って諦めたようです。 もちろん、何をしてもいいわけではありませんが、サンドルフのためになるかもしれないと思っただけです。 もちろん、サンサンの修行にも大いに役立つと思っています。 さらには、カレン自身の修行にもなることなのです。 「…あの子、妖精?」とルミがランスを見て言いました。 「光の妖精」とランスが言うと、ルミは驚きの表情を見せましたがすぐに納得しました。 「弱点は闇…」とルミは言って何かをしようとしましたがすぐに、「ダメだよぉー…」とナースがかなり困った顔をしてルミに言いました。 「うっ! うん… ごめんなさい…」とルミはナースに丁寧に謝りました。 「闇が弱点だと思うか?  俺は違うと思うぜ」 ランスが言うとルミは、「えっ?」と言ってから考え始めました。 「光を動けねえようにするには光しかねえんだよ。  だから、カレンに弱点はほぼねえ」 ランスが言うと、「ほぼ?」とルミが言いました。 「そのうち試そうと思ってるんだ」とランスが言ってから、メリスンに丁寧に朝のあいさつをしてから食事の注文を始めました。 「…光が弱点…  光の、鎧…」 ルミが言うと、ナースは笑顔でルミを見ています。 「…私、色つきだからなぁー…」とルミが言うと、「キレイにしないとねっ!」とナースが言って、おいしそうに朝食を食べ始めました。 ルミも古い神の一族で、ゼンドラドと同じく覇王から見るとひ孫に当たります。 ルミは今世の姉のイヴィラのために、900年ほどその体をイヴィラと同化していました。 さらにはルミの記憶を、大勢のルミを知る者の記憶から消し去っていたのです。 それは不憫な姉のために、心行くまでルミの強さを体験して欲しかったからです。 そのイヴィラは全てに満足して、元いた場所の功太の魂に戻りました。 一件、ルミはやさしいように思いますが、それはイヴィラが家族だったからです。 不憫な姉を思う気持ちは誰にでもあることでしょう。 イヴィラの想いを遂げた後のルミは大いに本来のルミの力を発揮しました。 しかし母であるデヴィラは何も言いません。 「まさに真の悪魔だ」と言ってわが娘をほめていただけです。 しかしランスに出会ってからは、―― これではいけない… ―― と思い、ランスと話しをして、ヒューマノイドのナースと出会いました。 ナースはしてはいけないことをきちんとルミに言います。 ルミは素直にナースの言いつけを守ることで、ようやくランスに近づくことに成功しました。 その時ルミは、しばらく前の横暴なルミではありませんでした。 ルミも今の方がいいと思い、毎日を楽しく、そして厳しい訓練を課して生活しているのです。 「ま、がんばんな」とランスは言って、大量の食事との格闘を開始しました。 ルミも食事を始めたのですが、サンドルフにも興味が沸き始めました。 「それはダメ」とナースが言うと、「はい、ごめんなさい…」とルミは素直に謝ってから、恋愛感情を抜いた興味をサンドルフに向けました。 ナースは笑顔でルミを見ています。 そして、「なにっ?!」と言って、ルミは勢いよく立ち上がりました。 「お行儀、悪いわよ…」「ダメだって…」とメリスンとナースに同時にダメ出しをされたルミはふたりに丁重に謝って椅子に座りました。 「佐藤さんの子供だからねぇー  強くて当たり前」 ナースが言うと、ルミはかなり悔しがっています。 ルミも古い神の一族の一員ですが、父も母もそれほど優秀であったわけではないのです。 やはり覇王や佐藤の子となると目の色を変えても仕方のないことです。 さらにはカレンはかなり優秀な術師の父から生まれた妖精。 そしてサンサンは、魂を持たずに生まれ、自分自身で魂を創り上げた逸材。 サンドルフにこの二人が寄り添うことは当然だと、ルミは思いました。 「子供が優秀とは限んないもん」とナースが言うと、その件に関してはルミも賛同しました。 「親よりも大成した子供っているの?」とルミが聞くと、「大山勇気さんっ!!」と誰もが知る術師の名をナースは大声で言いました。 「ううっ! そうだったんだっ!!」とルミはまた大声で叫んでしまったので、周りにいる人たちに丁寧に謝っています。 「あの勇気も…」と言ってルミは希望を持ってほくそ笑みました。 「それにね、覇王様のひ孫だし…」とナースはさらに朗報を告げました。 「ゼンドラド様もっ!!」とルミが叫ぶと、「そろそろ消えるかもしれねえなぁー…」とランスが苦笑いを浮かべて言いました。 ルミはかなり丁寧に謝って、そして少し泣いてしまいました。 本心から申し訳なかったという反省の涙なので、ランスは何も言いませんでした。 「ああ、そうだサンサン」とランスが言うと、サンサンは食事を中断して、満面の笑みをランスに向けました。 「名前なんだけどな、  さすがに大きくなっていってサンサンはないだろうと思って、  別の名前も考えてあるんだけど」 ランスが言うと、サンサンはあることを思い出しました。 「あー、今はサンサンでって…」とサンサンが言うと、「よく覚えてたなっ!」とランスは言ってサンサンをほめちぎりました。 「今すぐじゃなくていい。  年相応の12才の体を得た時にでも言ってもいいかい?」 ランスが愛娘にやさしい言葉で言うと、サンサンは感動したようで少し涙目になりました。 そして、「はいっ! 本当にありがとう、お父さん…」と言ってからサンサンは堰を切ったように涙を流し始めました。 サンサンはランスに産んでもらってよかったと、今日ほど思ったことはありません。 サンドルフもその気持ちはサンサンと同じです。 さらにカレンまでもがもらい泣きして、「よかったね、よかったね」と言っています。 「愛されてるって、本当にステキだわぁー…」とけだるい声で悪魔のイザーニャが言いました。 イザーニャはランス経由で悦子から罰を受けて、天使に戻れなくされてしまったのです。 その原因は、ランスが天使の夢見で天使たちに配った着せ替え人形をインターネットに流して転売しようとしたからです。 実行犯はこの悪魔イザーニャですが、主犯は天使イザーニャなので、罪の重い方を封印したのです。 ですが、なぜだかランスが悪魔イザーニャに興味を示したのです。 魔王はすでに、イザーニャがダイゾを飼っていることを知っていますが、ランスはまだ知りません。 さらにはランスにも奇跡が起こっていたことを、魔王は知りませんでした。 当然、デヴィラも蓮迦も面白くありません。 さらには悪魔イザーニャはドズ星の50人の子供たちに大人気なのです。 悪魔イザーニャは子供よりも子供だったのです。 ですが面倒見がいいので、子供たちにとってお母さん、またはお姉さんという意識があるようです。 デヴィラも蓮迦もこれには参ってしまって、ランスと悪魔イザーニャの邪魔だけはしないようにと心がけています。 それは当然のことで、ランスの怒りに触れると、もう二度と振り返ってもらえなくなることを知っているからです。 続々と魔王軍の正規メンバーがサンダイス星にやってきました。 そしてランスは一同に笑みを向けてから、なんとダイゾに変身したのです。 ランスはセイランダの純粋な願いにより、サンライズたち妖精が無意識の奇跡を起こしたのです。 ランスはセイランダの正式な兄としても変身できるようになっていたのです。 ダイゾは、爪鳴りや牙鳴り、角鳴りの音を響かせました。 その音は容赦なく周りの人たちの心と体を襲います。 これには溜まらず、ほとんどの人が白目をむいて倒れてしまいました。 この音はダイゾにとって戦いののろし。 ダイゾの最強の武器だといっても過言ではありません。 さらには何度この音を聞いても慣れはほとんどうまれないのです。 かなり上位の能力者のみ、何とか正気でいられるのです。 サンドルフはかなり朦朧としていて、かろうじて起きていました。 そして倒れた体を起こそうと必死です。 「サンドルフ君、がんばってっ!!」 何のダメージもなかったサンサンが大声で応援しています。 変身を解いたランスは、「サンサン、やっぱすげえなっ!!」と大声で言って大笑いを始めました。 「だって、お父さんだもんっ!!」とサンサンは当然のように言いました。 その間に、サンドルフは何とか立ち上がりました。 そしてさらに驚愕の事実を知りました。 「あー、覚醒…」とおぼつかない足取りでサンドルフは、寝転んでいる悪魔イザーニャだったダイゾに歩み寄って行きます。 「なにっ?!」とランスが叫ぶと、その声に反応したかのように、ゆっくりとダイゾが立ち上がりました。 そして、直立したままランスを見ています。 「命令しろって?」とランスが苦笑いを浮かべて言うと、サンサンもサンドルフも驚きの顔でふたりを見ています。 「だがな、本体が起きたらすぐに変われよ。  そのままダイゾになっちまうからなっ!」 ランスが言うと、『ギ、ギギ』とダイゾがうなりました。 どうやら了解したと言ったようです。 「さて…  勇気さんまで寝ちまったな…」 勇気は抵抗しようとしたのですが、パートナーの妖精のマグマが寝てしまっていたので、力を半分しか出せずに、起きていることを諦めたのです。 食堂の厨房にいたメリスンは何とか立ち上がってきました。 「ああメリスンさん、申し訳ない」とランスが真剣な眼差しで謝ると、「…かなりいい修行になったわ…」と言って苦笑いを浮かべました。 「今日は四人で行ってきますので。  それぞれ鍛錬しておくようにと伝えてやってください」 ランスが丁寧に言うと、「わかったわ、いってらっしゃい」とメリスンは完全に立ち直ってランスに言いました。 一日くらいならランスひとりでも、戦えないことはないのです。 ランスはただただ、それを試したかっただけなのです。 しかし帰ってきてから、―― マックスとセイル兄さんにどやされるかな ―― と思ったようです。 ランスたちは宇宙船に乗り込みました。 それと同時に、ダイゾは悪魔イザーニャに変身しました。 「マジ驚いたぜ」とランスが言うと、「私もぉー…」とイザーニャは他人事のように言いました。 「この先、イザーニャのことを詳しく知ることになるだろうな」とランスが言うと、悪魔イザーニャはホホを朱に染めました。 「…欲が… ぜんぜん違う…」とサンサンがつぶやきました。 ランスにも聞こえたようで、ランスは素早く探って、「ほんと、不思議だよなぁー…」と感慨深く言いました。 「イザーニャ先生って、悪魔の方が優秀だったんですね」とサンドルフはさも当然のように言いました。 「なんだ、知ってたのか?」とランスはサンドルフに批難する目を向けました。 「…はあ、魔王君情報です…」とサンドルフがいうと、ランスは大声で笑いました。 「友との話しを言いふらすわけにはいかねえし、  確証はなかったんだよな?」 ランスが言うと、「そのうち覚醒すると言ってましたが、まさか今日だとは知りませんでした…」とサンドルフが申し訳なさそうに言うと、「わかった」と言ってランスは笑みを浮かべました。 今回の旅は、何もかもほとんどランスが一手に引き受けて、面倒な時だけ嫌々ながらの悪魔イザーニャにダイゾに変身させました。 サンドルフとサンサンは簡単なことを手伝っただけです。 ランスたちはまったく疲れずにサンダイス星に戻ると、マキシミリアンたちはボロボロになっていました。 さらには、セイランダもタレントも修行に付き合わされたようで、今は笑顔で健やかな眠りについています。 「かなりハードに訓練したようだな」とランスが言うと、「当然だろうがぁー…」とマキシミリアンがあらん限りの畏れを流して言いました。 「ダメだな、もう限界だ」とランスが言うと、マキシミリアンはにやりと笑ってから、機能停止して直立したまま動かなくなりました。 「魂が眠っただけだ」とランスの影からコロネルが出てきて言いました。 「仕方ねえ…」とランスは言って、手分けして風呂に入れることにしました。 男女ふたりずついるので、それほど苦労はしません。 ですので、ランスたちも入浴を楽しむことにしました。 食事ができるほど回復した魔王軍の精鋭たちは、ランスに申し訳なさそうな顔を向けています。 「いい修行の機会を与えられたと思っておいていいぞ。  セイランダたちも遊んでもらえたようだし」 ランスは言ってから、満面の笑みのセイランダの頭をなでています。 「みんな、がんばったんだよっ!」とセイランダはさらに笑みを深めてランスに言いました。 「そうか、ほんとにありがとなっ!」とランスはセイランダを抱きしめました。 「お兄ちゃん?」「ああ、それでいいぞ」 セイランダの問いかけにランスは即答しました。 するとセイランダは肩を落として申し訳なさそうな顔をしてます。 「…妹なのに、寝ちゃってごめんなさい…」と言って少し涙ぐんでいます。 「だけど、もうわかったんだろ?」とランスが言うと、「うんっ!!」とはちきれんばかりの笑顔でセイランダは答えました。 「試してみるかっ!」とランスが言うと、戦士たちはすぐに身構えました。 ランスは苦笑いを浮かべて、「セイランダとふたりっきりの時にな」とランスがやさしく言うとそれでいいようで、セイランダはもりもりと食事を摂り始めました。 簡単には慣れないことをランスは知っているので、今は抑えただけです。 ですがこの先、きっと更なる試練を乗り越えなくてはならない時は、もう二度とランスは甘い顔を見せないことでしょう。 早百合、サヤカ、ダフィーがサンダイス星を訪れました。 当然ですが、セイラとカノンはここに来ることはできません。 早百合たちは貴族たちの教育、選定、解雇などが終了したこと報告に来たようです。 ランスは笑顔で、早百合たちに労いの言葉をかけました。 「明日からは早百合を隊長としてがんばって欲しい。  セイラとカノンは一旦解雇。  もし使えるようになればこの星に来ることになるだろう」 ランスが言うと早百合は当然のようにランスに頭を下げましたが、サヤカは困った顔をしています。 「サラ、カレン、そしてカナエを部下につけろ」 ランスが言うと、「私、隊長でいいの?」と気が引けたように早百合は言いました。 「説明、いるのか?」とランスが苦笑いを浮かべて言うと、「いえ、ごめんなさい」と早百合はすぐに謝りました。 力が強いだけの隊長では、誰もついてこないのです。 その力をうまく利用することが隊長の使命なのです。 「…ここにキャサリンが欲しいなぁー…」とランスがつぶやくと早百合もさすがに困った顔をしました。 「もう頃合だろうがぁー…」と食事をもりもりと食べている覇王がいいました。 覇王は日中と就寝以外はこの星で過ごすことに決めたようです。 「はあ、まあ、それはできるはずですけど…」とランスが言うと、「やれ」と覇王はかなり投げやりに言いました。 ランスは眼をつぶって願い事をしました。 間髪入れずにサンライズたちが光を発しました。 ランスは瞳を閉じたまま、「キャサリンッ!!」と叫ぶと、「お、おお…」と妙に中途半端な声が聞こえました。 ランスが眼を開けると、キャサリンは覇王のとなりにいました。 ランスがキャサリンを探ると、魂を持っていたのです。 ですがキャサリンはなぜこの場所にいるのかよくわかっていないようです。 「お父さん、すごいっ!!」とサンサンはもろ手を上げて喜んでいます。 「魂、定着させちゃったよ…」とサンドルフはかなりのあきれ顔で言いました。 魔王は何も言わずに誇らしげに胸を張ってランスに笑みを向けています。 「セイラさん、じゃなくて、キャサリンさんだけ?」とカレンが驚きの顔をキャサリンに向けています。 サラは同じ龍の仲間として、キャサリンに寄り添って喜んでいます。 「いつ見ても雄雄しくてカッコイイ…」とカナエはキャサリンにあこがれているようです。 「ほら、最強部隊の完成」とランスが少し笑いながら言うと、早百合は冷静になって、「何があったのか教えて」と言いました。 説明を聞いた早百合は、セイラのことが心配になりました。 案の定、セイラは慌てふためいて細田に連絡して真実を知ったようです。 そして、次々に力がなくなって行く自分自身を呪ったようです。 「セイラは孤独になるべきだ。  セイラがイルニー国の王になれば、  その孤独という修行にもなるはずだ」 「それは、その通りだけど…」と早百合は言いましたが、まだ戸惑いがあるようです。 「カノンは源次郎兄さんに託そうと思う。  世界の騎士団員として活躍して欲しいね」 ランスが言うと、サヤカはかなり気後れしたようです。 サヤカも世界の騎士団の一員ですので。 「…もしかして、私にも戻れって…」とサヤカが泣き出しそうな顔をして言うと、「平和の象徴は自由にしていいと思うぜ」とランスが言ったので、サヤカに対してランスは何の命令もないと思い、うれしく思ったようです。 「だが、必要になる場合もあると思うから、こっちだけにこだわるなよ」 ランスが言うと、サヤカはこの言葉を喜びました。 「セイラの場合、成長を誤った。  カノンも、伝説の勇者として生まれたことが不幸となっている。  だがカノンは、結城さんが正すだろうな。  セイラの説得役だけど…」 ランスが言うと、早百合は尻込みをしています。 ここは強い力でないと説得できないと感じたからです。 「あ、私…」と言ってルミが手を上げました。 「おおっ! やってくれるのかっ!!」とランスは大声で叫んで手放しで喜んでいます。 ―― うふふ、カッコイイ、私… ―― とルミが思ったとたんに、「ダメだよぉー…」とナースが困った顔をしてルミを見上げています。 「はい、ごめんなさい…」とルミは素直にナースに謝りました。 ルミはランス、覇王、そしてセイラが懇意にしていた住良木一輝の言葉という武器を持っています。 これさえあれば怖いものはないとルミは自信にあふれています。 ナースもルミに笑顔を向けています。 ルミたちは早速、黒い扉をくぐっていきました。 「これでしばらくは安泰だ…」とランスは言って、ほっと胸をなでおろしています。 「だけど、セイラの修行の成果次第では…」と早百合がランスを心配して言ったのですが、「もう俺には用はねえはずだ」と言って、魔王軍に所属が決まった住良木一輝をランスは見ています。 もちろん早百合たちも住良木とセイラのラブロマンスを知っているので、それが順当だと思ったようです。 「住良木さんって精神鍛錬量、とんでもないよね。  見習わないと…」 サンドルフが言うと、サンサンも同意しました。 「だが、能力者でも勇者でもねえぞ」と魔王は言ってから住良木を探って全てを知りました。 住良木一輝は、この宇宙でも、御座成功太の宇宙でもなく、また別の宇宙から修行としてやってきています。 先日まで源次郎に身を寄せていたのですが、ランスの部下になるために、堂々とした様相でランスに願い出てきたのです。 年齢はランスの父と言っていいほどで、40才を超えています。 しかし細田の診断により、肉体的にはまだピークを迎えていない、10代後半だと診断されている、かなり不思議な中年です。 住良木は元はフリーの戦争屋をして古い神の一員である、鵺森権兵衛にスカウトされて警備の仕事についていました。 よって戦いにはかなり慣れているのです。 「うっ! 違う?!」と魔王は叫ぶように自問自答しています。 「今は勇者じゃないけどね、  勇者にならないことを修行にしていたとんでもない人だよ」 サンドルフはかなりのあきれ顔を魔王に向けました。 「それは、普通、ありえねえ…」「普通じゃないから志願してまでここにいるんだよ」 サンサンはふたりのやり取りを楽しそうにして見ています。 「お師匠様、すごく喜んでたよ」とサンドルフもうれしそうな顔をして魔王に言いました。 サンサンもわがことのように喜んでいます。 「すっごく強いもんっ!!」とサンサンはついに言葉に出して喜びを表現しています。 「だけど、ダンさんの班なんだよねぇー…  何か理由があるって思うんだけど…」 ダン・センタルアはどちらかといえば星救済班で、戦場に出ても後方支援のみを担当します。 「…後方支援が狙い…」と魔王が言ってからにやりと笑いました。 「ああ、ハイビームはもうすでに実戦級だからね。  だけど、前に出ないって…  …ああ、わかったよ…」 サンドルフが言うと、サンサンも魔王もサンドルフを食いつくような目で見ました。 「前線の戦い方の観察。  これって、お師匠様の性格がよくわかるって思うんだよねぇー」 サンドルフが言うと魔王はうなづいています。 ですがサンサンは少し落ち着きを失くしています。 「実はね、お師匠様は前線に出たいって思っているんだよ。  でも、司令官にはそれは許されないことだ。  だから司令官を住良木さんに譲って、お師匠様は前線に出て戦う。  もちろん、戦いの主導権はお師匠様も持っているから、  とっさの判断はお師匠様なりの機転を利かせて  すり抜けるって思うんだ。  僕はお師匠様の性格は、司令官には向いていないって思ってるから。  だけど、住良木さんは違うと思う。  どちらかといえば住良木さんもお師匠様と同じだけど、  大人の分だけ司令官はできるって思う。  だけどね、できれば交代で、なんて思っているのかもね」 サンドルフが語るとサンサンは、「交代でいいと思うっ!!」と言ってサンドルフの意見に賛成しています。 「そうだな、そうしようか」とランスは言いました。 ランスはサンドルフの真後ろにいて苦笑いを浮かべています。 サンドルフとサンサンはすぐにランスに頭を下げて、バツが悪そうな顔をしています。 「その戦場にあわせて司令官を替えることもまた一興…  そうすれば、攻撃方法が変わって、バリエーションも増える。  俺は俺の戦法だけでなく、住良木さんの戦法も使う。  そうすれば、魔王軍の強さがうわさになった時、  魔王軍は大勢の兵士がいると勘違いしてくれそうだからな。  こういった心理戦も必要だと思うんだよ」 魔王軍は一万を越す宇宙で、長い長い年月をかけて戦います。 慢性化した戦いだと、パターンを読まれることもあると考えられるのです。 ですので、ランスはさらにもうひとり司令官にしようと虎視眈々と狙っているのです。 もちろんそれはサンドルフのことです。 ランスは食事が終えた子供たちを抱きしめに回りました。 サンドルフとサンサンも天使デッダに変身して、ランスの仲間入りをしました。 「サンドルフが一番司令官向きなんじゃあねえのか?」と魔王はにやりと笑ってつぶやきました。 … … … … … 翌日、ランスたちを見送ったサンドルフとサンサンは、このサンダイス星で早速武術訓練を開始しました。 「お師匠様に創ってもらった  叩いても蹴っても痛くないグローブとシューズだよ」 サンドルフはひとセットをサンサンに渡しました。 「えー、かるぅーい…」とサンサンは驚きの声を上げています。 「攻撃を仕掛けてもこの軽さと同じように手ごたえがないんだ。  この修行の趣旨は、武道の型の鍛錬とスタミナ作りだよ」 サンドルフが言うと、サンサンは真剣な顔をしてサンドルフに頭を下げました。 ふたりは早速グローブをつけ、シューズをはいて向き合いました。 ふたりの様子を無言で見ていたセイランダは遊んでもらえると思って期待していましたが、修行が始まってしまったのでタレントたちと遊ぶことにしたようです。 「ボクはふたりの修行を見ておくことにするよっ!」と利家が言いました。 利家も動物で、ミンククジラという生物です。 この利家が、動物を人間に変身させる能力を持っているのです。 利家はベティーBTと同じで動物ですが、世界の騎士団のメンバーです。 「あ、ボクも…」とタレントが、かなり罰が悪そうな顔をしてセイランダを見て言いました。 タレントはダイゾなのですが、セイランダの二足歩行型とは違い、海洋型生物です。 よって手足はなく胸ひれと尾ひれがあります。 タレントは自分自身の力が覚醒して、もう数十年前に人間の姿に変身できるようになったのです。 「もう… じゃ、私もっ!」とセイランダが言いました。 セイランダは覇王が願いの夢見で見つけて、連れ帰ってきてしまったのです。 そしてセイラにそっくりな理由があり、何世も前のセイラと接触して、『希望』という名をセイラからもらっていた、古い神の一族の仲間です。 三人はプールサイドに腰掛けて、観戦することになりました。 まず仕掛けたのはサンドルフです。 そうしないと、サンサンがいつまで経っても打ってこないと思ったからです。 サンドルフに容赦はありません。 素早い突きや蹴りが縦横無尽に飛んできます。 サンサンは少し驚きましたが、―― これが、武術的な修行… ―― と強く心に思って、作品を造り上げる気持ちと変わらず、かなり丁寧に手足を出していきます。 サンドルフは少し指導をしようかと思いましたが、様子を見ることにしたようです。 わずかながらですが、サンサンの動きが俊敏になっていきます。 サンサンは手を出すたびに、少しずつですが何もかも早くなるのではと、サンドルフは思い至りました。 10分後、サンサンはついに息が切れてきました。 しかし手足や移動スピードは始めの数十倍に達していて、サンドルフにとってもいい修行になったようです。 サンサンはぺたんと地面に腰を落としました。 「…体、重い…」と言いましたが、寝転ぶほどのものではないようです。 「今更?!」とサンドルフは言って大声で笑い始めました。 サンサンは上目使いでサンドルフをにらんでいます。 「だけど、その体重を生かした攻撃になってたよ。  きっと、お師匠様もすっごく喜んでくれると思うね」 サンドルフが言うと、サンサンは不機嫌そうな顔はやめて笑顔に変わりました。 「それにね、冗談で言うわけじゃないよ」とサンドルフが言って、真剣な眼差しをサンサンに向けました。 サンサンは、―― まさか… まさか愛の告白っ?! ―― とかなり余計なことを考えていますが、サンドルフはまったく違うことを言おうとしています。 サンドルフはサンサンの感情を簡単に読み取って、「修行中に妙なこと言ったりしないから…」とかなりあきれた顔をされて言われて、「はい、ごめんなさい…」とサンサンは素直に謝りました。 「サンサンは、すぐにでも僕を超えると思う。  ほんの数日で、お師匠様の域まで達するかもしれないね」 サンドルフは変わらす真剣な顔をしています。 サンサンは今の組み手のことだけを考えて、「そうかもしれないけど…」と答えました。 「サンサンはね、順応性が高いことが、神としての能力かもしれない。  もし今日、お師匠様に余裕があったら、  組み手をお願いしていいと思う。  僕なんかよりも、  お師匠様の方がさらにサンサンにとって  いい道を示してくださるって思うから」 「いや、間違っていないぞ、サンドルフッ!!」と重厚な声がサンドルフの背後から聞こえました。 「ゼンドラド師匠っ!!」とサンドルフは言ってすぐにゼンドラドに頭を下げました。 サンサンもすぐに立ち上がって、ゼンドラドにかわいらしくお辞儀をしています。 「あ、休憩中申し訳ない…」とゼンドラドが言葉通りに申し訳なさそうな顔をして言ってから、ふたりに座るように言いました。 そのゼンドラドもふかふかの芝生に座りました。 「ランスは迷うかもしれないなぁー…」とゼンドラドは感慨深くいいました。 サンドルフもサンサンも、ゼンドラドの教えを聞き逃さないようにじっとゼンドラドを見ています。 「今すぐにでも、ふたりを戦場に連れて行きたいところだろう。  だが、まだまだ全ての修行というものの経験不足だ。  誰よりも強いふたりは即戦力だが、修行をして、  そして強い者弱い者を見極めてからでも遅くはないと思うんだ。  あ、だがこれは、ランスの考え一つにかかっているからな。  これはただのワシの意見だ。  …ランスだったら、そうだなぁー…」 ゼンドラドは空を見上げました。 すると怪鳥が囲いの町の上空を旋回していました。 どうやらゼンドラドが怖いようで降りてこられないようです。 「戦場には連れて行くが、それほど使わない。  戦いは常に後方支援。  主に星救済の任務につける。  まさにダンが喜ぶポジションを与えると思う。  だがそれは一時的なものだろうな。  特にサンドルフは、ランスと住良木さんをよく見ておくことだ。  ランスはサンドルフも司令官として  育てようと思っているはずだからな」 ゼンドラドが言うとサンドルフは驚きを隠せませんでしたが、サンサンは違いました。 「魔王君、そんなこと言ってたよ?」とサンサンが言うと、「えー… 僕は聞いてないのに…」とサンドルフは答えました。 「あのぉー… 地獄耳っていうやつ…  魔王君、つぶやいていたからつい…」 サンサンが言うと、ゼンドラドはすぐにサンサンを探りました。 「サンサンは面白い。  勇者ではないのに、勇者の術をたくさん持ってるなっ!!」 ゼンドラドは上機嫌で笑いました。 「しかも、このパターンは伝説の勇者だがそれとも違う。  ああ、そうだ。  食事のあとは、  サンサンが今持っている術の確認をしておいた方がいいぞ」 ゼンドラドが言うとサンサンはすぐに、「はいっ! お師匠様っ!!」と元気よく答えました。 ゼンドラドはわが子に接するように、サンサンの頭をなでました。 「ワシだったらふたりとももう免許皆伝にするなっ!!」とゼンドラドは言ってから、ゆっくりと立ち上がりました。 「あの鳥が降りてこられないようだから帰るよ」とゼンドラドは苦笑いを浮かべて言いました。 「はいっ! ありがとうございましたっ!!」とサンドルフが大声で言うと、サンサンもあわてたようにして大声で言いました。 ゼンドラドは何度も何度も笑顔でうなづいて、ゆっくりと黒い扉に向かって歩いていきました。 すると、かなり慌てた様子で怪鳥が地上に降りてきました。 そしてきょろきょろと辺りを見回しています。 「おまえの主人はまだ来ないよ」とサンドルフが言うと、怪鳥はしょんぼりとして、首を地面の近くまでもたげて残念がっています。 「ほら、暇な人たちがあそこにいるから遊んでもらえよ」 サンドルフがセイランダたちに指を差すと、なぜだかサンサンの影に隠れました。 「それ、隠れてないから!  全部見えているよっ!!」 サンドルフが言ってから大声で笑うと、サンサンも、そしてセイランダたちも大声で笑いました。 どうやらセイランダたちの正体を知っているようで、遊ぶ気分にはなれないようです。 「逃げたら、捕まえて食べちゃうっ!!」とセイランダが言うと怪鳥はひとつ羽ばたいて空に浮かびましたが、セイランダは簡単にその位置まで飛び上がって、怪鳥に向けて苦笑いを浮かべています。 怪鳥はさらに怖くなったようですが、ここは逆らわない方がいいと思って、羽ばたくのをやめてゆっくりと地面に降りました。 そしてまたサンサンの影に隠れたので、全員で大笑いしました。 近くにいれば慣れるだろうとサンドルフは思って、昼になったので食堂に向かいました。 「あ、いらっしゃぁーいっ!」と今来たばかりのヒューマノイドが愛想よく言いました。 ランスの言いつけで、星に誰かがいる時は昼に厨房に立つように言われていたのです。 さらに、ランスの言うことを聞いていると、必ずいいことがあると、ヒューマノイドたちのうわさになっているので、誰も嫌がりません。 「えーと、影何号君?」とサンドルフが聞くと、「はい、影99号ですっ!!」と元気よく答えました。 「おしいねっ!!」とサンドルフが言うと、サンサンたちも大声で笑いました。 「あはは、100号は着飾って厨房に立ってるんです。  でもね、それほどうらやましくないかなぁー…」 影99号は言って、サンドルフたちに笑いを提供してます。 「あ、でもね、僕って、実質100台目なので。  プロトタイプの影ゼロがいますから」 影99号が言うとすぐに、「100番目、おめでと―――っ!!」とサンサンがもろ手を上げて言いました。 そしてサンドルフたちも、影99号に拍手を贈っています。 影99号はうれしい気持ちをもって、早速サンドルフたちに注文を聞いてから、丁寧に料理を造り始めました。 「へー… みんなとは違うね…  まるでサンサンみたいだっ!」 サンドルフの言葉がうれしかったようで、「まだ見習いのようなものですから…」とかなり謙遜していいました。 影が造るものは、味は全て同じです。 ですが、今までにないほどのいい香が辺りに立ち込めました。 「いやぁー、もうすでにおいしいんだけど…」とサンドルフが言うと、サンサンも超高速でうなづいています。 セイランダたちもタレントたちと顔を見合わせています。 「ほかの人たちとぜんぜん違うっ!!」とセイランダがかなりよろこんで言っています。 「はぁー、やっぱり…  さすがプレミアムオブ影だねぇー…」 サンドルフが感慨深く言うと、「本当にうれしいですぅー…」と涙を流しながら配膳を始めました。 「しかもキレイだっ!  食べるのがもったいないほどだよ…」 サンドルフは本当に感動しています。 サンサンも影99号のように涙を流して喜んでいます。 「あ、ですけど、暖かうちに…」「ああ、そうするよっ!!」 影99号の言葉にサンドルフはすぐに答えて、みんなでいただきますを言ってから、箸を手に持ち、ひとくち口に入れました。 「…んんんーっ!!」と五人とも感嘆の声と驚きの顔を見合わせました。 「…あー…  言っちゃうと、メリスンさんに叱られるけど…  誰が造ったものよりもおいしいよっ!!」 サンドルフが叫ぶように言葉を発すると、影99号はうれしさのあまり号泣を始めました。 怪鳥が大きな翼で影99号の頭をなでているしぐさを見て、サンドルフたちは大声で笑い始めました。 「あー、すっごく、充実したお昼だった…  だから食べ過ぎちゃったよ…」 サンドルフが言うと、サンサンたちも同様に、お腹をさすっています。 「腹ごなしに、基礎体力訓練してくるから」とサンドルフが言うと、利家だけがサンドルフについていきました。 サンサンが少し怪訝そうな顔をセイランダたちに向けると、「ダイゾじゃない分、体力的には満足していないようなんだよね」とタレントが言いました。 「えー、でも…」「そうなんだけどね…」とサンサンの言葉にすぐにセイランダが答えました。 「サンサンちゃんの知っている通り、利家って誰よりもタフなの。  でもね、それは違ったの…  かなりのやせ我慢をしてるって…  動物だからね、それはできることなんだけど…  やっぱり辛いから、  きっちりと基礎体力訓練に励もうって思ったようなの」 セイランダが言うとサンサンは、―― 見習わなくっちゃっ!! ―― と決心しました。 サンサンは、今持っている術の確認を始めました。 「えーっ! うっそぉ―――っ!!」とサンサンは叫び声を上げて宙に浮かびました。 「…私、飛べたんだ…」と言って、サンサンはぼう然としています。 セイランダたちはサンサンに拍手を贈っています。 「あはっ! みんな、ありがとっ!」と言ってサンサンは囲いの中を縦横無尽に飛び回り始めました。 当然、サンドルフも手を振ってサンサンを笑顔で歓迎しています。 ですがサンドルフが驚かなかったことに、サンサンは残念に思っています。 セイランダたちの下に戻ったサンサンは、「…驚いてくれなかった…」と言って落ち込んでいます。 「知っていたか、驚かないことが修行…」とセイランダが言うと、サンサンは、「そう、なのかなぁー…」と言って遠くにいるサンドルフを見ています。 「はい、サンサンちゃんは術を確認することが修行よっ!」と、セイランダはサンサンのコーチように言いました。 「うっ、うんっ!」とサンサンは元気に答えて、次の術を試しました。 サンサンはいつの間にか眠ってしまっていました。 目を開けると、「あ、起きた起きたっ!」と言ってセイランダが喜んでいます。 「…あー、私… 夢中になりすぎちゃった…」とサンサンは言ってから、猛反省を始めました。 「そうね、気合の入れ過ぎね。  注意したかったけどね、これも修行…」 セイランダに言われてサンサンは、「うん、すっごくよくわかったの、ありがとっ!」とセイランダに心からの感謝をしました。 「小休止しよう」とサンドルフが言って、影99号が手ぐすね引いて待っている食堂に向かいました。 「はーい、いらっしゃぁーいっ!!」と影99号は陽気に言って、サンドルフたちを出迎えました。 「少しおなかもすいたことだろうから、デザートを作りましたぁーっ!  飲み物はドリンクサーバーからどうぞっ!」 サンドルフたちは影99号に笑みを向けて、好みの飲み物をもらってきました。 すると何もなかったはずのテーブルの上に、見た目にも鮮やかなデザートが、ところ狭しと並んでいます。 「うわぁー、すっげぇーっ!!」とサンドルフたちは感嘆の声を上げて、早速席について、影99号に礼を言ってから食べ始めました。 「あ、これはまた食べ過ぎてしまう…  …いや、でも、おかしい…」 サンドルフが怪訝そうな顔をして、デザートの山を見入っています。 そして一口食べた時、昼食時の料理と似たような感覚に陥ったのです。 食べるとごく普通にお腹が膨れて満足するのですが、空腹感までの時間が短いのではないかと感じたのです。 「何か特別なこととかやってるの?」とサンドルフが聞くと、「あはは、それは秘密なんだよねぇー…」と影99号は笑顔で答えました。 この謎を解くことも修行としたサンドルフは、心を入れ替えてデザートを堪能しました。 覇王が食べていた、『食べてください野菜』のようなものだろうかと考えましたが、デザートが話しかけてくることはありません。 薬だろうか、などとも思いましたが、妙な味やにおいなどを感じることはありません。 となると、食材に秘密があるのだろうと感じて、サンドルフはサンサンのようにひとつひとつ丁寧にゆっくりと食べ始めました。 そのサンサンは、料理とデザートの秘密に気づいたようで、食べ過ぎないように腹八分目でごちそうさまを言いました。 「えー、そんなぁー…」と影99号がサンサンを見て嘆いています。 「だって食べ過ぎって毒だもんっ!!」とサンサンが元気に言うと、セイランダもサンサンに倣うようにごちそうさまを言いました。 「そこを何とかっ!!」と影99号は頭を下げて嘆願を始めました。 サンドルフはかなり愉快だったようで、「僕は付き合うよっ!!」と言って、全てを食べ尽くすかのようにもりもりと食べ、デザートをつまんでいきます。 そして、サンドルフはあることに気づいて、少し笑ってしまいました。 「食べ過ぎてわかるってっ!!」とサンドルフが言うと、サンサンは驚いています。 どうやら、サンサンは無味無臭の薬を入れていると感じていたようですが、サンドルフの様子からそうではなかったと思い直したようです。 「食べ過ぎても問題ないよっ!!」とサンドルフは言って、またデザートを摘まもうとしましたが、セイランダにインターセプトされてしまいました。 サンサンも気を取り直して、笑みを浮かべてデザートを食べ始めました。 そしてサンサンもこの不思議なデザートの真意に気づいたようです。 影99号は回答を言って欲しくないようなので、何も言わず笑顔のままです。 テーブルの上にあったデザートを全て食べつくしたサンドルフたちは、影99号に丁寧にお礼を言って、少しだけ歓談してから、それぞれの修行を開始しました。 しばらくしてから、サンドルフとサンサンは復習とばかり、温い組み手を開始しました。 サンサンの成長の勢いは止まらず、そしてそのスピードも異様に速くなり、サンドルフに苦笑いを浮かべさせました。 ですがサンサンには弱点があります。 トップスピードになると、サンサン自身の重みで簡単には止まることができなくなるのです。 当然この時に隙ができるので、サンドルフは集中して攻撃を重ねます。 もちろんサンサンはわかっているのですが、今すぐに修正は無理なので、これも修行としたようです。 … … … … …
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